写真

明日僕はこの町を出る。


お父様の決定だった。もう、あの子のそばにいてはいけないのだと言った。明日までに荷物をまとめろ、さっさと出ていけ。そうも言った。重く、鋭い声だった。そんな酷い言い方をしなくても良いじゃない。そう思った。


生来納得のいかないことには反論したくなる質で、直談判をした。

どうして出ていかなければいけないの、と。

お父様は、あの子とこっそり恋を育んでいたのが許せなかったらしい。薄汚い血を家に入れるわけにはいかないとまで言った。そんな酷い言い方が出来るなんて、大人とは恐ろしいものだと思った。


まだ大人になっていないのに、家のことを言われては反論が出来なかった。切り札として、あの子の所有者は誰であると思っているのか、と聞き返した。お父様は、お前だ、と答えた。


ならば、と言い募ろうとして、しかし、お父様が口を開く。

奴隷の所有者としての名義がお前でも、金を払って買ったのはおれだ。己が買ったものを捨てるも殺すも己の自由だ。


あんまりな言い分に、泣きながら部屋へ戻った。お前たちがどこかで会わないよう、遠くに捨ててやる。背を向けた向こうで、そんな非情な声が聞こえた。


しもべであるあの子とは、もう会えないのだと思うと、わたしは、目が溶けそうなくらい涙が出た。


こん。


扉が叩かれる。あの子が訪ねてきた。こっそり来てしまったと、はにかんだ。いつも一歩後ろに立ち、振り向くとその笑顔を見せてくれた。わたしはその顔に恋をした。覚えている。離れたらいつか忘れてしまうその笑い方を、忘れたくなかった。


そうだ。


わたしは僕に言った。わたしのモノである最後の時まで、わたしに従ってくれるわね、と。僕は、はにかんで、是と応えた。


わたしたちは、こっそり2人で写真を撮りに行った。

二枚現像されたそれを、二人で分けた。

裏に名前を書いて、誰にも見つからないように、わたしは一番下の引き出しへ、あの子は荷物の中にそっと隠した。


翌日、あの子はこの家を、この町を出ていった。


名前だけの主人であったわたしは、しもべを捨てたことになる。

わたしに捨てられたあの子は、一体どこへ行けばいいのだろう。

二人で撮った写真を見ても、あの子は答えてくれなかった。

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