第21話 対峙…

もう…夏美から連絡は来ないだろうな…

僕はこれまで一体何のために…

せめて…夏美にまともな価値観と生活が戻れば良いな…

そう思っていた。


ある日見知らぬ電話番号から電話が来た。

出ると、夏美の母親からの電話だった。

何でも明日上京し、娘と同居人と会うとの事で

僕にも同席を頼まれたのだ。

僕は了承し、再び夏美と同居人と会う事になった。


僕と夏美の母親は一足先に会う事になり

手紙ではお伝えしたものの、

僕はこれまでの経緯を夏美の母親に話した。

「…まだあんたの言う事を全部信じたわけじゃないけど…

 あんたに夏美は世話になり、迷惑をかけた事は事実だと思っている。

 娘に代わり謝罪します。申し訳ありませんでした。」

夏美の母親は頭を下げた。


「いえ…こちらこそ傷つくような手紙を送りまして…」

僕も頭を下げた。


「今日は娘にはっきりして貰おうとあんたに来てもらった。」


「はっきり?」


「娘にあんたか一緒に暮らしている男、どちらと結婚する気があるのかを!」


僕はその言葉を聞いて冷や汗を書いた。

多分今の状況で僕が選ばれるわけがない…

それをはっきりと言われるのが辛かった…


時間になり、僕と夏美の母親は指定された店で待っていた。

暫くすると、夏美と同居人が来た。

「夏美ちゃん、お母さん心配で来ちゃったよ~!!!」

夏美の前では甘い母親の姿があった…


二人が座ると夏美の母親は世間話も早々に本題を話し始めた。

「この人から大体の事情は聴いた。

 この場ではっきりさせておきたい事は1つ。

 夏美!!!この人と今一緒に暮らしている男、どちらと結婚する気があるんだ?」

夏美は答えをはぐらかそうとしていた。

でも夏美の母親はそれを許さなかった。


そして…

「私は…かっくんと一緒になります。」

そうはっきりと答えた。

夏美の母親は一瞬僕に悲しそうな顔を向けて、

「じゃあ…ここの料金はあんたたち払って頂戴ね!

 夏美とこの人をもう会わせるわけにはいかないから!

 行きましょう!」


そう言って、僕は夏美の母親と一緒に店を出た。

夏美の母親は

「あんたにとっては辛いと思うけど…

 一応私が来た事が禊だと思って…

 納得してくれないか?」

そう言ってきた。


僕は

「はい…お母さんがわざわざ来て下さったんです。

 ケジメはついたと思います。

 ありがとうございました。」

そう言って僕はその場を去った。


分かっていたけど…辛いな…僕は涙を堪えながら電車を降りた。

すると夏美の母親から電話がかかって来た。

電話をとると驚くべき事を言われた。

「あんな場で決めさせるなんて酷いって

 別れるにしてもきちんと話も出来なかったって

 娘に泣かれちゃってね…

 申し訳ないんだけど、あんた夏美と一回だけ会ってくれないか?」

そう頼まれた。


正直断りたかったが、わざわざ僕たちの為に来てくれた夏美の母親に

感謝はあったのでそのお願いを聞くことにした。


指定の場所にいると夏美が待っていた。

僕は素っ気なく

「何?言いたい事って…」

と質問した。


「そんな言い方しなくても良いじゃん!

 私だって急にあんな事言われて…」

と悲しそうな顔で答えた。


「何で君がそんな悲しそうな顔するのさ…意味が分からないよ…

 僕は選ばれなかった…それが全てだろ?」

僕はそれしか答えようがなかった。


「ちょっと待ってよ…時間頂戴よ…」

夏美は何故かそんな風に懇願してきた。


「待つって…もう冬から半年も経ったよ…

 自棄になっている君を助けるために君のご家族に話をしても君は怒るし、

 もう何をしたら良いか僕には分からないよ!

 だから僕はもう動かないよ!

 何か不満があるなら、夏美が動いてどうにかしてよ!」

そう言って一方的に僕は夏美の元から去った。

 





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