7問目 変化
そんな悔しいことがありつつも、彩は三年生になった。カメレオンのリーダーも二年目になり、その人気は絶大なものになっていった。一方、親太郎もナイトのナンバー2ということで後輩達から兄のように慕われていた。戦闘力ではナンバー2の桃太郎と肩を並べ、爽やかで親しみやすいキャラクターから好かれていた。互いに絶叫学園第一高等学校内で力をつけている中、大きな変化が起きた。それは絶勝学園第一高等学校との体文化育祭によって森白雪の心境が変化したことだ。我儘で誰よりも己を愛し、自分しか見えてなかった白雪が最も傍にいた桃太郎の怒りを見て、その性格を変えようとし始めたのだ。
「私は校長先生との対決は辞退するつもりよ」
フェアリーテイル結成前から一緒にいる、髪がだいぶ伸びた古株を白雪は見つめた。
「今までのことを思うと、もう遅いかもしれないけど、私にはサイキョウに挑戦する資格はないわ」
「てか、サイキョウを目指していたんだな。プリンセスサークルを作りたいだけかと思っていたわ」
親太郎は意外そうに目を丸くした。容赦のない言葉に白雪は気まずそうに目を逸らした。
「そうだけど、やっぱり何事もナンバーワンがいいのよ。でも、そうじゃないって気づいたわ」
白雪は少し頬を赤めて桃太郎を見た。桃太郎は変わった白雪に感動しており、気づいていない。体文化育祭から、桃太郎の想いは白雪に届き、白雪は桃太郎に好意を抱き始めていた。それを一年生から、髪を伸ばしてまで望んでいた本人は気づいていない。
「それでもうサイキョウを目指すことはできないけど、もし、リーダーになる夢があって、私が奪っていたとしたら、その」
言いにくそうに口を動かす白雪に親太郎は首を横に振った。
「俺はリーダーになりたいとかそんなこと思ったことは一度もない。最後までフェアリーテイルのリーダーでいろよ。それが俺の望みだ」
いくら我儘で自己中心的な人物だったとはいえ、フェアリーテイルという多くの生徒が所属する派閥のトップにいたのだ。最後までその座にはいなくてはならない。リーダーが自分からその座を降りるのは、今までついてきた生徒達にどんな顔をすればいいのか、わからなくなるほどの裏切り行為だ。
「わかったわ。そうする」
「それに、俺の目的はそれじゃないからな」
桃太郎を見て、親太郎は初めて白雪に爽やかに笑ってみせた。
大きなリボンのマントを羽織った四郎は姉に見つからないように女子達の視線を集める法史の教室に来ていた。
「法史くん」
体文化育祭で知った法史の想い人である紫陽花の声で法史を呼べば、わかりやすいほど嬉しそうな法史が教室の入り口の方に近づいて来た。
「あれ?」
「お前の想い人はいないよ」
「南四郎・・・お前、酷い悪戯をするな」
入り口付近に立つ四郎を見て、法史は少し不機嫌な顔をした。しかし、そんなことを気にすることなく四郎は法史に尋ねた。
「指元親太郎は好き?」
法史が意味が分からないといった表情で四郎を見つめるので、四郎はもう一度同じことを尋ねた。
「なぜ親太郎さんの話をする」
「いいから答えなよ」
「好きだ。とてもいい人で、強い。尊敬するべき人で、フェアリーテイルには欠かせない人」
真顔で答えた法史に四郎は適当に相槌を打ちながら、法史の手を引っ張って空き教室に連れて行った。
「お前は指元親太郎が好き。僕は姉を尊敬している。家族であり、リーダーだから」
「そうだな」
誰にも見つからないように屈み、声を潜める四郎に法史は同じように屈んで頷いた。
「じゃあ、指元親太郎のためになることをしたいよね」
「どういうことだ?」
「姉は指元親太郎と交流があった。でも、一年生の頃に絶交している。理由はわからないけど、本当は絶交したくなかったはずだ」
四郎の話に法史は目を丸くした。そんな話、親太郎から聞いたことがなかったし、そんな素振りもなかったからだ。
「姉と指元親太郎を二人っきりにしたい」
体文化育祭の時、珍しく彩が親太郎を見ているのに気づき、一緒に踊るように説得したが、躱されてしまった。笑って自分と踊る彩を見て、親太郎と話をさせてあげたいと四郎は思った。
「そんなことが、親太郎さん」
「卒業式、うまくおびき出して。僕もやるから。きっと指元親太郎だって姉と絶交したままなんて絶対に嫌だろうから」
もし、これが本当の話だとしたら協力したい。法史はそれだけ親太郎を慕っていた。派閥に所属してから周りに馴染めない自分をよく気にかけてくれ、周りとの会話に馴染むようにしてくれた。そんな強く、優しい親太郎が法史は好きだった。
「よし、わかった」
「ミスるなよ」
法史は何度も頷いた。その目は少しワクワクしている。
「何、その目」
「なぁ、これって俺達もう友達ってことだよな」
「はぁ?」
四郎は口を大きく開けた。
「秘密の作戦、映画で見たことあるぞ。友達とのやつ」
ワクワクする法史とは対照的に四郎はめんどくさそうな顔をした。
「何でもいい。とにかく悟られないでよ」
「わかった」
こうして、次期リーダーとなる二人の秘密の作戦が始まった。
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