第92話 流刑の地

「あの集落のエルフ達、なんか今まで出会ったエルフと違うよな気がするんだよね。何か話があるんじゃないかな?」


 ミアはクズハに魔石を食べさせながら、彼らの感想を口にする。


「実は俺もそう思ってたんだ。だから話を聞いてみようと思う。『スキャン』で他に近寄ってるヤツがいないことは確認しているけど油断はしないように。弓矢とか遠距離攻撃がくる可能性はあるからね」


 ミアが頷くのを確認した後、俺は船から見えるように移動した。


「わ、わたしは村長代理を務めるセリナです。あなた達はどんなご用でここにやって来たんでしょうか?」


「俺達はこの近くをリド……このドラゴンに乗って飛行していたんですけど、ドラゴンの体調が急に悪くなりここに不時着しました。驚かせて申し訳ありません」


「ドラゴン……あなた達は、人族なのにドラゴンを使役している? 一体外では何が……」


 なんだ、様子が変だぞ。

 エルフ族は3人でコソコソと相談し始めた。

 何かマズいこといったか?

 

 少し様子をみていると、セリナという女性のエルフが俺達に向き直る。


「我らが村の長にお会い頂けないでしようか? あなた達も今後ここで暮らすことになりますので、お互いのことを知るべきだと思うのです」


「え? いえ、俺達はドラゴンの体調が回復したらすぐに出て行きます。用事もありますので」


「その……大変言い辛いのですが、この周囲には結界が張られています。外側からは入れるのですが、内側からは出られないようになっているのです。ですから……」


 結界? もしかして、ここに来るときに感じた膜みたいなやつか。

 俺やミアならなんとかできると思うんだけどな。

 火力が必要なら、クズハもいるし。


 けど、せっかくの機会だから村長に会うのも悪くないか。

 俺は自分の考えをミアとクズハに伝え、村長と会うことにした。


 ◇


 ——村に入ると、男のエルフ達に囲まれた。

 女子供は家の中にいるようだ。

 かなり警戒されているな。


 その状態のまま村長の家まで歩いて行く。

 クズハが暴走すると危険なので、俺とミアはクズハと手をつなぎながら歩いた。


 どの家も木で作られているが、俺の知っている木造の家とは違い、巨木の切り株をくりぬいたような家だった。

 あんな幹の巨木がこんなに密集して育つわけがないので、エルフならではの技法で建てられたんだろう。


 村の奥に、一番大きな切り株みたいな家が見える。あれが村長の家のようだ。

 俺達はドアの近くで待つように言われ、セリナさんは家の中に入っていった。


「お待たせしました。どうぞお入りください」


 家の中に入ると、巨大な会議室のような部屋になっていた。

 奥に扉があるので、その先から個人宅になるのかな。


 部屋の中心に巨大な木の円卓があり、その奥に白髪のエルフが座ってる。

 その後ろには、強そうなエルフが護衛役として立っていた。


「人族のみなさん、ようこそいらっしゃいました。私はここの長をしておりますレイサルといいます。どうぞ座ってください」


 俺達は簡単な挨拶してから、椅子に座った。


「娘からみなさんのことは聞きました。不慮の事故でここにやってきてしまったとか……。この村のことを話す前に、あなた方がどうしてこんな辺境にやってきたのか教えてもらえませんか?」


 まあ、当然だよな。客観的に見ても怪しすぎるからな。


「俺達はわけあって、世界樹の葉を探しています。ドラゴンに乗ったまま不用意に世界樹に近づいてしまい、ここに不時着しました」


「なるほど。ドラゴンは魔物です。世界樹に近づき『瘴気』が吸収され消滅しかけたということですか。ドラゴンには魔族しか乗れませんでしたが、今では人族も乗れるようになったのですか?」


「いえ、私達は魔族と交流があるので、特別に乗せてもらってます。けど、魔族、ドワーフ族、人族で交流が始まったので、近い未来では当たり前のことになるかもしれません」


「な、なんと言いましたか? ……魔族とドワーフ族と人族が交流していると!?」


 村長は目を見開き、立ち上がった。

 ……なんだ。地雷踏んだか?


 俺は三種族同盟や転送魔法陣による流通革命など、エルフ族には触れずに説明した。

 とても嬉しそうに俺の話を聞き、最後には歓喜のあまり涙を流していた。

 

「まさか、こんな時代がくるなんて……。タクミさん、ミアさん、クズハさん。あなた方の話を聞けて本当に良かった。なんて感謝して良いのか……」


 そして、落胆したような表情になった。


「この話にエルフ族が出てこなかったのは……そういうことなのでしょう」

 

 そういうこと? まあ、口にすれば非難にしかならなかったから、あえてエルフについては触れないでおいたが……


「今度は我らの話を聞いてもらいましょうか。とてもお恥ずかしい話ではありますが、ここは流刑の地なのです。エルフの現在のやり方に反対した者、従わない者がここに送られてきます」


 だから、ここのエルフ達は俺の知っているエルフと違うわけか。


「今から350年ぐらい前に、魔道具が『罪』を減らすことで、ざくろ石に吸収されなくなった『瘴気』が世界中に蔓延した時期がありました。そのときに現在のエルフ王であるサイロスがシラカミダンジョンの最下層から、『世界樹』というアーティファクトを見つけたのです」


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