第43話 転送魔法陣

「わかりました。では、みなさんと一緒に何か作りましょう!」


「そいつはいい! この枝だけでもワシの心に火がついた。目の前でアーティファクトを作ったら、そりゃ大変なことになるぞ。ワハハハハハ」


 さっきまで塞ぎ込んでいたドワーフ王が、いたずらを思いついたときのように目の奥を光らせ笑っている。


「さて、何作りましょうか? せっかくだから、こちらの生活で困っていることとかありますか? あまり時間をかけられないので、シンプルなモノがいいですね」


「ふむ、そうだな…… 改めて考えると、あまり思いつかんな」


 ミアが手を挙げる。

 

「鍛冶するときに困っていることはありませんか?」


「困ってることか……あっ、廃棄施設があると助かる。この街では各家にゴミ箱のアーティファクトがある。そこに捨てられたものは土になったり、材料ごとに分けられたりして再利用されるのだ」


 家のゴミ箱に捨てると、そのまま街でリサイクルされるとかすごいな。

 けど、それなら廃棄施設っていらないよな。


「ただし、アーティファクトのゴミ箱にも問題はある。アーティファクトに再利用できないと判断されたモノは、ゴミ箱から戻されるのだ。あと、そもそも箱に入らない大きさのモノも捨てられん」


 かなりのエコだな。

 再利用できないものは、そもそも使わせないようにしているのかな。

 それにしても、まさか……気になるから聞いてみるか。


「この街の食料はどうやって確保しているんですか?」


「巨大な倉庫があってな。そこに毎日、野菜や肉が運び込まれとる」


「外から輸入しているんですか?」


「違うぞ。勝手に置かれているのだ。ワシの予想だが、畑や牧場のような施設がこの街と同じように、シラカミダンジョンのどこかにあるのだろう。そこから転送されてるとワシは思っとる。それだけでも凄いが、この街の住民にちょうど良い量が置かれるのだ。ククト達が出て行ったとき、翌日は倉庫の食材の量が減っておったのだ」


「もしかして、日々の生活を送る上で、外から何も持ち込む必要がないとか……?」


「よくわかったな。その通りだ。この街にいれば、アーティファクトが正常に動作している間は、働かなくても生きていける。今思えば、ここに住んでおった古代人も、堕落だらくして滅亡したのかもしれんな」


 ミアが俺の袖を引っ張る。


「ここってSFとかに出てくるシェルターみたいですよね。核戦争で地上に住めなくなった人間が避難したみたいな感じの」

 

「実は俺も同じことを考えていたんだ。古代人はここで暮らしたかったんじゃなくて、ここから出られなかったんじゃないかってね。だから再利用可能なモノしか使えないって考えればつじつまが合う」


 ドワーフ王は手で顎ひげをさすりながら、何度か頷く。


「なるほどな。シェルターやSFというものが何なのかは知らんが、地上からの避難場所という考えはおもしろい。いや、そうであった可能性が高いな」


 考察をもう少し続けたいが、今は止めておくか。

 時間が無いし、謎解きする楽しみをとっておくとしよう。


「すいません。話が脱線しました。今はアーティファクトのゴミ箱に捨てられないモノはどうしてるんですか?」


「年4回ほどパーティーを組んで、地上へ捨てに行っておる。有毒なモノもあるから、ゴミ捨てとはいえ命がけよ。だから凝ったもんを作ろうとする気もおきなくなるのだ」


 片道数時間かけてゴミ捨てか……それはキツいな。

 地上のどこに捨ててるのかも気になったが、聞かないでおこう。


「わたし思いつきました! とかどうでしょう?」


「「アレ?」」


「はい。アレです」


 すごく自信満々なのが気になるが、ミアの思いつきだ。

 きっと凄いものが出来るに違いない。


 ◇


 ミアのアイデアを聞いたドワーフ王は完成像をイメージできたらしく、そこからは早かった。

 

 もともと棟梁だったドワーフを5人呼び出し、伸び縮みする枝を見せた。

 全員、目を見開き固まってしまった。


 その後、俺達はものすごい質問攻めにあう。

 作り方を見せる方が早いだろうと判断し、普通の枝をミアの『デフォルメ』スキルで伸び縮みできるようにしてみせた。


「「「「「「神の御業だ!」」」」」」


 懐かしい台詞に思わず吹き出すところだった。

 しかもドワーフ王まで混じっているとは。


 棟梁達が枝の検証あそぶ順番で揉めだしたので、ミアが全員分作ってプレゼントした。

 棟梁達は目を輝かせ飛び跳ねながら喜んでいる。

 それからは、「ミア様」と呼ばれるようになった。


「おまえら、そろそろ静かにしろ! これから造るモノは非常に危ない。下手をすると死人が出る」


 ドワーフ王の声に、棟梁達は急に真剣な顔つきになる。


「ククトとマルルが、タクミとミアをここに連れてきてくれた。今見たとおり、ワシらは魔道具どころか古代人のアーティファクトにさえ優るものを作れるかもしれん。ドワーフ族の誇りを取り戻す、最後のチャンスだ。気合い入れろ! まずは試作だ。やるぞー!」


「「「「「オー!」」」」」


 ドワーフ王と棟梁達は、応接室を飛び出しどこかに行ってしまった。

 ミアは唖然としていたが、途中から子供を相手にしている気分だった俺には、予想の範疇だった。


「あのぉ…… わたし達はどうしたらいいんでしょうか?」


「まあ、ドワーフ王なら俺たちを簡単に見つけられるだろうから、俺達の出番になるまで出かけよう。実はやりたいことがあるんだ」


 ◇


 ——入出管理棟 応接室


 俺達は『ゴンヒルリム』の出入り口となる入出管理棟の応接室にいる。

 目の前にいる入出管理官のタタラさんとお茶をしているところだ。

 

 俺達をこの街に入れてくれたドワーフだ。

 ククトさんやマルルさんの話をしているうちに、仲良くなった。


 この入出管理棟は、約100メートル四方の大きな建物だ。

 タタラさんの話だと、大きさや用途の違う入出管理室が10部屋あるらしい。

 入出管理室というのは、転送魔法陣が置いてある部屋だ。


 俺達が入ってきた部屋は、鉄の扉が一つだけありそこからしか出入りできなかった。

 他の部屋は、1000人ぐらい入れる大きさの部屋や、ビルの搬入口のように巨大な扉から直接外に出られる部屋もあるらしい。

 

 転送魔法陣の近くに『ゴンヒルリムの通行証』を持つ者が現れると、制御室に警報が鳴り知らせてくれるらしい。

 制御室からは、『ゴンヒルリムの通行証』を持つ者と通話ができる。

 ただし、この通話は音声ではなく、精神的な会話になる。音ではなく脳に直接届くような感じだ。『テレパシー』みたいなものなのか?


 この制御室から、『ゴンヒルリム』とシラカミダンジョンにある転送魔法陣の転送を制御している。

 たとえ敵の手に転送魔法陣が渡ったとしても、制御室で転送しなければこちらにはこられないそうだ。


 タタラさんから聞いた話は、期待通りの内容だった。

 これなら目的のモノは手に入りそうだ。


 俺はタタラさんにお願いした。

 

「俺達をシラカミダンジョンに転送してください」


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