第51話 出発

 この後も試行錯誤を重ね、『携帯念話機』に改良を加えた。

 改良したポイントは、大きく2つ。


 1つ目は、着信音。

 相手から着信があったとき、頭に着信音を鳴らすようにした。


 2つ目は、通話の『入』『切』だ。

 これは『腕輪』を『携帯念話機』に1回触れると『入』。

 2回連続で触れると『切』とした。

 実際には『腕輪』と『携帯念話機』の接触は不要で、2センチぐらい距離が空いても反応する。

 

 電話と同じような操作感になり、かなり使いやすくなった。


 ちなみに、この『携帯念話機』で使用する魔法陣や模様には、電話マークが入れてある。

 これは『ゴンヒルリムの通行証』や『転送魔法陣』に反応しないよう、『携帯念話機』は異なるグループのモノだとミアにイメージしてもらうためだ。

 

 俺とミアが残り全ての『携帯念話機』を作り終えたとき、しらじらと夜が明けようとしていた。

 

 ◇


 ——入出管理室。


 朝方まで『携帯念話機』を作っていたため、当初の予定より2時間ほど遅らせて出発することになった。

 ここには俺、ミア、カルラ、ゲイルの四人。そしてゴンさん、タタラさん、棟梁達がいる。


 『携帯念話機』は、俺達四人、ゴンさん、タタラさんに渡してある。

 残りの6台はぬいぐるみのポケットに収納済みだ。


「ほれ、これを持って行け。時間が無くて4つしか作れんかったがの」


 棟梁達は台車を引いてきた。

 そこには金属製の板が4枚積まれていた。

 俺が依頼したのは、ポータブルって言葉が似合うぐらい持ち運びが便利なモノだったはず。


「……結構重そうですね」


「ワシらも持ち運べるモノを作るつもりだった。だがな、よく考えてみると重視するポイントは軽さではなく、頑丈さだと気づいたのだ。だから堅鋼アダマンタイトで作った。しかも、魔法陣は外から見えない作りになっているぞ」


 ん? 魔法陣をわざわざ見えないように作っただと。

 ……なるほど、それは確かにこのスタイルが正解だな。


「みなさんありがとうございました。確かにその通りですね。転送魔法陣の本体は、転送後その場に取り残される。だから設置後も壊れることなく、転送魔法陣だとまわりにバレないことを重視した訳ですね」


「おおっ、さすがタクミだ。タクミなら分かってくれると信じとったぞ。あともう1つ報告がある。転送魔法陣は地上からも使えた。これは物流革命が起きるぞ!」


「「「「おおおおっ」」」」


 これで転送魔法陣さえ設置すれば、ゴンヒルリム経由で楽に移動できる。

 そして同じ仕組みで作った『携帯念話機』も外でも使えるはずだ。


「いろいろとご協力ありがとうございます。これで安心して出発できます」


「ワシからも新たに就任したドワーフ大使に贈り物がある。ミアよ、これを持っていけ」


 ドワーフ王は、ミアに『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪を渡した。


「え! これわたしがもらっていいんですか?」


「当たり前だ。タクミとミアはドワーフの大使だ。タクミにも言ったが、この腕輪はドワーフ族の信頼を証明するモノでもある。大使が持たずに誰が持つ。ちゃんと登録手続きをしているから、腕輪を着けて大丈夫だぞ」


 『ゴンヒルリムの通行証』は譲渡の手続きをとらないで着けると壊れる仕組みになっている。

 これで、あの腕輪はミア専用になった。


「ありがとうございます。大使の名に恥じないようがんばります」


 みんなから拍手がわき起こる。

 これで、ミアも移動式転送魔法陣を起動できるようになった。


 おっと、俺も渡すモノがあったんだ。


「ゴンさん、タタラさん、これが例のアレです。あとはお願いします」

 

「タクミよ。本当にやるのか?」


「ワシもちょっとやりすぎな気がするが……」


 俺が大きな袋を渡そうとすると、ドワーフ王とタタラさんが手に取るのをためらう。

 

「いえ、これは大事なことです。俺はククトさんとマルルさんを自分の甘さで死なせてしまった。あんなことは二度と起こさせません」


 二人ともしぶしぶ受け取り頷いてくれた。

 これで本当に準備万全だ。


「よしっ! 魔都『ゾフ』へ出発しよう」


 ◇


 ——シラカミダンジョン地下3階


 タタラさんに、魔族領から一番近い転送魔法陣に転送してもらった。

 地下3階の地図をもらったので、道に迷うことはない。


 移動中も『携帯念話機』のテストを繰り返す。

 とにかく使うことに慣れないとな。

 カルラとゲイルは、携帯やスマホの利用経験が無いから特にだ。


『前から魔物が2体くるぞ』


『俺とミアでいく。ミアは向かって左を頼む。カルラは後ろを警戒してくれ』


『『了解!』』


 今は俺とゲイルの『携帯念話機』がつながっている。

 『携帯念話機』は同時に1台までしか接続できない。


 複数人で同時に念話するには、『腕輪』を着けて『携帯念話機』に近づく必要がある。

 スマホの通話をスピーカーにして、みんなで話しているのと同じイメージだ。

 

 魔物の姿が見えてきた。

 人型だったのでスケルトンかと思いきや、全長2メートルを軽く超え、巨体は筋肉で覆われていた。

 鬼のような顔つきで、巨大な斧を持っている。


『あ、あの、とても強そうなんですけど』


 ミアが俺をチラっと見る。

 最近戦った相手は雑魚ばかりだったからな。


『あれはオーガだ。魔族領のまわりは、他の種族が近づけないよう魔物を少し強くしている。冒険者ギルドでいうところのBランクだな』


『意図的に強い魔物を作れるのか?』


『魔石を与えればいい。食べた魔物は『罪』が溜まり強くなる。他種族が魔族領へ侵攻するときの要所、その付近の魔物を強くしているのだ。言っておくが、他種族を攻撃するのが目的ではないからな』


 なるほどな。

 けど、カルラを攫ったエルフ達は、そんな強力な魔物達を突破したわけだ。

 意外に侮れないな。

 

「ミア、俺からいく」


 ミアを安心させるためにも、俺からオーガに接近し戦闘を開始する。

 この通路は直径3メートルぐらいの広さのため、オーガはコンパクトに斧を振ってくる。

 俺は『心の壁』バリアで防いだ。


 二度三度と防ぐと、オーガはバリアを壊すため斜めに大きく振りかぶった。

 目が慣れた俺は、バリアで受け流す。

 斧の刃が頭上を滑る。

 俺はライトセーバーでオーガの両足を切断、返す光刃でずり落ちてくる上半身から首を切断した。

 オーガは黒い煙となって消える。

 

 ミアを見ると、斧を持つ手首を切り落としたところだった。

 俺の戦い方を見ていたのか、両足を切りつけ動きを封じた後にとどめを刺した。


 ゲイルとカルラがこちらにやってきた。


「お疲れ様。オーガ相手なのに余裕なのね」


 ゲイルとカルラの雰囲気に緊張感がない。

 まあ、魔族は魔物に襲われないから当たり前か。


 ん? ちょっとまてよ。

 あの二人のレベルって、ゲイルが91でカルラが76だったはず。

 魔物に襲われないのに、レベルが高すぎるだろ。

 まさか……

 

「魔族は意図的に強い魔物を作って、レベル上げてたりする?」


「「…………」」


 当たりだな。


「きちんと管理してやってるなら、俺はアリと思っているよ」


「う、うむ。魔族の数は少ないのだ。少しでも生存率を上げるために、我らの特性を活かしたレベル上げを子供の頃から行っている。他の種族に申し訳なくて言い辛かったのだ」


 マジか。俺も一緒に修行させてほしいんだけど。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る