第101話 エルフの策略

 東側、西側、南側の各エルフ軍はティターニアへ内側の城壁へと撤退していく。

 当初は、追撃の姿勢を見せていた同盟軍も、追撃を途中で中止し奪った外周の城壁を戻り始める。

 その光景を見て、今まで笑っていた映像を見ていた長老エリオンの顔から、笑みが消えた。


「どうしてじゃ? なぜ追撃せぬ!」


 いや、おまえが明らかに罠だって態度を取ったからな。

 追撃しないよう俺が魔王に進言したからだ。

 俺の心の声が聞こえたように、赤帯の長老エリオンが俺の方を睨む。


「き、きさま達、まさか何かしているのか?」


 俺の横で、ミアが首をブンブンと横に振りだした。

 ……ミアさん、それは何かやっている人の反応だからね。


「くっ、当初の予定と違い、魔王は捕らえられぬが仕方がない。ヤツの絶望する姿を見るだけで良しとするかのぉ」


 そう言うと、エリオンは収納魔道具で小さなスイッチのようなものを取り出した。

 それを俺達に見せつけニヤリと笑う。


「そこから仲間が無残に殺されていく姿を見ておれぇ!」


 エリオンがスイッチを押すと、外周の城壁から光が立ち上り、緩やかな弧を描きながら外周の中心へと進んでいく。

 外周から伸びた光は、ティターニアを囲む球状の結界となった。


「ば、バカな……この光は……」


 呆然とした顔つきのレイサルさんの口から、言葉がこぼれる。

 この光って……流刑の地の結界に似ているけど……魔王が有り得ないって言ってたよな。

 

「くっくくくく。あっははははは。これじゃよ。これ。あやつのこんな顔を見られるとは、長生きするもんじゃ」


 同盟軍本陣の画面に、魔王の愕然とした表情が映し出されていた。

 魔王エンツォのあんな表情、俺は初めて見た。これは完全に予想外の出来事のようだ。

 いつも未来でも見られるのかと言うぐらい頭がキレるのに、俺でも可能性に気づけたことをなぜ今回は見落とした?


「タクミ。大変よ。結界から出られなくなった仲間を助けようとして、結界の外にいる人がどんどん結界の中に入っていってるわ」


 ミアの指差す方を見ると、大混乱が起きている現場の光景が写っていた。

 まずい。結界の境界は一方通行だ。

 内側から外側へは出られないが、外側から内側へは入れるのだ。

 くそっ、アーサー、カルラ、ゲイルまで結界の中にいる。念話が繋がらない。


『エンツォさん、兵士に結界の中へ入らないよう急いで指示してください。あれは流刑の地と同じで一方通行の結界です』


『あ……ああ、そうだな』


『アーサー、カルラ、ゲイルとは念話が通じないので、急いで現場へ指示を! メルキド王には、こちらから伝えます』


『わかった。……タクミよ、すまんが頼みがある……』


 どうしたんだ。魔王らしくない。いつもの覇気が全く感じられない。

 メルキド王への連絡も急がないといけないのに……そう思っていると、既にミアがメルキド王へ念話で状況を説明してくれている最中だった。

 ナイスだ、ミア。助かる。


『ヤツらがどうやって新たに魔力炉を作れたか聞き出してくれ。そして……その過程で知ったことは誰にも言うな。この戦いで全てを終わらせる』


 その言葉の後、レイサルさんを見ると悲痛な面持ちをしていた。



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