第50話 携帯念話機

 ——俺達は入出管理室に戻った。


 タタラさんが制御室に案内してくれた。

 制御室は4メートル四方ぐらいの広さで、ドアから入って正面の壁は見たこともない材質だった。

 タタラさんの話では、この壁はディスプレイのような働きをするらしい。


 部屋の中央に置かれた机の上には縦8センチ、横6センチぐらいのパネルがたくさん並んでいる。

 ひとつひとつのパネルには縦に4つ、横に3つ、合計12個の正方形の模様が描かれていた。


「パソコンのテンキーが、たくさん並んでるみたいですね」


 ミアがこぼした感想を聞いて、たしかにその通りと思った。

 あの正方形の模様は、タッチ式のボタンなんだろうな。


「説明するぞ。この机の上のボタンはシラカミダンジョンの転送魔法陣と紐付いている。転送魔法陣の近くに『ゴンヒルリムの通行証』があると、ボタンが光るのだ」

 

 検証のため、ゲイルがゲスト用の腕輪を着けてシラカミダンジョンに移動してくれた。

 すると、机の上のボタンが1つ点灯した。

 

「この光っているボタンを押すと、その転送魔法陣とつながる」


 タタラさんはそう言うと、点灯しているボタンを押す。

 正面のディスプレイに、転送魔法陣の近くにいるゲイルが映し出された。


「「「おおっ」」」


 俺とミアとカルラから、驚きの声があがる。


『こっちの声は聞こえとるか?』


『ああ、大丈夫だ。聞こえている』


 ミアとカルラを見ると会話が聞こえていないようだった。


『ゲイル、俺の声は聞こえるか?』


『ああ、タクミだな。聞こえているぞ』


 タタラさんの腕を見ると『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪が着いていた。

 なるほどな。制御室側も腕輪の所有者だけが通話できる仕組みのようだ。


「タタラさん、もう大丈夫です。ゲイルを戻してください」


「この右端のボタンは、各入出管理室に紐付いている。転送させたい部屋のボタンを押せば、魔法陣からその部屋に転送できるようになる」


 なるほど。

 ディスプレイと通話で、相手を確認することができる。

 だから転送許可を出さないこともできるし、転送先の部屋で待ち伏せすることも可能。

 これは罠を張るにはもってこいだな。


 ◇


 ——制御室

 

 ゲイルが戻ってきた。

 さてと、これからが本題だ。


「タタラさん、このパネルが壊れたときはどうしてるんですか?」


「パネルは取り外しできるようになっておる。そこの棚に予備が沢山あるから、取り替えれば終わりだ」


 棚の中を見せてもらう。

 沢山のパネルの予備が積まれていた。

 古代人にとっても、この装置はかなり重要だったことがわかる。

 この街の唯一の出入り口だから当たり前か。


「壊れたパネルはありますか?」


「棚の一番下の引き出しにあるぞ。本当は倉庫に運ぶんだが、邪魔にならないからここに置いてある」


 よしっ! あの倉庫から探すのは無理ゲーだからな。本当に助かった。

 まあ、壊れたパネルがない場合は予備パネルをなんとか譲ってもらうつもりだったけどな。


 一番下の引き出しには、20枚のパネルがあった。

 そのうち8枚は割れていたので、残りの12枚のパネルをもらうことにした。


 ◇


 ——入出管理棟の外に出る。


 時間はお昼をまわっていた。

 ここからは手分けすることにした。

 カルラとゲイルに時間が無いことを説明して、旅の買い出しをお願いする。

 食料品とポーションの補充を頼み、その他についてはお任せだ。


 俺とミアは棟梁達の工房へ向かった。

 工房に着くと、ミアを見つけたドワーフたちが騒ぎ出す。

 棟梁達もすぐに工房から飛び出してきたので、探す手間が省けた。


 何を作ろうとしているかの説明は避け、必要なパーツの打ち合わせをする。

 今日中に12セット納品という無理難題も、快く引き受けてくれた。


 ◇


 ——ドワーフ王の館

 

 俺達がドワーフ王の館に着いたときには、カルラとゲイルは既に戻っていた。


 棟梁達には、出来たモノから届けて欲しいと依頼してある。

 俺はそれを待っている間、カルラ達が買ってきてくれたポーションを『改ざん』スキルで強化した。


 そのあと簡単な食事会が行われ、ドワーフ王がにやり顔で俺に話しかける。

 

「棟梁達から話はきいたぞ。何かの部品らしきモノを依頼したそうだな。何を作る気なんだ?」


 俺はのアイデアと、その危険性から特定のメンバー限定の連絡手段にするつもりだと説明した。


「また面白いことを考えたな。使えるのは特定のメンバーだけなのか……」


「安心してください。そのメンバーにゴンさんも含まれています。というか、参加してもらわないと困ります」


 それを聞くと、ドワーフ王はソワソワした態度から急に笑顔になる。

 

「そ、そうか。よしっ! 決めたぞ。タクミとミアをドワーフの大使とする。ワシと直接連絡が取れるし、これからの旅を考えると肩書きはあった方が良かろう」

 

「それはありがたいですが、人族なのにドワーフの大使と名乗って信じてもらえるんですか?」


「一般人には無理だな。だが、王族やその周囲にいる奴らには通じるぞ。その腕輪を見せればな。人族で『ゴンヒルリムの通行証』を持つ意味は深いのだ」


 カルラの父親である魔王と交渉するときに、この肩書きがあるのはとても助かる。

 この提案を俺はありがたく引き受けた。

 

 その後、明日からの旅について話し込んでいると、棟梁に頼んだパーツが2セット届けられた。

 残りの10セットが届けられる前に、試作品を作るとするか。


 ◇


 作業するために応接室へ移動した。

 作成依頼したパーツは『制御プレート』『魔法陣カード』『腕輪』だ。

 これが手元に2セットある。

 

「ミア、まずは『魔法陣カード』からだ」


 俺はミアに金属製の『魔法陣カード』を渡す。

 カードには転送魔法陣、電話マーク、数字が刻まれている。

 数字はカード毎に異なり、手元のカードは1と2が刻まれていた。

 ミアは『魔法陣カード』を手に持ち、転送魔法陣をイメージして『デフォルメ』スキルを使った。


「次は、『制御プレート』をお願い」


 俺がミアに渡した『制御プレート』には、電話のテンキーと同じ並びで1から12までの数字がボタンに刻まれていた。

 そして上部には小さな電話機マークが刻まれている。

 ミアは『制御プレート』を手に持ち、入出管理室の制御装置をイメージして『デフォルメ』スキルを使う。


 俺は『制御プレート』の裏側にある凹みに、『魔法陣カード』をはめ込む。

 カードとプレートの境目がわからないぐらい、ピッタリとはまる。さすがの技術力だ。

 ちなみに、一度はめると取り外せない細工になっている。


 これで『携帯念話機』の本体は完成した。


「最後は『腕輪』だ」


 『腕輪』の内側には、 『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪の内側の模様と電話機のマークが刻まれている。

 ゴンヒルリムの通行証をイメージして、ミアは『デフォルメ』スキルを『腕輪』に使った。


「……できました!」


「ミア、お疲れ様。さっそく試してみよう」


 俺とミアは、それぞれ『腕輪』を着け『携帯念話機』を手に持つ。

 すると1と2のボタンが点灯した。


 これは『転送魔法陣にゴンヒルリムの通行証を近づけると、制御装置のボタンが点灯する』のと同じ現象だ。


 俺の『携帯念話機』は1、ミアの『携帯念話機』は2の数字が刻まれている。

 俺は点灯している2のボタンを押した。

 そして、頭の中でミアに話しかける。


『聞こえていたら、右手を挙げてくれ』


『ふっふふふ。念話してるんだから、頭の中でおしゃべりできたら成功ですよ』

 

 ミアは微笑みながら、右手でピースサインをつくってみせた。



――――――――――――――――

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