第49話 探し物
俺とミアは倉庫のエントランスに入る。
目の前にある扉は、金属製のかんぬきで開かないようになっていた。
「1階からは中に入れませんので、2階に上がってください」
警備の男が教えてくれた。
右手の階段から2階に上がる。
通路の向かい側の扉を開き、中に入ると全てを理解した。
この建物は体育館のような作りになっていた。
2階の中央は大きな吹き抜けになっていて、その周りに観覧席が囲んでいる。
俺達は、観覧席の扉から中に入った格好だ。
そして、体育館の中央のスペースには、びっしりと2階まで積み上がった粗大ゴミの山があった。
「こ、これは予想していたのと違いすぎてびっくりです。1階からは入れないのも納得ですね」
「ああ。これはマズいかもしれないな」
「これ、全てがアーティファクトなんでしょうか?」
「……違うと思う。今気づいたけど、アーティファクトとただの道具ってどうやって見分けるんだ?」
「鑑定スキルがないと見分けられないかも。その結果がこの山になったんですね」
「ドワーフの恩恵のひとつに『目利き』があるけど、きっとアーティファクトかどうかの区別はできないんだろうな。ある程度価値があると判断したものを、とりあえずここに放置している感じかな」
壊れてパーツが外に飛び出しているモノや、大きな装置の残骸とかもある。
ここから探すのは気が重いが、とにかくやるしかないな。
俺達は、そのまま2階の観覧席の最前列から、積まれた山の上に降りる。
降りた場所から軽くジャンプすれば、観覧席の手すりをつかめるので、戻るときの心配はいらなそうだ。
この山が崩れなければだが。
「そういえば、ここで何を探せばいいんですか?」
「あっ、ごめん。言い忘れてた。電話のような連絡手段がほしいんだ。今はドワーフ族と魔族につながりが出来たから、連絡手段を確保したい。それに戦う上でも圧倒的に有利になれる」
「わかりました。それ以外にも面白いものを見つけたら声かけますね」
俺達は二手に分かれて探した。
しばらくすると、ミアが俺を呼ぶ。
行ってみると、ミアが無言で地面を指差していた。
……なんか銃のように見えるんだが。
弾丸を飛ばすような作りではなく、光線銃なのか?
「これは、強そうですけどマズいですよね……」
「うん、止めておこう。魔法が使える世界で考えすぎかもしれないけど、誰でも簡単に人を殺せる武器は危険だ。この光線銃を知ったエルフが、魔道具で同じようなモノを研究開発し世界に広めるとか最悪すぎる」
ライトサーベルも同じようなものだが、銃系の武器はマズい。
攻撃されたことに気づけないと、『心の壁』バリアで防げないからな。
殺傷力の高い遠距離攻撃の武器を誰でも使える世の中とか、俺とミアにとって相性が悪すぎる。
なによりも、銃に怯える世の中にはしたくない。
そう考えると、この先作り出すモノはかなり気をつけないとな。
ドワーフ達が絡むから、今までのような制御はきかない。
「あっ、ありましたよ!」
俺はミアの視線の先を見る。
そこにあったのは、電話ボックス。
本来の使い方は知らないけど、俺には電話ボックスに見えた。
「これだと持ち運び大変だな」
「違いますよ。これはもしもボ……」
「いや、それはダメだ。それを使うと、この世界とは別の世界になってしまう。俺はこの世界のククトさんとマルルさんを救いたい」
「た、たしかにそうでした。危うく甘いワナにひっかかるところでした」
くっ……なんてモノ置いてあるんだ。
『赤き
夢は広がるが、それは今じゃない。
この後も電子レンジや冷蔵庫をイメージできるモノなら見つかった。
あると便利だけど今は必要ない。
まずいぞ。
時間だけが無情にも過ぎていく。
そもそも手のひらサイズのモノがほとんど見当たらないのだ。
もしかすると、……モノとモノの隙間からどんどん下に落ちてるとか。
ここに来れば無条件に何か見つかると思い込んでいた。
今思えば、当時のままの家を教えてもらい、そこを探した方が良かった。
これだけ技術が発展しているんだ。
古代人も通信機器を使っていたハズだ。
……あっ! アレか。
むしろ携帯やスマホよりも、アレの方が断然良いじゃないか。
何をやっているんだ俺は!
「ミア、急いでここを出るよ」
頭に?マークを浮かべているミアの手をつかみ、急いでここから出る。
「タクミよ。どうだ良いモノは……」
「後で説明する。とにかく付いてきてくれ。時間が無い」
◇
——入出管理棟の応接室。
「タタラさん、急に押しかけてごめんなさい。この施設がどうやって『ゴンヒルリムの通行証』と通話しているか教えてもらえませんか?」
「その様子からすると、かなり大事なことなんだな? 王からはタクミ達に協力してやれって言われてるから大丈夫だぞ」
おおっ、さすがドワーフ王、仕事のできる男だ。
「助かります! それなら、まずミアに『ゴンヒルリムの通行証』を使った通話を体験してもらいたい。俺の『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪は、俺しか着けられないので何か方法はありませんか?」
「それなら、このゲスト用の『ゴンヒルリムの通行証』を使ってくれ。こいつは誰でも使えるようになっている」
そういえば年に数回、ゴミを地上へ捨てに行くとか言ってたな。
そのときに使う腕輪か。
ゲスト用の腕輪を借りた後、俺達はシラカミダンジョンに転送してもらった。
◇
——シラカミダンジョン地下3階 転送魔法陣の近く。
タタラさんから声が頭に直接聞こえた。
『どうだ? 聞こえるか?』
『す、すごいです。本当の頭に直接話しかけてくるようです』
カルラとゲイルには全く聞こえていない。
けど、俺には聞こえてるんだよね。
もしかして……
『タタラさん、これって複数人でも同時に話せるんですか?』
『ああ、話せるぞ。魔法陣と制御装置がつながれば、その魔法陣の周辺にいる全員と話せる。ただし、腕輪を所有していることが条件だ』
誰にも気づかれないで会話できるとか、最高の通信機器だ。
あとは制御装置側の仕組みがシンプルなら、なんとかなりそうだ。
俺は転送魔法陣を2枚ほど紙に模写するよう、ミアにお願いした。
ミアが模写している間、カルラとゲイルにも『ゴンヒルリムの通行証』の会話を試してもらう。
二人とも驚き感動していたが、ゲイルはこれの有用性に気づいたようで、顔が青ざめていた。
「た、タクミよ。まさか、これを作る気か?」
「ああ、言いたいことはわかる。安心してくれ。これを世の中に広めるつもりはない。限られたメンバーだけの秘密の連絡手段だ」
「そうか。それなら何も言うことはない。これを戦争や悪事で使用されたらと考えるとゾッとしたのだ」
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