第87話 魔刀断罪

 ……俺は死んだのか?

 ……ミムラはどうなった?

 

「おいおい、何を寝ぼけてるんだい。まあ、ここはおまえの夢の中みたいなもんだから、寝ぼけるのもしょうがないかい」


 ん? ババアの声がする。

 まさか、ババアは俺まで一緒に焼き尽くしたのか?


「そうしてほしいのなら、目が覚めたらそうしてやるさ。いい加減シャキッとしな。シャキッとね。それにババアはお止め。仮にも助けてやったんだ。敬意ってもんはないのかね」


 周りを見渡すと360度真っ暗闇の空間だった。

 俺自身の姿も見えない。

 まあいいか……。夢の中って言うのなら、そのうち目が覚めるんだろう。


「ところでなんで婆さんがここにいるんだ?」


「婆さん……まあいいよ。あの女を喰ったときに、おまえの左腕も一緒に喰ってしまったからね。そのときに、おまえの精神にも少し浸食してしまったのさ」


「ミムラは殺せたのか?」


「腕のことは怒らないようだね。文句言ったら残りも全て喰ってやろうと思っていたのに残念だよ。あの女はちゃんと喰ったさ。跡形もなくね」


 殺したかと聞いたのだが……喰った?


「おまえ、エンツォから何も聞いてないのかい? ワシは『瘴気』を吸収し『罪』を喰らうアーティファクトさね。生き物を殺すために存在してるんじゃないんだよ。間違えないでおくれ」


 『罪』を喰らう……俺はてっきり『魔刀断罪』って名前からして『罪』を斬るんだと思っていたよ。


「ワシが『罪』を消滅させるのは気づいてたのかい?」

 

「ああ、だからミムラが不死身でも殺せると思ったんだ。異世界人のスキルを無効化できるあんたなら」


「くっくくく。エンツォに見込まれただけはあるね」


「ヒントはざくろ石だ。あの石は異世界人のスキルしか込められない。ざくろ石は『罪』が合わさると『魔石』になり、『罪』をため込む。だから、異世界人のスキルって『罪』と関係していると思ったのさ」


「…………」


「『罪』を消滅できるあんたなら、『罪』と関係している異世界人のスキルも消滅できる。そして、これを確信した理由は恐れ知らずのクズハが、あんたを初めて見たのに怯えたんだ。俺も本能的に怯えた。つまり『罪』を持つものにとって、あんたは天敵なんだ」


「はっはははははは。気に入ったよ。おまえなら……期待するのも悪くないね」


 まあ、ミムラがちゃんと殺せたのなら良しとしよう。

 メアリーごめん。スキルと経験値を取り戻せなかった。


「それで……俺は婆さんに殺されるのか?」


「このままならそうなるね。ワシの『業火』がおまえの左手を喰っちまった。『業火』の炎は、おまえの心身を浸食していく。そして、いつかは魂と身体を喰われて消滅するのさ」


 ……マジか。

 俺の精神に浸食しているとか言うから、嫌な予感してたんだよな。


「それで取引だ。ワシの力で可能な限り浸食を遅らせることはできる。おまえが寿命で死ぬまで遅らせれば、実質この問題は無いようなもんさね」


「……俺は何をすればいい?」


「簡単なお使いさ。ワシをシラカミダンジョンの最深部まで運んでおくれ」


 シラカミダンジョンの最深部だと!?

 アーサーとメアリーでさえ6階までしか行けてないのにか。


「おまえなら大丈夫さ。転送魔法陣とやらがあるんだろ?」


「……わかった。その取引を受けよう。だが、俺には先にやらないといけないことがある。それからでいいか?」


「ああ、いつでもいいよ。例え100年後でもいいぐらいさ。それじゃあ、駄賃の前払いでもしておくかね——」


 駄賃? え、あっ……なんだ? なんか埋め込まれたような感覚が……


「目が覚めたら確認してごらん。いいかい、大事なことだからしっかりお聞き。その力を使うと業火の浸食が進む。おまえの寿命が縮むってことだ。だから、むやみやたらと使うんじゃないよ」


「わ、わかった。よくわからないけど、ありがとう。俺も約束を守れるよう努力するよ」


 何もない真っ暗な空間の中、どこかで微笑むような気配を俺は感じた。

 そして、遠くから光りがあふれ出してくる。

 光が暗闇を塗りつぶしたとき、俺は目を覚ました。

 

 ◇


「タクミ! タクミ! タクミが起きたァァァ!」


 目を開けると、ミアの顔があった。

 ミアの目から涙がこぼれる。


 俺はミアの頬を伝う涙を、無意識に左手で拭った。

 ……なっ、なんだコレ?

 ミアも俺の左手を見て、目を見開きギョッとしている。


 俺の左腕の肘から先が真っ黒だった。

 でも……たしか炭になってボロボロに崩れたはずでは?


「タクミ。腕が治ってる。クズハの『癒水』でも治せなかったのに……色はちょっと黒いけど」


 婆さんのお駄賃ってコレのことなのか?

 でも、それだと毎日業火の浸食が進んでしまう。


 俺は左手の動きを確認しながら、ステータス画面を開く。


------

名前:アライ タクミ

職業:ハッカー

レベル:71

HP:710/710

SP:568/710

スキルの素:接触、文字、変更、断罪(New)

スキル:

 分析、改ざん、なりすまし、スキャン、ping、ルーター

 業火(New)

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 ……へ?

 スキルの素に『断罪』、スキルに『業火』が増えていた。


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