第42話 酒王

 ――大広間


 俺達は使用人に案内され、大広間のひな壇に座らされていた。

 みんなお風呂に入ってきたらしく、さっぱりとし良い香りがほのかに漂っている。

 たった1時間ぐらいしか部屋にいなかったが、口を揃えるようにここでの生活は最高だと声にしていた。


 この大広間は100人ぐらい入れる大きさだ。

 ひな壇から見て両側の壁に10本ずつ、そして部屋の中央に5本の酒樽が置いてある。

 さらに予備の樽が大量に廊下に積まれていたけど、今夜だけで全部飲むのか?

 部屋にあるだけでも、4人で1本の樽を空ける計算になるが……

 

「ドワーフの友よ。どうした浮かない顔をしているぞ。安心しろ。好きなだけ飲むがいい」


「あ、ありがとうございます。お酒はこの街で作っているんですか?」


「うむ、のだ。古代人も酒好きだったのだな。ワハハハハハ」


 ここに移住した理由が、わかった気がする。

 いや、間違いないだろう。

 

 ドワーフ王の乾杯の合図で宴は始まった。

 挨拶させられるのかと思っていたが、全く無かったので助かった。


 カルラも王女ではなくただの魔族としてドワーフ達に紹介された。

 カルラのまわりにドワーフたちが集まっている。

 違う種族に対して恋愛感情があるのかは知らんが、とにかく人気があった。

 ドワーフの男が気安くカルラに話しかけるたび、ゲイルの持つコップが割れ、アーロンがオロオロする。見ていて面白い。


 俺とミアは、ずっとドワーフから飲酒の量を競う『酒戦』を挑まれていた。

 『酒戦』は『ドワーフ殺し』と名付けられたアルコール度の高いお酒を使っている。

 俺達は10戦10勝と無双状態だった。

 ちなみに、ドワーフ王ことゴンさんは8戦目に戦い、今では俺の足元で仰向けになって寝ている。


 俺とミアは『酒王』というコールが鳴り響く中、会場を後にした。

 

「ミア。わかっていると思うが、このことは絶対に内緒だ」


「そうですね。ズルとか言われて指輪を外して飲まされたら……怖すぎです」

 

「指輪は絶対に外さないように。指輪の仕組みがわからないから、外した瞬間急性アルコール中毒で死ぬかもしれない」


 俺達は、マルルさんの作ってくれた『イエロールーンの強化指輪 異常耐性+95』に感謝した。


 ◇


 ――翌朝


 朝食を各自の部屋で食べた後、昨日の応接室に集合した。


 今ここにいるのは、俺とミアの二人だけだ。

 カルラとゲイルが来ていない。

 まさかとは思うけど……二日酔いじゃないだろうな。


 応接室のドアが開き、ドワーフ王ことゴンさんが入ってきた。


「昨日は楽しかったぞ。タクミとミアがあれほどの戦士だったとは……ワシら以上の酒豪を見たのは初めてだ! ククトとマルルが認めただけはある」


 俺とミアもカルラのように名前で呼んでもらえるようになった。

 まさか『酒王』の効果なのか?

 それにしても、さすがはドワーフ。二日酔いはないんだな。


「さてと、約束通り昨日の話の続きをしたいところだが、カルラさんの従者から連絡があった」


 予想通りカルラが二日酔いで起き上がれないらしい。

 昨日のカルラはどこか様子がおかしかったからな。


「タクミよ。カルラさんを責めるなよ。魔族は他種族と交流がほとんどない。初めての他国の宴に招待され、気を引き締めて臨んだが、緊張のあまり飲み過ぎたってところだろう」


 俺も会社の新人歓迎会でそんな経験したような……背負うものが違いすぎて申し訳ないが。

 カルラに集まっていたドワーフ達も、カルラが緊張しているのを感じて、話しかけていたのかもな。

 

「魔族や世界樹の話は、カルラさんの体調が回復してからでいいだろう。せっかくの機会だ、ククトとマルルの話を聞かせてくれ。ククトが『ゴンヒルリムの通行証』を渡すぐらいだ、蘇生以外にも何か目的があったんだろ?」


 ククトさん達がいない状態で、ドワーフ王に俺たちのスキルを話すべきかどうか。俺は悩んだが、話すことに決めた。

 ククトさん達を蘇生するには、ドワーフ王の協力が必要だからな。

 そのためには、こちらの情報をある程度は出して信頼してもらう必要がある。


 ——俺達のスキルのことを話した後。


「——なるほど。おもしろい! ククトに見せた枝は今持っているか? 見せてくれんかの」


 俺は、自由に伸び縮みする枝をドワーフ王に渡し、使い方を説明する。


「な、なんじゃこりゃ! ククトのやつ、こんなおもしろいことしてたのか!」


 その後10分ぐらい遊び、やっと話しかけられるようになった。

 たしかククトさんも初めて枝を見たときは振り回していた。

 どんな武器にするのか調べてるのかと思ってたが、ドワーフ王を見る限りただ遊んでいた可能性が高いな。


「ここにタクミとミアを導いたのは、ククトとマルルからのメッセージだ」


「メッセージですか?」


「あの2人がどうしてこの街から出て行ったか聞いておるか?」


「ゴンヒルリムの街は、ダンジョン内にあるから拡張できない。住める人数に上限があるので、腕に自信がある者は街を出たと聞きましたが」


 ドワーフ王は首を振る。

 

「この街を見てどう思った? 食料や水、住居などアーティファクトで管理されており、何不自由なく暮らせる。住居もまだまだ余裕がある」


 ん? それならどうして、この街から出て行ったんだ。


「昔、ワシらは大きく二つに分裂しかけたのだ。古代文明の技術の高さに絶望し、最高の職人への道をあきらめた者。職人の道を極めようと突き進む者」


 ドワーフ王は深いため息をつく。


「ククトとマルルは、内部分裂を回避するために職人を極めようとする連中の旗頭となって、この街から出て行ってくれたのだ。まあ、モノを作ることよりも、古代文明の技術でのうのうと暮らすだけになったワシらに失望したのもあると思うがな」


 ククトさんとマルルさんと一緒に街を出た人達って、全員職人だったのか。

 自分たちの技術を必要とする機会を求めて外に出たけど、魔道具の影響で必要とされることがなかった。


 この街にいる人達を見返したかったのに、外でも自分たちの技術を必要とされなかったのだ。

 職人として生きた彼らにとって、それはかなりキツかっただろうな。

 

「タクミとミアをここに導いたのは、ドワーフの技術でも魔道具や古代文明に勝てる! ワシらはまだまだやれるぞ! それを職人として心折れたワシらに伝えたかった。ワシはそう思うぞ」


 苦労を重ね、絶望を目にしてきたあの2人には、俺とミアならドワーフ族を立ち直らせることができると思っても不思議じゃないな。

 魔族領に行くからあまり時間に余裕はないが、ドワーフ族の可能性を知ってもらうことはできそうだな。


「わかりました。では、みなさんと一緒に何か作りましょう! ククトさんとマルルさんのメッセージが届くように」


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