第83話 レゴラスの危惧

 ◇ 【冒険者ギルドグランドマスター レゴラス視点】

 

 今から5年前。

 メルキド王国に『異世界人』の英雄が誕生した。

 当時、Sランク冒険者のアーサーとメアリーだ。


 世界中が魔物で溢れかえってから、シラカミダンジョンの地下4階を突破する者はいなかったが、アーサーとメアリーの率いるパーティーは半年をかけ地下6階まで攻略したのだ。

 王都では攻略階層を大幅に更新した偉業を称える式典が行われた。

 

 最深部の攻略を一族の悲願にしていた我がエルフ族でも、その一報は歓喜で迎えられた。

 特に冒険者ギルドの頂点でもあるグランドマスターの私にとっては、神からのお告げのごとく心身共に救われた。


 当時はシラカミダンジョン攻略に、大量の冒険者パーティーや魔道具を投入するも成果を出せていなかった。

 そして、私はエルフ族の長老達から責任追及されていた。

 そんな終わりの見えないこのプロジェクトに、一筋の希望がもたらされたのだ。


 今回は食料か無くなり地下6階までとなったが、次回はそこまでのルートはわかっている。

 地図を作りながら攻略を繰り返せば、いずれ最深部へも行けるだろう。

 魔物が倒せなくなるまでは。


 その点、アーサーとメアリーは優秀だった。

 この2人は我らエルフ族でも危惧するほど強かった。

 エルフ族の最高機関である長老会では、アーサーとメアリーの力を脅威と感じ早いうちに芽を摘むべきという派と、シラカミダンジョン攻略のための駒とするべきという派で別れていた。

 今回の地下6階まで攻略した実績が後押しし、今では後者の意見が多くを占めている。


 しかし、ここで問題が起きた。

 アーサーがメルキド王国の『剣聖』という要職に就任し、2人が冒険者ギルドを脱退した。

 冒険者ギルドからの指名クエストという方法で、シラカミダンジョンを攻略させられなくなってしまったのだ。


 それならと、冒険者ギルドからメルキド王国へ正式に依頼したが、『剣聖』が長期不在になってしまうことを理由に断られる。

 アーサーを手駒にしたことで、メルキド王は忘れてしまったらしい。人族がエルフ族の奴隷でしかないということを。


 現実を思い出させようといろいろ手を回したが、アーサーとメアリーにより様々な企みは潰されていった。

 個々の戦力も然る事ながら、王国軍を指揮したときの働きは目を見張るものがあった。


 あの2人は危険だ。エルフ族と人族の関係を壊す可能性を秘めている。

 それに気づいた私は、彼らを抹殺するべく計画を練ることにした。

 ……しかし、長老会でそれが許可されることはなかった。アーサーに代わるシラカミダンジョン攻略の手段がなかったからだ。


 ——それから5年が過ぎた。丁度、今から4ヶ月程前のことだ。

 このメルキド王国に異世界人が現れた。

 手筈通り異世界人は、出現した街や村で冒険者ギルドに加入させられる。

 そのときの申請書に書かれた『職業』は、全てグランドマスターである私へ報告される仕組みになっていた。


 アーサーとメアリーの職業を見たときの衝撃は、今でも覚えている。

 『勇者』『賢者』『聖女』といったありふれたものではなく、過去に誰も書いたことのないような職業。

 意味がわからなく、本人達に聞くと『剣』と『剣の鞘』だという。

 はじめはバカにしていたのだが、それからの成長は凄まじく驚かされた。


 私はその経験から、聞いたこともないような職業に就いた異世界人をマークするようにしていた。

 利用価値のある異世界人は、人族ではなく我らエルフ族に従順させなくてはならない。

 それには、この世界の知識がないうちに囲うのがいい。早ければ早いほどいいのだ。


 そして、とうとう現れた。

 職業『チートスキル強奪で世界最強になった主人公』に就いた異世界人。ミムラだ。


 アーサーとメアリーのときと同じように衝撃を受けた。

 職業については理解に苦しむが、『チートスキル強奪』の文言に私は興味を惹かれた。

 これが私の予想どおりのスキルであれば……私の計画に反対していた長老会を黙らせることもできそうだ。


 それからは、ギルドの職員による情報収集だけではなく、隠密行動が長けた部下に日々の行動を監視させた。

 三日後、部下から驚くような報告が上がる。


「この三日間。ミムラは異世界人と2人だけのパーティーを組みました。そして……パーティーメンバーを殺しました」

 

「どういうことだ? ミムラは異世界人を1人殺したということか?」


「……違います。三日間で3人の異世界人を殺しています。クエストに出る度、毎回殺しているのです」


 どういうことだ?

 異世界人を殺すメリットはなんだ? 彼らは大切なエルフ族の資源だ。

 もし本当なら、止めさせなければならんが……


「そして驚くべきことに、ミムラはスキルが使えるのです!」


 部下は目を見開きながら、両手を机につき身を乗り出してくる。

 

「ヤツは異世界人だ。スキルが使えるぐらい珍しくあるまい」


「それが……こ、殺した相手のスキルが使えるようになっているのです。3日間で3回そのシーンを見ましたので間違いありません!」


 や、やはりそうであったか!

 殺した相手のスキルを奪えるのか!?


「しかも、一度はこれから殺す相手のスキルを使って殺したんです!」


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