第94話 謀
——俺達は結界の境目までやってきた。
セリナさんの話だと、結界は湖にある小島を中心に半径2キロの球状に覆われているそうだ。
空と地下にも結界は張られていた。
「石や水とかの無生物は結界を通過できるみたい」
いろいろ試した結果、ミアの言うとおり無生物は結界を通過することができた。
ただ、クズハが通れなかったので、魔物も通れないよう作ってあるみたいだ。
この辺りの影響で、転送魔法陣や念話機も使えないんだろうな。
ライトセーバーやクズハの妖術で壊れないか試したが、効果は全く無かった。
残るは『業火』だけか。
けど、これは寿命を消費する……どうする?
「暗くなってきましたので、今日のところ村に戻りませんか? この村に滞在する間は、私達の家で休んでください。そろそろ食事の準備も出来ているはずです」
「ありがとうございます。タクミ、そろそろ帰ろうか。……どうしたの?」
ミアが不思議そうに首をかしげる。
「いや、何でもない。とりあえず今日は帰ろうか。ちょっと頭の中を整理したいしね」
まだ焦る時期じゃないよな。
一度頭を冷やさないと。
◇ 【ドワーフ王 ゴンヒルリム視点】
——ゴンヒルリムの屋敷。
今、この部屋には魔王エンツォとワシの2人だけしかおらん。
タクミとミアが世界樹へと旅立って、連絡が取れなくなった。
半日が経っても未だに連絡がとれん……どうなっとるんじゃ。
「エンツォ、タクミ達と連絡はまだ取れんのか?」
「そう焦るな。まあ、何かが起きたのは確実だろうがな」
「そうじゃ。確実に何かが起きとる! タクミとミアの2人に念話機がつながらん。意図的に出ないんじゃなくて、念話機にまったく反応がない。そんなことは今までに一度もなかった!」
ワシらの念話機は、タクミとミア以外にはつながる。
ということは、ワシらの念話機が壊れている可能性は低いということじゃ。
「仮に2人の念話機が故障したとしても、転送魔法陣で戻ってこれるはずじゃ。それもしてこない……」
「まあ落ち着け。オレだってジジイが心配性なだけだとは思っていない。だからこの後、人族の王も呼んで話し合うことになってるんだろ。タクミとミアだ。さらにクズハもいる。そう簡単にはやられんさ」
エンツォよ。ワシにはわかっておるぞ。
おまえは重要な局面のときほど、冷静であろうとする。
そして……ワシに何か隠していることも。
——それから1時間後、ゴンヒルリムの応接室に魔族と人族とドワーフ族の王が集まった。
カルラ、ゲイル、アーサー、メアリーの4人は特別にこの会議への参加を許可した。
意見がほしいのもあったが、勝手なことをさせないためにも目の届く場所においとかないといかん。
さてと、そろそろ始めるかの。
「ここに集まってもらったのは、各種族の代表だからではない。タクミの仲間だから集まってもらったのだ。つまり、身分などここでは一切関係ない。だから、そこに立っている4人。空いてる席に着席するんじゃ」
カルラ、ゲイル、アーサー、メアリーの4人が顔を見合わせて戸惑っている。
「この場に居るのを臆するのなら、さっさとそこの扉から外に出てろ」
エンツォの冷淡な声に、事態の深刻さを感じたのか4人は席につく。
「タクミには大恩のある身。ここで返せなくていつ返そうぞ。わしも同意だ。さあ始めてくれ」
メルキド王の同意も得られた。これで準備は整ったな。
ワシはエンツォにこれまでの情報を共有するよう視線を送る。
「では、俺から状況を説明する。半日前からタクミとミアと連絡が取れなくなった。『
……断罪経由でタクミと連絡が取れるのは初耳だぞ。
「詳細は省くがいろいろ試した結果、タクミ達の置かれた状況は『道具もろとも殺された』か『この世界から隔離された場所に閉じ込められた』のどちらかだ。前者については時間の無駄だから検討はしないぞ」
「エンツォ様は、この世界から隔離された場所に思い当たりはあるのでしょうか?」
ほう。メアリーだったかの。
この場で最初に発言するとは大したもんじゃ。
これで他の者も発言しやすくなるだろう。
「……ある。これから話すことは他言無用だ。あいつらはエルフの『流刑の地』にいる可能性が高い。流刑の地とは——」
エンツォは、世界樹がアーティファクトであること。
それを神として信仰する者と信仰しない者で、エルフが2つに分裂したこと。
信仰しない者や罪人が『流刑の地』へ送り込まれることを場の全員に説明した。
「それにしても『流刑の地』とは……おまえがどんなに探しても見つけられなかったんじゃないのか?」
エンツォがエルフ領へ密偵を送り『流刑の地』を探していたのは知っておる。
そんなところに、タクミとミアが居るというのか?
「ああ、オレには見つけられなかった。けどタクミとミアだぞ。アイツらは良くも悪くも必ず何かをやらかす」
……全員が頷いておるわい。
まあ、ワシも同じ意見なのじゃが。
「お父様、その流刑の地とはどういった所なのでしょうか?」
「オレにもわからん。だが、今の状況を考えると強力な結界で封印された場所なのか、この世界とは別の異世界なのかもしれん」
「「異世界!」」
アーサーとメアリーか反応した。
「異世界人がいるのだ。こちらから別の世界に行ける方法があってもおかしくはない。だが、オレは結界で封印された場所の方が可能性は高いと考えている。殺さずわざわざ『流刑の地』に送るぐらいだ、殺せない何か理由があるのだろう。それならば異世界よりも、身近なこの世界に閉じ込める方がよかろう」
なるほどのぉ。
だがな、ワシはおまえの話を聞けば聞くほど思ってしまうのだ。
こうなることを予想しておったのでは……とな。
「では、『流刑の地』からタクミ達を救出する作戦を考えましょう」
アーサーは賛同を求めるように周りを見る。
そんな早るアーサーとは逆に、安堵のようなため息をメルキド王がつく。
「ふむ……。エンツォ殿には、すでに考えがあるのではないか? わざわざ我々を集めたのだ……なんとなく察しがつくがな」
「うむ。ワシも同意見じゃ。おまえの様子を見る限り、タクミ達は安全なんじゃろ? それで、おまえは何がしたいんじゃ?」
全員の視線がエンツォに集まった。
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