第78話 死神

「おい、小僧ォ。なぜおまえが『魔刀断罪だんざい』を持っておる?」


 アレッサンドロは目を見開きながら、俺の持っている刀を指差した。


「魔王から言うこと聞かないヤツにはコレを見せろと預かった。俺はタクミ。カルラとゲイルの仲間だ。人族だけどドワーフの大使でもある。とにかく一度撤収だ。これはカルラの作戦だ。聞き入れてくれ」


「——大将から断罪を預かるだと! その気配は間違いなく本物……人族の小僧に渡すとは意味がわからんが……野郎ども! 引き上げるぞォ!」


 そこからは早かった。アレッサンドロが指示すると、魔族はすぐに撤退行動に入った。

 『心の壁』バリアがあるので殿しんがりは俺が担当したが、撤退中に王国軍の追撃はなかった。

 相手もアレッサンドロが居なくなることに歓迎しているのかもな。


 魔族軍が陣形を整えるのに合わせて、連合軍の陣形も王国軍、冒険者ギルド、エルフ軍の三層で横陣隊形になっていく。

 さっきまでいなかった冒険者ギルドとエルフ軍が出てきた。

 とうとう敵も本格的にしかけてくる気になったのか?

 俺としては、その前に撤退したいところだが、ひとつ懸念があった。

 俺達が撤退すると、また近くの魔族の集落が襲われる可能性もあるんだよな。


 そんなことを考えているうちに、魔族軍の中央あたりでカルラ達の姿が見えた。

 みんなに合流すると、ミアがそっと俺の横にやってくる。


「タクミ、お疲れさま。実は困ったことが……まわりからの視線が痛いんだよね。クーちゃんが暴走しそうで……」


 ミアの言われて、耳を澄ましてみると。


「なんで、人族のやつらがここにいるんだ……敵じゃないのか?」

「アイツらのせいで俺達の仲間が……」

「人族が何の役に立つんだ! しかもガキまで連れてきて……」


 なるほど……クズハはこの険悪な空気にあてられてるわけね。

 

「カルラは周りに俺達のこと説明してないの?」


「いや、説明してくれて少しはマシになったんだけど。カルラが居ないところでは、あんな感じなんだよね」


 まあ、しょうがないよな。彼らにしてみれば、俺とミアは何の実績もないからな。

 しかも、戦争真っ最中で人族は敵軍ときたもんだ。

 ましてや、ここにくる直前に住人の全てが惨殺された集落を見ているんだ。

 ピリつくのも無理はない。


 『魔刀断罪だんざい』を見せれば一発なんだろうけど、俺はもうアレに触りたくない。

 俺はクズハに状況を説明しようと振り返る。

 すると、ミアに抱っこされているクズハへ、魔族の若い兵士が近寄ってきていた。

 クズハは鼻にしわを寄せて嫌悪感を露わにしている。


「ここはガキの遊び場じゃねえぞ。——なんだこれ?」


 バカ! やめろ!

 魔族の若い兵士は、あろうことかクズハの尻尾を掴んで引っ張った。


「氷結……」


 ピキィィィィィィンと甲高い音とともに、クズハに絡んだ魔族の兵士は一瞬で氷に覆われてしまった。

 周りがザワつきだすが、クズハは鋭く禍々しい殺気を周りにばら撒く。

 粘着性を帯びた空気が身体に貼り付き、恐怖が身体に染みこんでいくような異様で濃厚な殺気。


「クズハ。やめなさい。彼らは味方だ」


「味方じゃありんせんよ。ワッチ達をバカにするだけで歓迎はされてねえようでありんす。こんなヤツらは放っておいて帰りんしょう」


「クズハ……」


「それとも、いっそ殺しちまいんしょうか」


 クズハの目が妖艶な色を帯び淡く輝きだした。

 九尾の尻尾を触った行為が何を指すのかわからないが、これは行き過ぎだな。


 ふぅ……やるのか? やらないとダメなのか?

 これが一番手っ取り早いのはわかっているが、本当に心臓に悪いんだよな。

 俺はあきらめて『収納バングル』から『魔刀断罪だんざい』を取り出した。


「お、おい、あれ魔王様の断罪じゃないのか!?」

「なぜ人族が持っている……」

「あいつ……なんで魔王様以外が持って無事なんだ?」


 おい。最後の物騒な台詞はなんだ? 無事ってなんだよ。

 カルラとゲイルも目が飛び出るんじゃないかというぐらいビックリしていた。

 クズハはミアの後ろにまわりこみガタガタと震えている。


「ちょ、ちょっと! お父様は何を考えているのよ。すぐにしまって! タクミ死ぬわよ!!」


 死ぬ? 初耳なんですけど!

 ん……なぜだ? 今回は暴れない。


(……安心おし。エンツォのハナタレに頼まれてるからねぇ……)

 

 魔王に頼まれた?

 あっ、マズい。そんなことよりも周りが大変な騒ぎになっている。


「クズハ、そいつを元に戻してくれ。そして魔族に告げる。この刀は魔王エンツォから預かった。魔族ならそれの意味がわかるとな。俺とそこにいるミアとクズハは、魔王から頼まれてここに来た。文句は直接魔王に言ってくれ」


 俺は刀を『収納バングル』に戻した。

 クズハは妖術を解除し、泣きながら俺にしがみつき謝る。


「怖がらせてごめん。クズハを怒ったわけじゃないからな」


 クズハの頭を撫でてたら、ギュッとされた。

 かわいいな。癒やされる。


 カルラが多くの魔族が見ている前で、俺達に深く頭を下げた。


「我が国の者が、大変失礼な態度をとり本当に申し訳ありません。どうか謝罪をお受け取りいただけないでしょうか」


 魔族の王女であるカルラの謝罪の言葉に、周囲の魔族達はひっそりと静まり返った。

 なるほど……この機会に一気に済ませようということね。


「謝罪を受け入れます。俺達は魔王エンツォの依頼でここにきました。俺とミアは人族だけど、ドワーフの大使でもあります。人族を信用するのは難しいでしょうけど、共に戦うために来たのでよろしく」


 そう言ってカルラと俺達は握手を交わす。

 それからは俺達に対する魔族の扱いは180度変わった。


「カルラ、あれでよかったか?」


「ええ。まさか『魔刀断罪だんざい』を持ってきているとは思わなかったわ。おかげでお父様の依頼であると同時に、信頼の厚い人物だと証明ができた。そしてミアとクズハには不快な思いをさせて本当にごめんね」


「気にしなくていいよ。雨降って地固まるって言うしね」


「次、尻尾触ったら殺しんす」


 ……く、クズハさん。目がマジなんですけど。

 俺も尻尾を触らないよう気をつけないとな。


 ——その後、当初の予定通り魔族軍を魔族領の森近くまで後退させた。

 その間、連合軍はこちらを追ってくることはせず横陣隊形のままだった。

 陣形を整え終わったゲイルとアレッサンドロが、布で作った簡易的な本部に戻ってきた。


「みんな集まったようだから、今後の作戦について話し合うわよ」


 ここには、カルラ、ゲイル、アレッサンドロ、ミア、クズハ、俺がいる。

 せっかくだからカルラの許可をもらい、魔王とアーサーにも念話を接続した。


「——ということで、一度ここから撤退しようと思うの」


 これまでの戦況は、魔族軍が死者ゼロ。軽傷者102人。全員ポーションで治療済み。

 連合軍はメルキド王国軍が死者1000人。負傷者2000人規模の被害になるそうだ。

 エルフ軍と冒険者ギルドは戦闘に参加してない。

 

 人族と魔族、ドワーフ族で正式に同盟を締結し、それからエルフ族と戦うのが戦略の基本方針だ。

 だから、戦争を優勢に進めているように見えるが、実は仲間内で削り合ってることになる。


「カルラの嬢ちゃん、話はわかったが今撤退するのは無理だぞ。ワシたちが居なくなれば近くの集落が襲われるかもしれん」


 アレッサンドロの意見は、俺も同意見だった。

 だからアーサーの力が必要なんだ。


『アーサーはいつぐらいに、ここに着けそう? 開戦してしまった以上、きっちり両軍が同意した上で停戦する必要があると思うんだ。連合軍はアーサーにまとめてもらいたい』


『たぶん……2時間以内には着けると思う。連合軍の説得は任せて欲しい。メルキド王の勅令もあるからね』


 少し間を置き、アーサーは話を続けた。

 

『——僕が言うのもおかしな話だけど、油断はしないでほしい。冒険者ギルドには異世界人。エルフ族には魔道具があるからね。特に冒険者ギルドに『死神』と呼ばれている異世界人がいる。タクミ達と同じタイミングでこの世界にきたのに、既にSランクの強者だ。が出てくると戦況は大きく変わる恐れがある』


 Sランクか……スキルがチートなのは間違いないな。

 問題なのは、スキルの効果だな。

 即死とかは勘弁願いたい。


 この後、会議では停戦条件や戦争を継続した場合について話し合われた。


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