写真の裏

明日ぼくはこの町を出る。


名前ばかりの主人であるお嬢様と、コイビトであることが、僕を買ったご主人様父親にバレたからである。娘はとてもマヌケだった。初めて出会った時に、人当たりのよい笑顔ではにかむだけで、ポッ、と頬を染めた。奴隷である自分はきっと物のように消費されるのだと思っていたが、なるほど、使える、そう感じた。


案の定娘は僕を酷くは使わなかった。精々部屋の掃除や、買い物の手伝いくらいであった。世の職業としての家政婦みたいなものである。予想より、暮らしはずっと楽だった。


廃棄を宣告されたその夜、お嬢様の部屋をこっそり訪ねた。先程捨てるのを躊躇っていた娘なら、もしかしたら他所へ行くのをなんとかして止めてくれるやも知れぬと考えたからだった。

やはり娘はマヌケだった。

最後まで自分に従うよう言うから、金を持って駆け落ちでもしてくれるのかと思いきや写真である。

どこまでもマヌケなご主人様だと思った。


二人が写った写真二枚を二人で分けた。

写真は捨てられないように隠したと答えたが、さっさと焼却炉に捨てた。

きっとお嬢様ともう会うことはない。

次はきちんと使える奴を見つけなければ。


翌日、僕はこの家を、この町を出て行った。

僕に名前すら付けなかった娘のことは、もう忘れた。燃やした写真の裏には、お嬢様の名前しか書かれていない。

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小咄集 明星浪漫 @hanachiri

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