幼馴染 III

己の屋敷に件のお転婆と坊ちゃんが駆け込んできたことがある。学修院に通って、もう二三年過ぎたばかりの頃であったはずだ。お転婆は両の手に何やら卵とガラス瓶なんかを抱えて、坊ちゃんはあの大きな屋敷から持ってきたのだろ、氷の入った木桶なんかを持ってきて居た。己と片割れは首傾げて、とりあえず屋敷に上げた。なんせこんなにお転婆でも華族の坊ちゃんとお嬢さんである。それなりにもてなさにゃならぬ。屋敷の、己の狭い部屋に通すと、彼奴らは御前たちも双子だったのかいと聞きたくなるような協働で、そそくさと何かの準備をした。あいすくりんを作るのよ。ほう。ブリキの缶に卵とたっぷりの牛乳を入れた。氷がガラガラ音を立てる桶に突っ込んだ。お転婆に云われて己と片割れはかわりばんこに缶をガランゴロと回した。そろそろ良いだろ。ほう。己と片割れは小皿と匙を勝手場からこっそり取ってきた。あとでこっそり洗って置けばよかろ。お転婆はうふふと笑って缶を開けた。あいすくりんの色は白とも黄とも違って、周りの空気すらひんやりとして、少し甘い匂いがくすぐったかった。昼間の、母親の居らぬときであるから出来たちょっとした悪さである。小皿と匙を持ち出したことは母親には気づかれんかった。あの夏は、今でもよくよく忘れられんものである。

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