第8話 連絡…

電車の中で何回か電話が鳴った。

夏美からだった。

でも僕は、電話を取らなかった。

そして2時間かけて自分の最寄駅に着いた。

駅のベンチに座って、暫くボーっとしていた。

電車が何回も止まり、走り去って行く…

自然に涙が溢れていた…


ふと周りをみるとカップルが仲良さそうにイチャイチャしながら歩いていた。


僕は…どうして今独りなんだろう?

ただ信じていただけなのに…どうして?…

信じていた僕が馬鹿だったのだろうか?…

僕は暫く頭を抱えてしゃがみ込んでいた。


すると、ふわっと僕の頭は柔らかいもので抱きかかえられた。

とても良い匂い…暖かい…

そう感じていると

「ごめん…ごめんね!まーくん!!!」


夏美だった…

俺が去った後に急いで電車に乗り込んで俺を追って来たらしい…


僕はどす黒ろい感情を必死で抑えて努めて冷静に呟いた。

「…何しに来たんだよ…もう…ほっといてくれよ…」

「ぐすん…ほっとけないよ!」


その言葉を聞いて僕は感情が爆発した。

「勝手な事言うなよ!!!

 誰にせいで苦しんでると思ってるんだよ!!!

 裏切ったのは夏美だろ!!!

 俺よりも同居人を選んだんだろ!!!」


「心までは裏切ってないよ!!!

 身体は…仕方なかったの…

 ごめんなさい!!!」


「そんな詭弁!!!」


「じゃあどうしたら信じてくれる?」


「そこを出て行かない限り、もう夏美の言う事は信じられないよ!!!

 だっておかしいじゃないか!!!

 こんな関係!!!」


夏美は覚悟を決めたように答えた。

「…分かった…

 でも明日からとかは無理。荷物もあるし…

 1ヵ月待って!

 そうすれば、私…まーくんの所に行くから!!!」


「もう既に…2ヵ月は待ったよ!!!

 でも君は動かなかった!!!

 信じていたのに…

 そしてこんな事に…

 後1ヵ月待つ?

 何を信じろって…むううぅ!?」


僕は言葉を全て言う前に夏美の唇によって口を塞がれた。

夏美は僕の舌を絡めて来た。

僕はあっけにとられて成すがままになっていた。

何とも言えない官能が僕の脳を支配する…

初めての口づけだった…


どのくらい時間が経っただろう柔らかい唇が離れ、

僕と夏美の間に唾液の糸が伸びた。


「…これで…信じてくれる?」

夏美は縋るような目で僕を見た。


「くっ…こんなんじゃ…」

僕がそう言うと、更に夏美はキスをしてきた。


「じゃあ…信じるまで…ずっと続ける…」

頬を赤らめて彼女は夢中に僕の舌を絡めた。


女性の唇ってこんなにふわっとして柔らかいんだ…

舌はこんなに気持ち良いんだ…

もっと…もっと堪能したい…邪な欲求が僕を支配する。

されるがままだった僕は夢中になって自分で夏美の舌を絡めた。


強く吸い過ぎたのか

「んんんっ!!!」

夏美は少し苦しそうに声を上げたが、

僕への罪滅ぼしなのか成すがままに黙って僕を受け入れた。


そんな行為を30分程度繰り返した。

「はぁはぁはぁ…キスって少し苦しいんだね…」

僕が少し顔を赤らめて言うと

「はぁはぁはぁ…まーくんが…激しいからだよ。」

夏美は苦笑いをした。


「1ヵ月…それ以上は待たない!!!

 それに…もしまた同居人と身体の関係を持ったら…1ヵ月待たずに別れる!!!

 約束だよ!!!」

僕は強く言い放った。


「…うん…信じてくれてありがとう…」

夏美は嬉しそうに笑った。


そう…僕は彼女を許してしまったのだ…

これが後々の苦しみに繋がるとも知らずに…

この頃の僕はやっぱり…人の業というものが良く分かっていない…

世間知らずのお坊ちゃんだった…








 

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