第23話 数年後…

あの電話から数年の月日が経った。

僕はすっかり女性不信になり、それから一度も交際した事はない。


ある日の深夜、電話が鳴った。

僕はびっくりして思わず出てしまった。

すると…


「あ、田口さん?

 私、夏美の母です。

 覚えてますか?」

夏美の母親からの電話だった。


「………はい、ご無沙汰…しております。」

そう戸惑いながら返事した。


「あんたは、元気でやってるの?」


僕はさっさと電話を切りたかったので

「一応生きてます。あの…何の御用でしょうか?」

と要件を聞いた。


「実は…夏美が家を出てしまってね…」

「家を出た?」


「あれから一ノ瀬さん…

 東京で一緒に暮らしていた男が狂ったように家に押し込んできてね…

 ちょっとした事件になっちゃって…

 狭い村社会だから 近所でも噂になってしまってね…

 それ以来、家族とも折り合いが悪くなってしまって…」

「…そうですか…」


「それで、私が知り合いの人に連絡してるんだけど…

 あんたの所には…」

「いや、僕は知りませんよ。」


「…そうだよね…私も庇い切れなかったのが悪いんだけど…

 本当…あの時家族にもあんたとの事を全部話して、

 結婚させてしまえば良かったって…」

夏美の母親は少し泣いているようだったが、


「あの!申し訳ありませんが、僕は知りませんし、

 もう関係ない話なので、失礼します!」

そう言って僕は一方的に電話を切った。


・・・


その電話から数ヶ月後

僕は新宿で買い物をしていた。

近道をしようと人通りの少ない道を入った。

そこで男女のトラブル?の現場を目撃した。

男性が女性を平手打ちしていて

「ごめん。ごめんね…ひろくん。」

女性がしきりに男性に謝っていた。

男性は女性を置いて、そこから立ち去った。


嫌なものを見てしまったなと思い、すぐに横を通り去ろうとすると

「ま…まーくん?」

と呼び止められた。


夏美だった。

相変らず美人だが、少し顔には傷があって、服装も…

あまり良い環境で生活していないように見受けられた。


「…凄い偶然…久しぶりだね。

 東京に居たんだ…でも、何?」

僕は冷たく返事をした。


「あ…ごめんなさい。懐かしくなって…つい…」

夏美は俯いた。


「数か月前だけど、君のお母さんから連絡を受けたよ。

 居場所を知らないかって…」


「そうなんだ…」


「連絡くらいしてあげたら?」

と僕が言うと


「…無理…」

と悲しそうな表情をしていた。


僕は関わりたくないので

「そう…余計な事言ったね。

 じゃあ!」

と立ち去ろうとすると、


「あ…あの…」

何かに縋るような目で夏美は声を掛けて来た。


それだけで何となく何が言いたいのかは分かった。

だから僕はこう言った。


「助けて欲しいの?」


その言葉を聞いて、一瞬、夏美の目は希望と期待に満ちた目になった。

「え?…あ…あの…私…今度こそ、まーくんに…」

だから夏美の返事が来る前に僕は言ってやった。


「助けて貰えば良いじゃん!また家族に!

 ちなみに僕はもう助けないよ。

 だって助けても裏切られるだけだし…」

一瞬、絶望した表情が見えたが、そのまま振り返る事なく、僕は夏美から離れた。


遠く離れた後にどうやら男の人が戻って来たみたいで

また叩く音が聞こえた。

「もう叩かないで!ひろくん!」

そんな悲痛な夏美の声が聞こえた。


振り返り、もう一度夏美を見た。

胸が痛んだ。

でも僕はもう…関わりたくない…

僕はその場を去った。


一応、夏美の母親には手紙を出した。

新宿で夏美を見かけました。

危ない男と一緒でした。

後は探偵を雇うなり、警察に連絡するなり、自分達で対応して下さいと。


それから夏美がどうなったのかは僕は知らない…


・・・


夏美との出会いから20年…

僕にも家族が出来た。

僕の奥さんは美人というわけではないが夏美との出会いや出来事を知った上で、

それでも不貞腐れている僕に愛をくれた女性だ。

感謝している。


当時夏美には散々振り回されたし、

数えきれない程抉られた僕の心は未だに何かが欠けている気もするが

最後の別れ方については、どんな行動を起こすべきだったのか?

…未だに分からない…

後悔してる?それも良く分からない…

ただ1つ…分かっているのは…当時の僕は世間知らずで愚かだった。


夏美の事は憎んでもいたが、一度は心から愛した女性だ。

今では幸せに暮らしていれば良いなと思っている…




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僕が最も愛し、憎んだ人へ… まかろん @masakazu774

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