第9話 新天地…

翌週の休日から僕と夏美は不動産屋さんに行き、賃貸を見回る事にした。

正直時間がないのだから適度な物件にすれば良いのにと思っていたが、

彼女のこだわりは強く、かなり難航した。


何でも同居人の所には大家さんに内緒で暮らしていた事もあり

かなり肩身の狭い思いをしていたらしく、その反動があるみたいだった。


その他新生活で必要な家電等も二人で選んで予約した。

ここでも彼女のこだわりは強く、ちょっとした喧嘩にもなった。


近くにいるとお互いの嫌な面も見えてくる。

そう実感しつつも、準備の合間に夏美は僕の両親にも会ってくれたし、

彼女なりの真剣さを感じる事が出来たので

僕は彼女を信じて、一人でやれることは全部一人で準備した。


・・・


そして当日…

いよいよ夏美を待つだけの状態となった。

僕は一人で新住居で待っていた。

やたらと時間が長く感じる。

上手く出て行けるかが心配だった…


ここに来る前、僕は夏美に提案していた。

同居人に本当の事を話し、

スッキリとした形でこちらに来た方が

後々面倒な事から避けられるのではないのか?と。

勿論話した時にはそれなりの修羅場は覚悟しなければいけないが…


すると夏美は

「逆上すると大変な事になると思うの。

 まーくんを危ない目に遭わせたくない!

 同居人は明日飲み会があり家を空ける。

 その時間帯を利用して引っ越すと。

 彼に直接話をするとパニックになるだけだから

 冷静な期間を置くためにも手紙で書置きして出て行くのが一番良いと思う。」

そう言って僕を止めるので、僕は彼女の言葉を受け入れそうする事にした。


確かに逆上して僕はおろか夏美にも危害を加えたら目も当てられない

時間というのは人を冷静にさせる1つの有効な方法だと考えたからだ。


そんな事を考えている内に夏美から無事に出てこれたという連絡があった。

僕は心からほっとした。

2時間後夏美の荷物が新居に届いた。

僕が受け取りをしている最中に夏美が新居にやってきた。

引っ越し業者の人がいたので何も出来なかったが

僕はすぐにでも夏美に抱きつきたい気分だった。


荷物の受け取りが終わる頃

夏美が僕に小声で

「ちょっと裏テクニック使うから、まーくんは外に出て飲み物でも買ってきて。」

と言ってきた。


僕は疑問に思ったが言われたとおりに一旦外に出て

急いで近くのコンビニに行き、飲み物を買い、走って家に戻った。

夏美の行動が気になったからだ。


ドアが少し空いていたので覗くと

「え~~~ちょっと高いな~もう少しどうにかなりません?」

夏美が妖艶な表情で引っ越し業者の男に迫っていた。

引っ越し業者の男は、少し顔を赤らめていて、

「いや~、消費税はまけますが…これ以上は僕には…」

そう言っていた。


すると夏美は、

「ふぅ~…ちょっと暑いな…」

そう言って少し服を着崩して、横目で引っ越し業者の男を見つめた。

僕は沸々と怒りが湧き

「ただいま!」

と大声で言った。


引っ越し業者の男は慌てて

「じゃあ、これ請求書です。」

と夏美に渡した。

夏美はちょっと不満そうな表情で、お金を払い

引っ越し業者の男は帰っていった。


僕は凄く不機嫌な表情で

「どういうこと?何でこんな事してるの?」

と夏美を責めた。


夏美は

「可愛い女の子は良くやっている手だよ♪」

とさも何でもないように言ってきた。


僕はまるで危険性が分かっていない夏美を怒った。

「そんな事する必要ない!

 あんな怪しい雰囲気醸し出して…襲われたらどうするの!」


「その位簡単にいなせるよ♪

 も~う…ヤキモチ焼かないの♪」

そう言って僕の頬にキスをした。


僕は彼女との価値観の違いとこれからの生活に不安を覚えたのだった…


 





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