第99話 タクミの罠
◇ 時は少し
俺達はエルフの罠にはまり結界に閉じ込められてしまったようだ。
そして、エルフの王サイロスと長老の3人がやってきた。
当然、こっちは携帯念話機を使って不測の事態に備える。
『タクミさん、申し訳ありません。私の不注意で捕まってしまいました』
『レイサルさん、大丈夫ですよ。この結界は力業で解除できます。ですが、せっかくの機会なので情報を引きだそうかと考えています。危なくなったら結界を破壊しますので、それまでお付き合い願えますか?』
『し、承知しました』
——サイロス王、長老達と会話していくうちに、どんどんレイサルさんの顔が青くなっていく。
魔力炉の原料のところでは、かなりのレイサルさんの痛いところを踏んだ感じだな。
映像を投影するだけのアーティファクトをそこまで自慢するとは、今の世の中の流れから完全に取り残されてるよな。
便利そうだから今度ミアと作ってみるか。
それにしても、この待ち時間はなんだ? 誘き出したとか言ってるぞ。
『あいつら同盟軍の主力がここに集結するのを待っているようだ。もしかして……ゴンヒルリムを襲撃するつもりか? ミア、悪いんだけど何考えているか聞いてみて。俺とレイサルさんが聞いても教えてくれないだろうからさ』
『えー。わたしが聞くの? わたしだって無理だと思うけど……』
俺の圧に負けたのか、ミアは渋々長老達に質問をした。
「何をする気なんですか!? こんなに戦力差があるのに。犠牲者がでないうちに、降参してください」
『ぷっ……ミア、ストレート過ぎ! しかもどさくさに紛れて降伏勧告するとか』
『……もう絶対に聞かないから。だから嫌だったんだよ』
俺に対する怒りで、長老を見る目つきが怖くなっている。
ヤバい。やりすぎたか。
——異端審問官という精鋭部隊がゴンヒルリムへ襲撃するだと。まさか本当に聞き出せるとは。
あの赤い帯の長老、油断しすぎだろ。
けど、レイサルさんが焦っているところを見ると、異端審問官はけっこうヤバいヤツらみたいだ。
カルラを攫ったのも、きっとこいつらだな。
『ナイスミア! 今から魔王に連絡入れる』
ミアの頬が少し緩くなったのを俺は見逃さなかった。
トルルルル、トルルルル
『どうした? タクミか。緊急の要件か?』
『はい。今、エルフ王と長老達に捕らわれています。せっかくの機会なので情報収集しているんですが、今にもゴンヒルリムを襲撃しようとしています』
『……それは想定済みだ。ゴンヒルリムに精鋭を残してある』
そんな悠長な場合ではないと、レイサルさんが会話に割り込む。
『エンツォ。襲撃部隊は異端審問官達だ。しかも自爆用の装備を身につけているらしい。被害が大きくなるぞ。ゴンヒルリムの占拠に失敗しても、転送魔法陣の設備を破壊するつもりだ』
魔王も異端審問官を知っているのか、返事はすぐに返ってこなかった。
『——タクミよ。そこで襲撃開始の合図を出させる前に、そこにいるヤツらを全員やれるか?』
『いや、全員は無理かな。出口まではヤツらの方が近いんです。ミアと手分けしても、たぶん逃げられます。困っているなら良い手があります』
『良い手だと?』
『ドワーフ王はそこにいますよね? 念話に入ってもらってください』
少しするとドワーフ王が念話に参加した。
『タクミ。ゴンヒルリムが狙われているみたいだな。良い手とはなんだ?』
『俺達がゴンヒルリムから魔族領へ出発するときに袋を渡しましたよね。アレを使ってください』
『……ほ、本当に使うのか? 一応、言われたとおりの準備はしておるが……』
『タクミよ。アレとはなんだ? 時間がない早く説明しろ』
『わかりました。実は——』
俺は以前、ゴンヒルリムが襲撃されたときに備えて準備しておいた策を説明した。
『『『はっ!?』』』
みんな驚いたようだ。引いたわけじゃないよね?
俺の用意した策は非常にシンプルだった。
以前、収納袋のアーティファクトを作ったときに、異次元に収納できるけど取り出せない失敗作の袋を作ったことがある。
これは、ゴンヒルリムの廃棄施設に設置した袋と同じ物だ。
この袋を大きくし、転送室に設置しただけだ。
敵がゴンヒルリムを襲撃しようと転送してきた瞬間、袋に飲み込まれ異次元に放り込まれる罠。
そのエグさから、ドワーフ王とタタラさんは二の足を踏んだが、俺はなんとかお願いして罠を設置してもらった。
ククトさんやマルルさんのときみたいな失敗は、もう繰り返さない。
『さすがタクミだ。オレ好みの妙案だ。ゴン。時間が無い、この案でいくぞ。オレはアーサーを呼ぶタイミングを調整する。ゴンはタタラに話を通しておけ。くっくくくく。異端審問官のヤツら、カルラを攫った罪を償わせてやる』
……やばい。
魔王にとんでもないことを教えてしまったのかもしれない。
この件が終わったら、罠はとりあえず撤去だな。
——長老が用意したディスプレイを見ていると、アーサーだけでなくメアリー、カルラ、ゲイルまで転送してきた。
これで同盟軍の主力は、全てティターニアに集まったな。
案の定、サイロスが襲撃作戦を開始した。
俺はディスプレイの光景を念話で実況する。
『襲撃作戦が開始されました。異端審問官達は捕まえたドワーフを脅して転送魔法陣を起動しようとしています。抵抗せずに転送させるよう伝えてあげてください』
『大丈夫だ。タタラにはちゃんと伝えてある』
『ゴンさん、もしかして制御室にいます? あっ、転送始まりました』
『おっ、こっちに来たぞ。こ、これは………………』
ドワーフ王が無言になってしまった。
◇
——全ての異端審問官が転送してから1時間が経過した。
「くっ、くそぉぉぉお! 何が起きているのじゃ! サビア、転送先の様子は写し出せないのか?」
サビアと呼ばれた緑の帯をした長老は首を横に振る。
赤い帯の長老の怒りは頂点に達したらしく、手に持つ杖で机や椅子を叩きだした。
ドワーフ王からは
罠は上手く動作したようだ。
『タクミ。どうするの? まだこのままいる感じ?』
『ああ。もう少しだけ様子を見よう。まだ情報が出てくるかもしれないし、ここで戦って世界樹を傷つけるリスクも避けたい』
——それから少しすると、顎に手をあて考え込んでいたサイロスの顔が上がった。
「ゴンヒルリム襲撃作戦は、理由はわからないが失敗したと考えた方がよかろう。私はヤツらを迎え撃つためティターニアに戻る」
「ここはどうするんじゃ? 魔力炉が離れすぎていて結界は張れんぞ」
「エンツォの小僧も世界樹様を破壊するような愚かなマネはせんよ。だからワシもサイロス王と共にティターニアの防衛に戻る。サビアとエリオンはどうする? ここに残るか?」
白い帯の長老が二人の長老に確認をとる。
あの赤い帯の上から目線の長老は、エリオンという名前みたいだな。
サビアは首を横に振る。
「ワシは残る。こいつらの監視が必要じゃ。それにちゃんと仲間達が無残に殺されていく様を見せてやらんとな。くっくくく。サビア、戻る前に戦場全体が見えるように写していってくれ」
それを聞いたサイロスと2人の長老は呆れた顔をして部屋から出て行った。
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