第91話 湖の村

 リドの背に乗り移動したまま一夜明けた。

 もう、エルフ領に入ってるけど、首都の『ティターニア』は結構奥地にある。

 自分達のいる場所は、ゲイルからもらった地図の魔道具のおかげでわかっている。

 これマジ便利。

 もちろん、ミアの『デフォルメ』でアーティファクト化している。


「タクミっち、あっちに大きな木みたいのがみえんす。あれが世界樹じゃありんせんか」


 俺とミアは目を細めて見てみるが、まったく見えない。

 ミアを見るが、首を横に振る。

 クズハの視力はいったいいくつなんだ?

 

「俺達には見えないが、クズハがそういうのなら間違いない。リド、ぐるりと回り込むように向かってくれ。たぶんあの近くに街がある。その近くを通りたくないんだ」


 リドは認識阻害の魔道具を使っているから、地上からは簡単に見つけられない。

 けど、エルフも魔道具が使えるからな。どんな対空防御の設備があるかわからない。警戒しないとな。


 近づくにつれ、巨大な樹とその裾に大きな街が見えてきた。


「あ、あれが世界樹。ちゃんと葉っぱがあるね! ここまで来て枯れていたらどうしようかと思ったよ。それにしても想像以上に大きいね」


「ああ、何メートルあるんだ? 東京タワーぐらいあったりして」


 リドは俺がお願いしたとおりに街を避けるように大きく迂回して、世界樹へ近づく。


「このまま枝に近づいて葉っぱもらうのはどうかな? そしてそのまま帰る。一番面倒にならなそうじゃない?」


「ワッチはもう空飛ぶの飽きんした。早う葉っぱもいで帰りんしょう」

 

 俺の提案にクズハは、リドの背で横になりながら賛同した。

 まるで家で寛いでいるようだ。


「えー、大丈夫かな? けど、それで入手できるなら楽ちんだよね。やっちゃう?」


「リド。あの樹の葉っぱがほしいんだ。ゆっくりと枝の近くを飛んでくれ」


 スピードを落とし巨大な樹へと向かって滑空していった。

 ん……なんだ?

 急に空気が変わったぞ。

 淀んでいた空気が、急に澄みきったように……え? ……リドどうした?

 

 リドの身体から黒い煙が漏れ出す。

 そして力を失ったように、リドのバランスが大きく崩れた。

 高度がどんどん落ちていく。


 あっ、世界樹か! 世界樹は『瘴気』を浄化するんだった。


「リド、急いで待避だ。とにかく樹から離れるんだ。くそっ、ダメだ。応答がない!」


 クズハ。クズハも危険だ!

 俺は慌ててクズハを見ると、身体から少しずつ黒い煙が出ていた。


「クズハ、大丈夫か? ミア、急いでクズハを連れてゴンヒルリムへ避難してくれ」


「た、タクミはどうするの?」


「リドをこのままにしておけない。なんとかしてみる」


 そうは言ったもののアイデアが思いつかない。どうする? 時間がないぞ。

 そのとき、クズハがリドの首元にしがみつき目を閉じた。

 すると、クズハの身体から黒い光があふれ出した。

 黒い光はリドの身体に染みこむように流れていく。

 そして、しなだれていた頭が起き上がり、世界樹から離れるように巨大な翼を羽ばたかせた。


 こ、これは、クズハが『瘴気』をリドに送り込んだのか?


「よくやったクズハ! なんとか助かりそうだ!」


 俺は労おうとクズハを見ると、クズハは10歳児ぐらいの大きさに縮んでいた。

 ミアはクズハを心配して抱きしめた。


「クーちゃん、大丈夫なの!?」


「このぐらい大丈夫でありんす!」


 ミアは青ざめていたが、クズハはけろりとしている。

 焦ったけど、クズハは大丈夫そうだな。

 リドもなんとか持ち直したようだ。

 

「リド、あそこに見える森の中の湖に着水してくれ。いったん休憩しよう」


 ティターニアからある程度離れているし、少しぐらい大丈夫だろう。

 リドに魔石を与えて回復させないと。


 湖に向かって滑空する。

 もう少しで湖というところで、何か膜みたいなものを通り抜ける感覚がした。


 ——そして目の前の景色が変わった。

 湖の近くに集落が現れたのだ。


「なっ、なんだ? 何が起きてるんだ!?」


「タクミ! 岸に村がある。そして湖の真ん中に島が! さっきまでなかったのに」


 ミアの指差す方向を見ると、確かに湖の中心に小さな島があった。

 少し混乱している間に、リドは湖へと着水した。

 音を立てながら水しぶきがあがる。

 こ、これは完全にバレたな。


「ミア、クズハ。警戒してくれ! 敵の真っ只中に落ちた可能性がある」


 俺は集落の方を見ると、家々から人が飛び出していた。

 遠くてハッキリとは見えないが、なんとなくエルフに見える。

 ただ、なんか違うんだよな。

 エルフ特有の尊大な態度をとってないというか……まるで人族の村人みたいだ。

 

 あっちも俺達を警戒しているようだな。

 すぐには襲ってこなそうなので、俺は魔王に今の状況を報告することにした。


 ……ん? あれれ。

 念話が通じないんだけど。

 俺の念話機が壊れたのか?


 俺はミアに念話してもらったが、ミアの念話機も通じなかった。

 

「ダメだ。念話だけじゃない。転送魔法陣も使えない。まいったな……」


 俺達はリドとクズハに収納ポケットから取り出した魔石を与えていた。

 『瘴気』の補充に役立つかわからないけど、何もしないよりはいいだろう。


 そうしていると、船に乗った3人のエルフが近づいてくる。

 男が2人と女が1人か。


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