幼馴染 I

己には幼馴染と呼べる人間ひとがふたり居た。ひとりは女、もうひとりは男である。女の方は街で一番大きな川の、桜並木が見える邸宅に住む、生粋の令嬢であった。可愛らしく、物を知らぬ、箱入り娘である。これは比喩。ホントのところは、箱なんて狭くてちぃちゃくて暗いとこには収まらん、お転婆な娘であった。初等部に入りたての餓鬼であった己たち双子と、もうひとりの幼馴染で、柿の木に登って落っこちたことがある。己たちは仲良く骨を一本ずつ折った。今でこそ学友を見本にお淑やか気取っちゃいても、当時なんて本当に餓鬼であった。己たちは身分というものが幼馴染共より低く、初等部から学修院に通ったもんだから、初等部前の女の様子は知らぬ。知らんが、まァ、知ってる姿と大して変わらんとも思っている。男の方はと言えば、面白いことにお転婆娘に首ったけであった。知っている。お転婆娘は何を血迷ってかこんな己が好きだから、男は己を見る度にハンカチでも噛み締めるんじゃねェかと云う顔をする。きっと女は柿の木から落ちた時に変なトコを打ってしまったのだろ。己はそれを少し愉しんでいる。男も女と変わらん程の身分である。女の家の近くにある邸宅に住む。こちらも生粋の坊ちゃんである。己たちは、成り上がった商人の家の子である。

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