第20話 もう二度と家に帰れないよ…

あの事件から数ヶ月後…

厳しい寒さも和らぎ、春になった。

あれから…夏美からの連絡はない…

もう就職活動も終わった頃ではないか…やっぱり…嘘なの?

そんな事を思うようになっていた…


ある日、見知らぬアドレスからメールが来た。

夏美だった

夕方時間が出来たから会えるとの事だった。


僕はそわそわして指定の場所に向かった。

「久しぶり!」

懐かしい夏美の声を聞いたが、僕は愕然とした。

夏美が物凄く濃い化粧と派手な恰好をしていたからだった。

僕と会っていた時はあどけなさもあったのに、

すっかりそんな姿ではなくなっていた…


「今…キャバクラで働いているの…No.1なんだよ?あはは!」

お酒を飲んでいるのか夏美はちょっとハイになっていた。

「就職活動はまだ終わってないの?」

僕がそう聞くと、

「まだ終わってはいないけど、小さい会社なら受かったよ。

 だから保険はできたって感じ!」

そうあっけらかんと夏美は答えた。


「じゃあもう支える必要ないじゃないか!!!

 何で戻ってこないの?

 何でキャバクラで働いちゃダメって言ったのに約束破ってるの?」

と僕は怒った。


すると夏美は聞きたくなかった驚愕の言葉を言い放った。

「何か…色々あって…疲れちゃった…

 私…振り回された方が良いのかもしれない…

 まーくんだってさ…私が出て行く時に必死に止めなかったじゃない?

 男なんだからさ…」


「はぁ?

 僕の必死さが足りなかったって言うの?

 君を監禁でもすれば良かったって言うの?」

僕は怒って夏美を責め立てた。


「………」

夏美はいじけたようにそっぽを向いた。


「君の意志を尊重して…君を信じていたのに…

 信じた僕が悪かった…そう言いたいの?」

僕が泣きそうになりながら言うと


「あーーーはい、はい。

 分かった。

 きっと会える時間作るから。

 それでホテルでも行ってさ…」

夏美は少しめんどくさそうに話した。


もう…僕の言葉は彼女の心に響かないって思った…

僕は…もう…


それから僕と夏美はまた連絡をする約束をして別れた。


別れた後、僕は考えた。

例え…もう夏美と付き合えないとしても…あんなのはダメだ…

あんな自棄になったら…誰も救われない…


そう思い、僕は最後の手段に出た。


夏美は嫌がっていたが、僕と夏美の出会いからを全て夏美の親に伝えよう。

自棄になっている彼女を救って欲しい…そう言おうと。


僕は夏美の実家に手紙を書いた。

僕との交際はもうどうなっても良いから、

せめて自棄になっている今の夏美を救って欲しいと…


・・・


1週間くらいして電話がかかって来た。

夏美からだった。

「まーくん…何で親に話したの?

 卑怯だよ!!!」


「卑怯って…そういうのじゃないだろ?これは…

 僕とまた付き合う云々じゃなくて、夏美おかしくなっているよ。

 こんなの誰も救われないよ…

 だから夏美の親に全てを話して、救って欲しいって言ったんだよ。

 険悪の仲なのかもしれないけど、あの時も実家に帰れたんだから…

 きっと夏美の力になってくれるよ…」

僕は弁明すると


「そんな事まーくんが勝手に判断しないでよ!!!

 ほっといてよ!!!」

夏美は本当に怒っていた。


「夏美が自棄になってるのに…ほっとけないだろ?」

僕が反論すると


「帰れないよ…」


「え?」


「もう二度と家に帰れないよ!!!

 帰れないよ~~~!!!」

そう言って夏美は泣きだした。


「そ…そんな事ないよ…」

僕は戸惑いながらもそう夏美を諭したが…


「もう二度と余計なことしないで!!!連絡しないで!!!」

そう言って夏美からの電話は切られた…



 






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