第16話 人生最悪の日… その1

それから年末まではこれまでの嵐が嘘のように安息の日々が続いた。

これまで大手を振って出来なかった事もした。

ディ〇ニーランドに行ったり、映画に行ったり、一緒にお洒落なディナーをしたり…


特に夏美は人目につく所では常に注目される程の容姿である事もあって

僕は、優越感に溺れていた。


夜は毎日愛し合った…

これまでの苦労が報われる思いで、格別な日々だった…







が、そんな日々は1週間と続かなかった…







2000年元旦、21世紀初めての元旦…

僕は夏美に

「明けましておめでとう、今年もよろしくね♪」

と挨拶し、夏美もまた

「おめでとう♪さ…姫始めしよ♡」

と挨拶と共に新年早々に愛し合った。







そして、翌朝…今でも忘れる事が出来ない僕のトラウマ…

人生最悪の日が始まる…


朝起きて食事中に夏美が慌てて言ってきた。

「どうしよう…まーくん、かっくんから返事がないの!」


僕はその言葉を聞いて怒った。

「どういう事?

 まさか…連絡を取り合っていたの?」


夏美は

「だって…あいつメンタル弱いから

 急に連絡を取らなくなったらどんな事しでかすか分からないから

 ゆっくりフェードアウトするのが一番良いと思ったの!」

と答えた。


「彼がどうしようが、どうなろうがもう関係ないよね?

 そもそも自分だって前の彼氏を強引に別れさせたって言ってたよね?

 今度は自分がそういう目にあっただけで…自業自得だよね?」

僕は夏美を責めた。


「でも、あいつ…就職も碌に出来ないで…私にも捨てられて…

 せめて何処かに受かるまでは心だけでも支えてあげないと…

 まーくんは頭も良いし、一流企業に勤めているし、

 才能あるんだよ…

 出来ない人間の気持ちって分からないんだよ…」

夏美は俯いて訴えた。


「ちょっと待ってくれ!

 別に僕は何もしないで今の会社に入れたわけじゃない!

 それこそ皆が笑っている時に苦しんで努力してそれでやっと勝ち取ったんだ!

 それを才能があるとか…そんな言葉で片付けられない位努力したんだよ!

 気分転換で海外旅行なんて行けるご身分と一緒にしないで欲しい!!!」

僕も必死で訴えた。


「でも、もしも本当に自殺とか図っていたら…

 私達一生心に消えない傷残っちゃうよ?

 もし遺書とかでまーくんの会社とか書かれたら…

 会社の人にも迷惑かけちゃうんじゃない?

 何でもないなら良いの!

 でももしもを考えたら…今行けば間に合うかもしれないし!!!」

夏美は震えながら泣き叫んでいた。


「そ…それは…」

確かに僕個人ならともかくお世話になっている会社に迷惑がかかるのは忍びない。


僕な泣く泣く夏美に同意し、一緒に同居人の住まいに行く事にした。


・・・


電車に乗っている最中に夏美は呟いた。

「…本当に好きな人とは…結ばれないのかな…」

僕はため息をつくしかなかった…


電車から降りると僕らは走って同居人の住まいを目指した。

同居人の住まいはアパートで鍵が開いていた。

夏美が声を上げたが反応がない。

仕方がないので僕と夏美は勝手に部屋に乗り込んだ。

すると…倒れている同居人がいた。

夏美は同居人に近づき

「かっくん!!!かっくん!!!」

と揺さぶりながら叫んだ。


倒れている同居人の周りには大量の粒状の風邪薬が散らばっていた。

どうやら、かなりの風邪薬を飲み、自殺?を図ったらしい…


「何でこんな事したの?

 ごめんね。ごめんね。かっくん!!!

 ううっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


僕はただ最愛の彼女が懺悔して泣き叫ぶのを黙って見るしかなかった…


21世紀が始まって早々…世間はめでたい日のはずが…何でこんな事に…

間違いなく…これまで生きていた中で最悪の日だった…






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