第74話 連合軍
◇ 【エルドール視点】
——5月6日 朝8時頃 『エルフ軍』『冒険者ギルド』『メルキド王国軍』連合軍本部の会議室。
ノックの後、1人のエルフ族の男が入ってくる。
平穏を装っているが、少し息を切らしている。
どうやらここまで走ってきたようだ。
この連合軍本部の会議室には、冒険者ギルドの
同じエルフ族ともあろう者が、余裕なく優雅さに欠ける行動をとるなんて……
誇り高きエルフ族の醜態を、大勢の前で晒すとは感心できないわね。
「報告いたします。敵である魔族軍を例のエサで釣り上げることに成功いたしました! あと2時間ほどで魔族領の森からポイントAへ侵入する予定です」
「おおっ、今回の作戦で一番難しいと言われていたところが成功しましたか!」
「これで作戦は成功したも同然ですな」
こんな些事で喜ぶとは……劣等な人族は理解できるけど、この伝令はやはりダメね。
作戦が成功するなんて当たり前じゃない。
私が直接指揮したのだから。
「それで、報告は終わりかしら?」
「し、失礼いたしました。エルドール様、我らが『
ふっふふふ。『エインフェリア』……良い響き。
神から唯一認められし種族であるエルフ族。
その軍団に『
人族と魔族の国境は平野になっていて、中心から魔族領側をポイントA。人族側をポイントBと連合軍では呼んでいる。
この連合軍本部は、ポイントBよりもさらに人族側へ1キロ離れた場所に配置されていた。
今回の軍事作戦に動員された兵力は、『
冒険者ギルドの異世界人は、王都メルキドにあるギルド本部所属の者だけで構成されている。
他の街や村にあるギルド支部からは、時間が足りず招集できなかったらしい。
「報告ご苦労様。あなたは戻っていいわよ。ギブソン将軍も手はず通りにお願いしますわ。この戦の目的をお忘れなきように」
「ええ、わかっています。こっちの心配はいりませんよ。それよりも、ちゃんとエサに引っかかったのか気になります。獲物がいないことには、どんなに狩りの計画を立てても意味がないですからね」
このギブソンという人物は、40代で強面だが面倒見がよく部下からの信頼は厚い。
人族最強と言われているアーサーとメアリーからは、父であり親友でもあると慕われているらしい。
「大丈夫よ。ギルドの
「ギブソン将軍、獲物の件は安心してくれ。こちらの情報網では、ちゃんとエサに食らいついたと報告があった。ただ一筋縄ではいかない相手だ。決して油断しないように」
レゴラスは、冒険者ギルドの最高責任者という地位を利用して、異世界人のスキルを使った独自の連絡網を持っていた。
異世界人は、この世界の種族が使えるスキルとは全く異なるスキルが使える。
人数は圧倒的に少ないが、こいつらのスキルは有益でもあり脅威ともなる。
この異世界人は人族にしか現れない。だから我らエルフ族は、冒険者ギルドという組織を作り、異世界人を実質的にエルフ族で囲い込むことに成功した。
冒険者ギルドの設立理念は『全ての種族を魔物の脅威から守る』で、種族間の戦争には関与しない規則になっている。
その規則を無視しても誰からも咎められないのだから笑える。
「エルフ族のお二人が数年かけて考えた悪巧みだ。上手くいくことを祈ってますよ。私は魔族軍と戦うためポイントAへ向かいます。エルドール大使も抜かりなく準備をお願いしますね。では私はこれで失礼します」
ギブソン将軍が連合軍本部を出て行った。
この私に『抜かりなく』と言いやがった。人族の分際で……
「ヤツはどうでしたか? この作戦に参加した時点でアーサーよりも手なずけやすい証明になっているかと」
レゴラスはこの作戦が始まる前に、アーサーよりも協力的で御し易いと、私に推薦してきたのだ。
「アーサーと裏で繋がっていたらどうするの? 我々を裏切らない確証はあるのかしら」
「ええ、もちろんです。今回の作戦に引き入れるにあたり、ヤツにはアーサーの親友を直接殺させました。異世界人には踏み絵という行動らしいですな。もうアーサー側に立つことはできませんよ」
レゴラスは慢心の笑みを浮かべる。
グランドマスターなんて、ただの名誉職だと思っていたけど、意外に使えるようね。
「この道化師にはしっかりと演じてもらわないとね」
「はい。全ては作戦通りに進んでおります」
今回の作戦は、レゴラスが計画したものだ。
アレのために、こんな大掛かりなことをするなんて、私には理解できないわ。
この作戦を許可した長老様もとうとうおボケになったのかも。
まあいいわ。私が長老になってエルフ族を導いてあげるから。
レゴラスもせいぜい私のために働きなさい。
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