第52話 出口
魔物を強くしてレベルを上げる……とても魅力的な言葉だった。
実際にレベル上げをすると、魔物との戦闘よりもランクの高い魔物を探す方が大変なのだ。
つまり自分のレベルに合った狩り場の確保だ。
機会があれば魔族の秘密訓練に俺も参加させてほしいと、ダメ元でカルラにお願いしてみる。
「ふっふふふ。いいわ。やっぱりタクミもこちら側だったのね。歓迎するわ」
こちら側?
何のことを言ってるんだ。
魔族はみんな戦闘狂なのか。
なぜかゲイルまでニヤリと笑いながら俺を見ている。
……まさか、この展開に誘導されたのか?
魔族領に行くのが少し怖くなったが、まあ修行するにしても当分後のことになるだろう。
今は緊急事態で、そんな時間は無いだろうからな。
その後も途中で遭遇したオーガは、俺とミアの経験値とさせてもらった。
地下1階に上がってから、そろそろ1時間ほど歩いた。
ゲイルの話だと、出口は近いそうだ。
そのあとすぐに通路が行き止まりとなり、そこにあった階段を上った。
やっと地上階だ。
メルキド王国側と同じ造りなら、この通路を少し歩けば外に出られるはずだ。
バスケットコートぐらいの広さの場所に出た。
その先に明かりが見える。あれが出口だな。
そのまま進み出口に近づくと、二人組の人影が外から入ってきた。
逆光で顔がよく見えないが、冒険者のような装いだ。
「やっと会えたよ。タクマとミオ」
タクマとミオって……もしかして。
「あ、アーサーさんとメアリーさん?」
ミアは驚き名前を口にする。
それは俺達が一番会いたくない相手の名前だった。
「よかったよ。覚えていてくれたんだね。エルフからの要請で、タクミとミアを捕まえ……」
「きさまぁ、よくも仲間をぉぉぉ!」
激情したカルラが、アーサーに向かって無詠唱で魔法を放つ。
サッカーボールぐらいの大きさの炎の弾が、まわりの空気を歪めながら高速でアーサーを襲う。
アーサーはメアリーさんの前に立ち、右手を前に突き出し炎の弾を受け止めた。
その瞬間大爆発が起こり、衝撃が空気を伝搬しその後から爆風が周囲を吹き飛ばす。
俺はミアの前で『心の壁』バリアで防ぐ。
バリアの範囲から外れた壁に、衝撃で亀裂が走る。
な、なんて威力だ。
カルラのやつ、こんなに強かったのか。
爆発により立ちこめた煙がおさまる。
そこには、何ともなさそうな顔をしたアーサーの姿があった。
右腕を中心に、上半身の服は焼け焦げていた。
魔法を受け止めた右の
どうなっているんだ。血が一滴も流れていない。
「ちょっと待っ……」
「うるさい! おまえのせいでみんな死んだんだ!」
アーサーの言葉を遮り、カルラが叫ぶ。
その瞬間、ゲイルがどこからともなく現れ、アーサーの腹部を剣で切りつけた。
完全にアーサーの意表を突いた攻撃。
しかもあの剣は俺が攻撃力を『+95』に『改ざん』した『
しかし、アーサーが切れた箇所は服が破れただけで、浅い切り傷しか見えなかった。
「ば、バカな……」
ゲイルから声が漏れる。
俺達は絶句した。
確かにあの防御力には驚愕する。
しかし、それ以上に異様なことが起きている。
傷から血が一滴も流れていないのだ。
「みなさん、落ち着いて! まず話を聞いてください」
メアリーさんの声が響く。
「タクミ、こいつらは
カルラが、俺を睨む。
瞳がギラギラと炎のように猛っている。
「タクマさん、少しだけでも話を聞いて下さい」
メアリーさんの声には、俺にすがるような焦りがあった。
どちらの意見に耳を傾けるか……いや悩む必要はない。
選択肢は最初からないに等しいからな。
「わかりました。話を聞きます。ただし、少し離れた距離でお願いします」
「タクミ!」
カルラが俺に食い下がる。
「ゲイル! カルラを連れて少し離れてくれ」
俺はミアの近くに移動する。
『タクミよ。ミアとつないだぞ。これで良いのだな?』
『ああ。ゲイル、ミア、二人ともありがとう。カルラ聞こえているよね。まずは落ち着いて。俺達の最優先事項は、カルラがゾフに戻り魔族と人族の戦争を止めること。ここで死んだら止められなくなる』
カルラは苦々しい顔つきでアーサーを睨み、地団駄を踏む。
『……わかった。アイツは許さんが、今は話を聞こう』
俺の予想だと、こちらから手を出さない限り戦闘にはならない。
その証拠に、アーサーはどんなに攻撃されても一度も剣を手にしなかった。
それに、今は戦っても勝てないだろう。
まずアーサーの攻撃力が脅威だ。
『心の壁』バリアでも防げるか怪しい。
それ以上に脅威なのが、あの防御力だ。
ただ硬いだけじゃない。スキルだろうな。
正直な話、ダメージを与えられる気がしない。
アーサーを見ると、傷は無くなっていた。
回復力も尋常じゃないと……あいつ、本当に人間か?
場に停戦の空気が流れる。
それを察してか、アーサー達は少し後ろに下がる。
そして、深々と頭を下げた。
「まずは謝罪を……王都ではあなたたち魔族の処刑に加担してしまい申し訳なかった」
「ふざけるんじゃないわよ! 謝って済むわけがないでしょうがっ!」
「私個人の言い訳はしない。だが、人族は魔族と敵対したいわけではない。背後にエルフの圧力があったのだ。それだけは伝えておきたい」
「圧力があろうと、加担したことには変わりないわ。特にあんたほどの実力があれば、止めることもできるわよね!」
「お兄様がど……」
「メアリーいいのだ。王女の言っていることは正しい」
カルラの言葉に、何かを言い返そうとしたメアリーをアーサーが止めた。
「その通り、僕は止められたけど止めなかった。恨むなら僕を恨んでくれ。では、話の続きをする」
ここからが本題だな。
俺は念話で警戒を解かないよう全員に指示を出す。
アーサーは全員を見渡す。
「ここに来た目的は、このエルフ族に仕組まれた人族と魔族の戦争を止めるためだ。エルフ族の圧力で、メルキド王よりタクミとミアを捕まえるよう命じられているが、魔族の捕縛は命じられていない」
アーサーは俺とミアに顔を向ける。
その目には同情というか哀れみのようなものが映っていた。
え? マジか……
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