第89話 禁忌の時代
俺はエルドールと呼ばれる女と正対する。
「これからする質問に、正直に答えろ。そうすれば生かしてやる。断ればこの場で殺す。エルフは他にもいるからな。聞く相手には困らない」
カルラが何か言おうとしたが、俺はカルラに手を向けて発言を制した。
「……本当に助けてくれるのよね? 私が知らないことを聞かれた場合はどうするの?」
「ああ。約束は守る。この場にいる誰にもおまえを殺させない。知らないことは知らないと言えばいい。本当に知らないのなら殺しはしない」
エルドールは疑うような目で俺を睨んでから、「早く質問を始めなさい」と言った。
俺は『収納バングル』から『魔刀断罪』を取り出す。
そして、抜刀しエルドールの右腕をほんの少し斬った。
「ど、どういうことよ。約束と違うじゃない!」
「この黒炎はおまえの嘘を見破る。俺は正直に答えろと言った。だから嘘を見破るためのアーティファクトを使っただけだ」
睨み付けてくるエルドールを無視して、俺は『魔刀断罪』を収納した。
(婆さん、あいつの精神に侵食してくれ。質問したときに、あいつの頭に浮かんだ真実を俺に教えてくれ)
(……まったく人使いが荒いよ。それになんて使い方するんだい……はぁ、この先が思いやられるよ)
婆さんも協力してくれるようなので、準備は出来た。
ちなみに、これは魔王のアイデアだ。
俺が業火に浸食された話をしたときに、思いついたらしい。
文句は魔王に言ってくれ。
それでは、質問タイムといきますか。
「最初の質問だ。世界樹はどこにある?」
「……エルフ族の王都『ティターニア』の近くにあるわ」
婆さんが何も言ってこないってことは真実だな。
ドワーフ王の話とも一致する。
「世界樹の葉をおまえは持っているか?」
「……持っていないわ」
「世界樹の葉を手に入れるにはどうすればいい?」
「……お、おまえ……なんて恐ろしいことを……」
エルドールの顔は真っ青になり、怯えるようにガタガタと震えだした。
(世界樹は、エルフ族にとって神様なんだと。神様の部位を奪おうなんて、罰当たりすぎる……こんな感じさね)
「わかった。質問を変える。世界樹にはどうすれば会える?」
「……言えないわ。知らないのよ」
(嘘だね。エルフ領の地図はわかったよ。あんたも思い浮かべれば見られるようにしておいた)
婆さん、マジ優秀。
この後、俺の世界樹に関する質問が終わると、アーサー達が質問をした。
そして、今回の戦争の全容が明らかになる。
エルフの制御がきかないアーサーを殺し、ミムラにシラカミダンジョンを攻略させる。
またその過程で、メルキド王国で冒険者によるクーデターを起こし、ミムラを王に据える。そんな計画だった。
エルドールが、ミムラによってギブソン将軍は殺害されたと語ったとき、アーサーは口を固く結び顔を歪め、メアリーはこらえきれず泣き崩れてしまった。
ミムラにスキルを奪わせるため、冒険者ギルドが組織的に異世界人を生け贄にしていたという事実にも驚愕した。
俺とミアも一つ間違えば生け贄にされていたかもしれない。
——全員を見渡すと、もう質問したいことはなさそうだ。
「では約束通り縄を外す。ここから早く立ち去れ」
エルドールは俺が縄を外すと、ゆっくりと森の方へ歩いて行った。
さてと、俺も約束を守るかな。
カルラから移動式魔法陣を借りて、俺は魔王へ会いに行く。
◇ 【エルドール視点】
絶対に許さないわ。
特にあのタクミって異世界人。あいつには自分から殺してくれと懇願するほどの苦しみを与えてやる。
異世界人にスキルを込めさせたざくろ石は、『ティターニア』にはまだまだ沢山ある。
人族と魔族は、今後枕を高くして寝られると思わないことね。
夜な夜な、爆撃に怯えて暮らしなさい。
今はとにかく『ティターニア』に戻らないと。
絶対に私をコケにした罰を与えてやる。
「——おまえ達一族は、いつになったら反省という言葉を覚えるのだ?」
「だ、誰!? どこにいる?」
木の陰から1人の男が現れた。
瞳が赤い。魔族だ。
しかもこの男……ただ者じゃないわ。動きが気持ち悪いほど無駄がない。
「ま、魔族がなぜここにいるのかしら。私はあなた達のボスから正式に解放されたのよ。嘘だと思うなら、あの王女に確認しなさい」
「ああ。それは知っている。娘のカルラに確認するまでもない」
「娘……まさか、あなた魔王エンツォ!?」
男はニヤリと笑う。
「ほぉ、オレのことを知っていたか。そうビビるなよ。オレはおまえと話があってきたのだ」
男はゆっくりと歩いて近寄ってくる。
私は無意識に一歩下がる。いや、下がってしまった。
この私が、あんなヤツに気圧されているというの!?
「くっくくくく。止めておけ。相手の実力もわからないほどマヌケなのか? おまえは俺の質問にただ答えればいい。簡単なことだ。それぐらい出来るだろ?」
その後、ピキッと空気が割れるような、覇気とも殺気ともいえるようなモノが男から放たれた。
私の身体がガタガタと震えだす。
ま、まずいわ。こんな化け物が魔王だったなんて。
長老達は知っているの? まさか、知っていて私を送り込んだわけじゃないわよね。
「今から250年ぐらい前か? おまえ達一族が『世界樹』を使って世の中から『瘴気』を浄化させていた頃だ。まだ異世界人たちがこの世界に現れる前の時代だ」
この男は急に何を言っているの?
「その頃、『世界樹』のおかげで世界中の『瘴気』がほとんど無くなった。だが、『瘴気』をエネルギーとする『世界樹』は、巨大に育った自身を維持出来なくなり次第に枯れていった」
こ、これはまさか禁忌の時代の話!?
「や、やめて! 私にその話を聞かせないで!!」
「……なぜだ。なぜ話を聞くことを拒む?」
「そ、その時代はエルフ族の中では『禁忌の時代』なのよ。長老以外が口にすると流罪になる。そして、私はその時代のことを知らない。知りたくもない!」
流罪と聞いたとき、あの男は嬉しそうに笑った。
な、なんなのよ。
ダメだ。震えが止まらない。
最悪だ。このままだと『ティターニア』に戻っても罰せられてしまう。
男は顎に手をやりながら、ブツブツと独り言を繰り返している。
逃げるなら今しかない。
「無駄なことはやめておけ」
ひぃぃぃぃぃぃ。
どうしてよ! どうして、考えていることがバレたの!?
「オレの用件は済んだ。いや、正確には1つ残していたか……」
男は一歩、また一歩と私との距離を縮めだす。
ま、まずいわ。殺される。
「た、タクミと約束したわ。私を殺さないって。あ、あんたも承諾したって、い、言ってたわよ!」
「それは正確じゃないな。タクミは『この場にいる誰にもおまえを殺させない』と言ったんだろ? 俺はゴンヒルリムにいたからな。ちゃんと約束は守っているさ」
う、嘘よ。なんで私が……こんなところで…………
「くっくくくく。タクミはいい仕事をする。コレで相手の頭に浮かぶイメージを見られるのは助かる」
魔王は血塗られた一本の黒い刀を握りしめた。
(何をいっているんだい。はぁ、つまらないもの見せられるこっちの身にもなってごらん。いつまでも復讐ごっこしてないで、さっさと助けておやり!)
「ああ、エルフと二代目は俺が助けてやるさ。ゴミどもを駆逐しながらな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます