第84話 グランドマスターの計画
◇ 【冒険者ギルドグランドマスター レゴラス視点】
「しかも、一度はこれから殺す相手のスキルを使って殺したんです!」
くっくくく。かなり使い勝手の良さそうなスキルではないか。
私はギルド職員に命じて、ミムラをこの執務室に来させた。
「あ、あのぉ……申し訳ありませんでした。私が未熟なばかりに——」
異世界人の女は部屋に入る早々、頭を下げ謝罪してきた。
どうやら死んだ異世界人に対する事情聴取だと思っているようだ。
「そんなことはどうでもいい」
「そんなこと……ですか?」
「回りくどいことはなしだ。ミムラ。私はおまえが気に入った。手を組まないか?」
仲間殺しの事実を伝え、脅して従わせることは簡単だ。
しかし、それは弱者に対してのみ使える手段。
この女のように、いずれ強者になる者には使えない。
そんなことをすれば、寝首を搔かれるだけだ。
「おっしゃってる意味がよくわかりませんが……こんな失敗ばかりの私の何が気に入ったのでしょうか?」
私は今まで報告を受けた内容を、ミムラに説明する。
驚くどころか、薄ら笑みを浮かべ私の話を聞いていた。
「……そうでしたか。こんなに早くから警戒されているとは、予想もしてませんでした」
「くっくくく。おまえのスキルは確かに凄い。相手のスキルを奪えるのだろ? おまえはこの先、間違いなく最強の冒険者になれるだろう。しかし、それには協力者が必要だ。全てをもみ消せる権力。理想的なのはギルドマスターあたりだと思うが……違うか?」
「……話が早くて助かります」
ミムラの『相手のスキルを奪う』能力は、それ単体では戦闘で役に立たない。
つまり、強くなるためには優秀なスキルをたくさん奪う必要があるのだ。
今のミムラは、人生において最弱。一般的な冒険者と比べても弱い。
そんなヤツが、安全に相手からスキルを奪うにはどうする?
一番重要なのは、自分が相手のスキルを奪えると知られないことだ。
相手が知ってしまえば警戒されるし、出会ってすぐ殺される危険もある。
その点、この世界にきたばかりの異世界人は都合が良い。
そいつらが持っているスキルを知っている人間は少ない。
スキルを奪い自分が使ったとしても、誰からも疑われることはない。
だからミムラは、早々に3人の異世界人に手を出したのだろう。
しかし、それも徐々に難しくなっていく。
優秀なスキルほど、その使い手とスキルは知れ渡っていくからだ。
だからミムラは欲しがる。
自分の無実を証明してくれる人を。
冒険者ギルドのギルドマスターなど、まさにうってつけであろう。
「私は冒険者ギルドの
どうだ? こんなにうまい話はないだろう。弱みを握られているのに、おまえが喉から手が出るほど欲しい環境を用意してやるというのだ。
しかし、ミムラの表情が硬くなる。警戒させてしまったか?
だが、それでいい。何も考えずに飛びつくようなバカでは組むに値しない。
「……それで私に何をしてほしいのですか?」
まぁ、警戒したところでおまえの選択肢は1つしかないのだがな。
「3つだ。1つ目はあるスキルを奪ってもらう。我々の調査では、このスキルの効果は『不死身』だ。どんな攻撃を受けても死ななくなる。持ち主は『剣聖』かその妹の『姫』のどちらかだ」
「そのスキルを私は手に入れられると……むしろこちらからお願いしたいぐらいですね」
「2つ目は『剣聖』を殺せ。こいつさえ死ねば、人族はエルフ族に屈服する。おまえがメルキド王になりたいのなら、王にしてやってもいいぞ」
ミムラはニヤリと笑った。
「……『剣聖』。お城で私達にいろいろ説明してくれた人ですね。たしか……アーサーさんでしたか」
「あの男は人族最強だ。ただでさえ桁違いの攻撃力を持つのに、スキルで『不死身』なのだ。まともに戦っても絶対に勝てん。ヤツを倒すには『不死身』のスキルを奪う必要がある」
「わかりました。残りはなんですか?」
「3つ目は、この世界で最高難易度のダンジョンであるシラカミダンジョンの攻略だ。どんなにおまえが強くなっても、最深部まで攻略するには数年かかる。だから、先に前の2つを終わらせてから取りかかってもらう」
ミムラは少し考えた後、口を開いた。
「その条件でいいわ。どれも私にとっても都合が良いし。最高難易度のダンジョンクリアも、物語にはお約束の展開だから」
「では、こちらにサインしろ。これは契約魔法で作られた契約書だ。先に言っておくぞ。契約違反や契約反故するとおまえは死ぬ。異世界人のおまえなら契約書の文字は読めるだろ? しっかりと確認しておけ」
私はミムラに契約書を渡した。
じっくり読まれたところで問題はない。この自己中心的な女が断るなんてありえないからな。
「……私があなたを殺した場合も契約違反になるんですね。これは、間接的に殺した場合でも契約違反になるんですか?」
「契約魔法だから、関与したかどうかは誤魔化せんよ」
「……これは面白い。保護される対象はあなただけで、エルフ族を殺しても契約違反にならないんですね」
「お互いにその方が良かろう」
「なるほど。この契約で、あなたはエルフ族に対しても優位に立てる。あなたがいなくなれば、誰も私を止められなくなると……」
「くっくくく。全てはおまえが強くなってからの話だ。今のままではなんの脅威にもならんからな」
こうして、私とミムラは手を組んだ。
◇
ミムラのスキル『奪魂』だ。
『奪魂』は相手の魂に組み込まれた『スキル』と『経験値』を奪う。
奪ったスキルは『スキルの素』と関係が切れてしまうため、スキルが成長することはない。
ただ、この『奪魂』の発動条件が難しかった。
3分間相手の意思でミムラに触れること。その後、3分以内に奪いたいスキルを使わせる。
スキルを使わせるときは、ミムラに触れている必要はない。
この面倒な条件も、ミムラに言わせると「相手が自分に気を許す。そうすると魂が柔らかくなるんです。そしてスキルを使うとき、スキルは魂の表面に浮かんでくるので、そのときに奪うイメージですね」ということらしい。
相手が男の場合、ミムラは相手を誘惑することで条件を満たし、相手が女の場合は怪我や毒などの状態異常にかかったフリして看病してもらうなど多種多彩な方法をとっていた。
私が協力するようになってからは、部下を盗賊に変装させターゲットを拉致し、ミムラと一緒の檻に監禁する。
励まし合い逃走する過程で全ての条件を満たしスキルを奪う。
最後にスキルの元の持ち主は盗賊に
これらの犯行がバレることはない。冒険者ギルドを管理している私の部下がグルなのだ。
適度に本物の盗賊団を襲撃し、証拠となる遺体もそこで発見されるのだからな。
ミムラが現れてから冒険者の死者や行方不明者の数が急増したため、ミムラは『死神』と呼ばれるようになった。
ミムラは、このとき王都に来た異世界人のただ1人の
この頃には、奪ったスキルと経験値でミムラはSランク冒険者になっていた。
『死神』と陰口をたたいても、直接ミムラを襲う冒険者は皆無だった。
ミムラがこれまでに奪ったスキルの1つに『完全偽装』がある。
これは最後に殺した相手に成り代われるスキルだ。特異なのは姿形だけではなく、記憶も引き継げる点だ。
このスキルを手に入れたことで、私の計画は大きく進展した。
アーサーの『不死身』スキルの秘密をとうとう暴くことに成功したのだ!
方法は簡単だった。ミムラにアーサーとメアリーの親代わりでもあるギブソンを殺させ『完全偽装』で記憶を引き継ぐだけだ。
これにより計画の方針は決まった。
魔族と人族で戦争を起こす。きっかけは魔族の王女あたりを人族に殺させればいいだろう。
この戦争にはアーサーとメアリーを参加させる。これは王国軍を参加させればアーサーは必ず参加してくるので簡単だ。
メアリーが自発的にミムラを3分間触る。これはミムラがギブソンに『完全偽装』で成り代わり、戦場で一緒に行動する局面を作ることでなんとかすることにした。そのためにも、アーサーとメアリーを引き離す必要がある。
私はこの局面を停戦交渉の場にした。アーサーを停戦交渉の代表にしメアリーと引き離す。そして、交渉中に襲撃を受けメアリーを
そして……ミムラが『魔法の鞘の加護』を手に入れた後、アーサーもろともメルキド王国軍を殲滅し、防衛力がなくなったメルキド王都でクーデターを起こしミムラを人族の王にする。
シラカミダンジョンの攻略は、ミムラに任せておけばいい。
私はこの計画をまとめ長老会へ提出した。
ミムラの活躍は、私の計画の裏付けにもなり長老会で承認されることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます