第7話 人には言えない関係…
彼女が離れた後
「…どうして?彼は今日から戻って来たんじゃないの?」
僕は努めて冷静に質問した。
「うん…帰って来たよ…
でもさ…このまま、まーくんと別れるって嫌だったから…」
彼女は少し涙ぐんで僕に訴えてきた。
「いや…昨日も言ったけど…
この状況じゃ…無理だよ…
僕だって…辛いんだよ?」
つられて僕も泣きそうになった。
すると彼女は僕の頭を撫でて来た。
まるで母親がぐずっている子供をあやすかのように…
そんな事女性にやられた事がない僕は、必死にせき止めていた感情が一気に崩壊し、
「僕も…僕も…夏美ちゃんが…好きだ!!!」
思わず告白してしまった。
「でも…だからこそ…耐えられないんだ!!!
同棲しているって事は…そういう関係になる事もあり得るわけで…」
僕は俯いた。
すると夏美ちゃんは僕の頬を両手でつかんで無理やり僕の顔を自分の顔に向け
「かっくんとは絶対にしない!
約束する!
私は…まーくんが好き!
直ぐには無理だけど…絶対にまーくんの所に行く!
だから…だから…」
僕はいけないと思いつつも、彼女を強く抱きしめた。
耳元で彼女は囁いた。
「…これからは…夏美って呼んで!」
「…分かった…さっきのは約束だよ!
それから彼の事をかっくんというのは止めて欲しい…
恋愛感情がないのなら同居人と呼んで欲しい…」
「…うん…」
とても寒い日だった。
彼女は長い間待っていたからとても体が寒くなっていた。
その冷たさが彼女の僕に対する愛情の深さのように感じて…
僕は心は熱い想いで包まれた。
全てに納得したわけではなかったが、
この時、僕は夏美を信じて、この苦難を乗り越えようと思ったんだ…
この時から僕と夏美の人には言えない関係が始まった。
彼女の中では彼は僕の事であり、元彼は同居人…
そうである事を僕は信じていたんだ…
・・・
それから時間があれば僕は夏美と一緒にいるようになった。
暫くは僕にとって良い意味で刺激的な日々だった。
彼女は結構我儘で高飛車だったが、
それでも時折見せてくれる優しさは嬉しかったし、
母性本能が強いのか男心を擽るかのように甘えさせてくれる所があった。
僕はどんどん彼女に夢中になっていった。
彼女とお泊りもする事もあった。
けど僕は今の中途半端な状況でそういう行為するのは
流石に一線を超え過ぎていると思い、
手を出さなかった。
キスすらしなかった。
手を繋いだり、腕を組んだり、抱きしめたり…
それだけでも十分満たされていた。
一方で僕は、少しずつ彼女の嘘に気づくようになってきた。
同居人の暴力が本当に心配だったのだが、
少なくとも僕と付き合い始めてからは一度もそんな事なさそうだった。
暴力そのものは何回かはあったのは事実なのだろうが、頻繁にというのは
彼女の誇張表現であろうと僕は思うようになった。
彼女が僕が好きだという意思と彼女が暴力を振るわれる危険は少ない…
だから僕は安心してしまった…
こんな不安定な状況がいつまで続くわけがないのに…
そして………悪夢の出来事…昨日、今日に繋がっていく……
約束は必ず守られるもの…そう勝手に信じていた…
でも…現実はそんなに甘くない…
僕は…甘かった…
僕は電車の中で声を押し殺して泣いていた…
////////////////////////////////////////////
面白いと思って下さった読者様は
作者の励みになるので
♡や★評価宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます