第88話 終戦

 これがお駄賃……なのか?

 俺はそれぞれのステータスの詳細を見た。


スキルの素『断罪』:罪を断つ。

スキル『業火』:黒炎を操る。黒炎は全てのスキルを喰らう。


 デメリットについては書かれていないんだな。

 婆さんの話だと、この力を使うと俺も業火に浸食されていくらしい。

 簡単に言うと寿命が短くなる。

 けど、使うかどうかは別として、この能力を使のは大きい。


「ミア、心配してくれてありがとう。この左手も真っ黒だけど今まで通り使えるみたいだ。見た目も長袖に手袋つければ問題なさそうだ」


 俺はミアに見せるように左手をグーパーしながら笑うと、ミアも安心して笑ってくれた。

 

 ミアから俺が気を失ってからのことを聞いた。

 冒険者ギルドは、ミムラが業火に喰われた後も戦闘を続けていた。

 けど王国軍に包囲され、アーサーが降伏勧告すると素直に応じたらしい。

 冒険者ギルドの指揮官であるレゴラスという男は、逃げ出したところを冒険者達に捕らえられたそうだ。


 エルフ軍は現在も魔族軍と戦闘中。

 王国軍も参戦しようとしたが、魔族軍に断られたらしい。

 その代わり、逃げられないようにエルフ軍の退路を塞いでるそうだ。

 戦況については、魔族軍が圧倒的に優勢なので心配する必要はないとのこと。

 

「魔族軍に加勢は不要みたいだから、アーサー達のところにでも行こうか?」


「うん。みんな心配していると思うし、クーちゃんも置いて来ちゃったんだ。タクミが大丈夫そうなら行こう!」


 クズハが野放し!? ……それは早く行かないと。

 俺達はアーサー達のところへ向かった。


 ◇


「みんな! 遅くなった。俺だけ休んでしまってすまない」


 俺はアーサー、メアリー、クズハに会うと、軽く左手を振った。

 クズハは、ものすごい勢いで俺に飛びつこうとしたが、慌てて踏みとどまった。


「タクミっちの……左手から嫌な気配がしんす」


 やはりクズハにはわかるか。

 俺は右手でクズハの頭を撫でると、クズハも嬉しそうに抱きついてきた。

 その途端、捕らえられている冒険者の方から、叫び声が聞こえてきた。


「クズハ様から離れろォォォォォォォ!」

「ぬぉぉぉ 俺のクズハ様が汚される」

「クズハ様のあの笑顔……可愛すぎる。マジ神。マジ天使!」


 ……ど、どうした? 何があった?


「タクミ。驚いたようだね。クズハがすごい人気なんだ。脱走や抵抗する者がいても、クズハのファンが取り押さえてくれる。本当に助かっているよ」


 金髪に巫女姿の美少女。そしてケモミミに尻尾……。

 確かにこれでウケないわけがない。

 見ていると、すでにファンクラブみたいなものが結成されているようだ……


「タクミさん、この度は本当にありがとうございました。お兄様の危ないところも助けて頂いて、本当に私達兄妹の命の恩人ですわ」


 メアリーさんは怪我が癒え、元気そうだった。

 スキルと経験値を取り戻せなかったことを謝罪すると、そんなことは全く気にしないでと言われた。

 その後もアーサー達と話し合ったが、俺は自分が断罪の業火に浸食されていることは伝えなかった。

 無駄な心配をかけるだけだからな。

 

「——さてと、これからレゴラスのところに行こうと思う。タクミ達も一緒にどうだい?」

 

 ミアの話だとレゴラスは冒険者ギルドの総責任者グランドマスターらしい。


「いや止めておくよ。尋問するんだろ?」


「ああ。まず今回の計画の全てを吐かせる。その後はこちらの駒として使う。冒険者ギルドは王都以外にも沢山あるからね。混乱なくを進めるのにレゴラスは使えるのさ」


「作業?」


「今回の戦争と同盟の話で、メルキド王国は本格的に国内から膿を取り出すことにした。けど、冒険者ギルトは各街や村にあるから、下手すると国内を二分した争いになってしまう。だから、レゴラスを使って穏便に組織改革するつもりなのさ」

 

「素直に言うこと聞くのか?」

 

「この世界には魔道具がある。人道的に外れたものでも、今の陛下なら使うだろうね。それが、流れる血が一番少ない方法なら……」


 まあ、この辺の政治的な判断や戦争の後処理は、俺は関わり合いたくないので好きにしてもらおう。

 そろそろカルラ達と合流しようと思ったとき、向こうから歩いてくるカルラとゲイルの姿が見えた。そして、何か引きずっていた。


「アーサー。こっちは片付いたわ。退路を遮断してくれてありがとう。助かったわ。あっ、タクミ! それにみんなもいたのね。ちょうど良かった。これが相手の指揮官よ。タクミに言われた通り、殺さないで捕まえてきたわ」


 そう言って、引きずってきたエルフの女を俺達の前に放った。

 女は全身が砂や埃で汚れており、至る所にあざができていた。

 

「エルドール大使。こんな形でお会いするとは、悲しい限りです」


 アーサーは冷たい表情で、女に言葉をかけた。


「くっ……生きていたのか。メアリーまで。ミムラのヤツ、本当に役に立たない。まあ、いいわよ。今までのことは水に流してあげるから、早く縄を解きなさい」


 エルドールはヨロヨロと立ち上がった。


「今回の戦争を企てたのはレゴラスよ。私達エルフ族も騙されたのよ。けど、これまでの狼藉は許してあげるわ。あなたたちも騙されていたのだからしょうがないわよね。それもここまでよ。もう戦争が終わったの。正気を取り戻してこの縄を外しなさい」


「ここまでくると正直感心するわ。すごいわね。タクミどうするの? 何か考えがあるんでしょ?」


「ああ、連れてきてくれてありがとう。エンツォさんとも話がついているから安心してくれ」


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