第95話 結界

「ふむ……。エンツォ殿には、すでに考えがあるのではないか? わざわざ我々を集めたのだ……なんとなく察しがつくがな」


「うむ。ワシも同意見じゃ。おまえの様子を見る限り、タクミ達は安全なんじゃろ? それで、おまえは何がしたいんじゃ?」


 全員の視線がエンツォに集まった。


 「『流刑の地』の結界を解除する。だが解除する方法はオレにもわからん。それならどうする? 簡単な話だ。知ってるヤツに解除させればいい」


 ……やはりか。

 こいつはいつから考えておったのじゃ。

 

「それで、どうやって仕掛けるつもりだ? ここから『ティターニア』は遠いぞ。それまでタクミ達を待たせるつもりか?」


「何をいっておるのだ。転送魔法陣を使えばいいだろ? オレたち魔族がドラゴンに乗り転送魔法陣を『ティターニア』近郊に設置する。その間に兵士は戦の準備をすればいい」


 ワシは頭が痛くなってきたぞ。

 エンツォのことだ、ドラゴンはいつでも出発できるよう手配済みなんじゃろうな……

 

「食料や補給物資などの兵站はどういたしましょうか? 転送魔法陣で運ぶにしても、まずは数を揃える必要があります」

 

「ゲイルよ。今の世の中ではそれも不要なのだ。すでに世界中のあらゆるモノが巨大な倉庫に集められているからな」


「巨大な倉庫……ここゴンビルリムのことじゃな」


 エンツォはニヤリと笑う。

 周りを見ると、ワシだけではなく全員が呆れていた。


「お、お父様……いつ頃に『ティターニア』へ行くつもりでしょうか?」


「タクミ達が危険なのだ。すぐに決まっているだろ? 各種族の都合を調整していたら、いつまで経っても助けにいけんからな」


 この場にいるエンツォ以外の者が頭を抱えだす。


「作戦の目的は『流刑の地』の解放だ。そのため、『ティターニア』にいるエルフ王と長老に協力してもらう。無理ならお願いするだけだ。では、これからその作戦を考えるぞ!」


 ◇ 【タクミ視点】


 ——流刑の地に来てから5日が経った。

 この間、結界に『業火』を試してみたが、少し穴が空くものの瞬時に修復されてしまった。

 一緒にいたセリナさんはそのことにすごく驚いていたが、このやり方では結界の外に抜け出すことは不可能だった。

 

 そして今、俺達とセリナさんの4人は湖の小島に来ていた。

 250年近く閉じ込められている間、エルフ達も結界について調査をしていた。

 その結果、結界の中心は湖の小島にある、俺達の目の前にある祠だということがわかったそうだ。

 俺は祠のステータスに『改ざん』スキルを使おうと思ったが、祠にも結界が張られていて触れられなかった。

 

 奥の手である『業火』で祠の結界を焼こうとしたが、ここでも結界はすぐに修復されてしまった。

 けど、今回の一件でわかったこともあった。

 結界を張るためのエネルギーが、祠から流れてきてるように感じたのだ。

 たぶん、エネルギーの供給元であるこの祠を破壊すれば結界を解除できるハズだ。

 

 俺は、エネルギーの供給元である祠をどうにかできないかと、頭の中で試行錯誤し続けた結果、1つのアイデアが湧いた。

 イメージはこうだ。俺の『業火』を、エネルギーを通して供給元に送り込み破壊する。

 結界にエネルギーを供給できるってことは、結界と祠は繋がっているわけだからな。


 まずエネルギーの正体は何かと考えたとき、俺はエルフ族が戦争のときに使っていた青い光の障壁を思い出した。

 あの障壁は、大量の杖を使って作っていた。

 あれだけの数の杖だ、全てがアーティファクトとは考えられない。

 ということは、あの杖はエルフの魔道具だったハズだ?


 そう考えると、このエネルギーの正体は『瘴気』。そして供給元は魔石ということになる。

 『業火』は『瘴気』を吸収し『罪』を喰らう。

 この結界のエネルギーは瘴気だ。だから『業火』で壊せたんだろう。

 ただ、結界を再構築する速度が早すぎるのだ。


 だから、上手く結界から供給元の祠まで『業火』を送り込めれば、祠の中にあるであろう魔石を破壊できるはずだ。

 そこで俺がイメージしたのはクラッキングだ。

 実際は、対象のコンピュータにどうやって不正侵入するためのソフトを仕込むか頭を悩ませるんだろうけど、今回の場合は既に同じネットワーク同セグメントのLANにつながってるようなもんだ。

 そして『業火』は『罪』を喰らう。それは対処が魔石であれば、『セキュリティホール全開』『管理者アカウントが流出』しているようなもの。対象を破壊するのは容易だろう。


 よしっ! イメージは出来た。

 俺は左手のグローブを外す。すると真っ黒な肌が見えた。

 心なしか、色が濃くなっているような気がする。


 ふぅ……俺は深呼吸をした後、祠の結界に左手を触れピンポン玉サイズの『業火』をいくつか作り出した。


「いいか、結界のエネルギーの流れに逆行して供給元に侵入するんだぞ。そして燃え尽きるまで破壊し尽くしてこい」


 命令を業火に入力して、結界のエネルギーの奔流に解き放つ。

 その瞬間、ものすごい勢いで結界をつたって祠の中へ黒い炎が吸い込まれた。


 ……ん? なんか地面が揺れてないか。


「た、タクミ。何かしたの? 地面が揺れている気がするんだけど……」


 ミアが不安そうな顔をしてこっちを見ている。

 クズハとミアと一緒に遊んでいたセリナさんまで不安そうな顔で俺の方を向いていた。

 まずったな。没頭してたから、誰にも説明しないままやってしまった。

 

「今、結界のエネルギー供給元へ攻撃した。もしかするとその影響かも」


 けど、祠には見る限り傷一つ入っていない。

 不発だったか?

 

 ゴゴゴゴォォ!

 いきなり立っていられないぐらい地面が揺れた。

 そして地面の下から轟音が肌に伝わってくる。


「マズい、船に戻れ! ここから離れるぞ」


 俺は嬉しそうにはしゃいでいるクズハを抱きかかえる。

 よし、ミアもセレナさんも乗り込んだな。

 俺とクズハが小舟に乗った瞬間、激しい爆発音と共に祠周辺の地面が空へと吹き飛んだ。

 その衝撃を俺は『心の壁』バリアで防いだが、湖面には大きな波が立ち俺達の乗った小舟は小島から遠ざかるように流された。


 ふぅ……今のは危なかったな。

 

「タクミ! 危険なことは言ってからやらないとダメだよ!」


「ご、ごめん。夢中になって実験してたらこうなった」


 ミアに怒られてしまった。


 ドゴォォォォォォォォン!

 さらに、小島で爆発が起こり地面が吹き飛んでいく。

 まるで火山の噴火のようだ。

 

「し、島が完全になくなってしまいました……」


 セレナさんが驚くのも無理はない。

 俺は勘違いをしていた。

 エネルギーの供給元は祠だと思っていたが、どうやら供給元は祠のずっと地下にあったようだ。

 たぶん、そこで大爆発が起こり、真上にあった祠周辺の地面までも吹き飛ばしたんだろう。

 

 ん? 無くなった……それってマズくないか!?


 みるみるうちに巨大な渦が出来上がる。

 地下の供給元へと続く穴めがけて、湖の大量の水が流れ込んだんだろう。

 まずい小舟が渦に引き込まれていく。


「タクミっち、アッチに任せるでありんす」


 いやいや、絶対にダメ!

 クズハの性格からして湖を凍らせる気だろ!?

 村の方に津波がいっていたら、村まで凍らせてしまう。

 俺はあわててクズハの頭を撫でた。


「考えがあるから、今回は俺に任せてくれ」


 俺は対象を村長のレイサルさんに設定して『ルーター』スキルを小舟にかけた。

 

 

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