第41話 古代都市

 俺は今、知らない部屋にいた。


 この世界で見てきた建物は木造か石造りの家だったが、この部屋は違った。

 壁の見た目はコンクリートの打ちっぱなしのような感じだ。

 この部屋には鉄製と思われる扉が1つあるだけで、椅子や机といった家具は無かった。

 

 部屋の広さは縦と横の長さが10メートルぐらいある。

 そして、武装したドワーフ兵がこの部屋に1つしかない扉の前に並んでいた。

 俺は後ろを向くと、ミア、カルラ、ゲイルがいる。


 ドワーフ兵の後ろから、眼鏡をかけた布製のラフな格好をしたドワーフの男が前に出てきた。

 

「ようこそ、ゴンヒルリムへ。ワシはタタラだ。この街の入出管理官をしとる。とりあえず、さっきの話の続きを聞かせてくれ」


 俺はカルラを見た。

 カルラは頷き一歩前に出る。


「私は魔族の王女カルラ。詳しい話をする前に、こちらに駐在している魔族の者を呼んでほしい。急を要するの」


「わかりました。おい、誰かアーロンさんを呼びに行ってくれ」

 

 衛兵の1人が部屋を出ていった。


 ――その後、俺はククトさんとマルルさんのことを、この場のドワーフ達に話した。

 

「ククト様とマルル様が亡くなったとは。くっ……」


 入出管理官のタタラさんだけではなく、周りの兵士も故人を悼んで涙を流す。

 ククトさんやマルルさんの人柄ももちろんあるんだろうけど、ドワーフという種族が情に厚いんだな。


 そのとき、ドアをノックする音が響く。

 1人の魔族の男が慌てて部屋に入り、カルラのもとへ駆け寄る。


「カ、カルラ様! ご無事で何よりです!」


「アーロン久しぶり。心配かけたわね。急で悪いんだけど、大至急お父様に伝言を送りたいの」


 あっちはカルラとゲイルに任せよう。

 俺もやることあるしな。

 

「タタラさん、ドワーフ王とお会いすることはできませんか? ククトさん達のことを報告させてほしいのです。あと、カルラ王女はエルフ族と人族に追われています。ここに来たことを公にできませんので、カルラ王女の存在を隠した非公式でお会いできると助かります」


「ククト様の通行証を持つ者だ。きっと会ってくださるだろう。確認してくるから、ちょっと待っていてくれ」


 それからすぐにドワーフ王と非公式で会ってもらえることになった。魔族の王女が来たことを知る者には、他言しないよう指示が出された。


 ◇


 タタラさんに案内され、俺達は扉の外に出る。

 空は赤く陽が落ちようとしていた。

 ……ん? ここはダンジョンの中だよな。


 俺は目を細め注意して空を見る。なんと、空は作り物だった。

 かなり高くに天井があり、空が映し出されているようだ。

 雲の動きや夕焼けがとにかくリアル。


 巨大な地下空間の中に、ゴンヒルリムという街はあった。

 高い建造物は存在せず、二階建ての同じ様な形をした建物がずらりと並んでいる。

 まるで、巨大な住宅街のような景色だ。

 

 ここだけ別世界みたいだ。

 外と文明のレベルが違いすぎる。


「驚いたか? ここは古代人の都市だ。今から200年以上前に、ワシらの先祖が誰も住んでいないこの街を見つけたらしい」


「この建物や天井とかは、見つけたときのままなんですか?」


「そうじゃ。ワシらでは造れんよ。未だに仕組みがわからんことだらけだ。ワハハハハ」

 

 これが古代文明ってやつか。

 そんなことを考えていたとき、ミアに左袖を軽く引っ張られた。


「どうした?」

 

「わたし達の世界よりも技術が進んでいるんじゃ……」


「俺もそう思う。ゲームやスマホとかあったりして。ん? そうか……探そう。絶対手に入れないと!」


「さすがに難しいですよ。どれがゲームやスマホなのか見分けられないし、ほとんど壊れてそうだし」


「いやいや、俺達ならなんとか出来ると思わない? むしろ実際の使い方を知らない方がイメージが膨らむからな」

 

「……なるほど、いけそうですね。絶対見つけましょう!」


 これは楽しみがひとつ増えたぞ。


 ◇


 ――ドワーフ王の屋敷


 ドワーフ王は城ではなく屋敷に住んでいた。

 古代人の街にそのまま住んでいるのだから、大きい屋敷が王城代わりになるのだろう。

 

 俺達は応接室に案内された。

 しばらくすると、ドワーフ王が部屋に入ってきた。


 ドワーフ王もタタラさんと同じく、ラフな格好だった。

 服の生地はすごく上品な感じがするが、とても王様って感じには見えなかった。

 

 ドワーフ王は片手を軽く上げて、俺達に声をかける。


「カルラさんとドワーフの友よ、ようこそゴンヒルリムへ。ワシがドワーフ族の王ゴンヒルリムだ。簡単にしか話は聞いておらんので、まずはワシに何があったのかを聞かせてくれ」


 ……俺達は目を丸くした。

 なんてフランクな王様だ。ドワーフって王様までこうなのか。


 カルラが我に返り口を開く。


「ゴンヒルリム陛下、お目にかかれて光栄です。まずは……」


「カルラさん、ここに王と王女はおらんよ。『エルフ被害者友の会』ってところか。ちなみに、ワシのことはゴンでいいぞ。王の名前はゴンヒルリムと決まっていてな。長くてかなわん。ワハハハハ」


「わかりました。ご、ゴンさん。それでは……」


 ――俺達は、バーセリーの街の出来事から今に至るまでの情報を共有した。


「ドワーフの友よ。ククトとマルルの蘇生はできそうか?」


「この世界に『世界樹の葉』と呼ばれるものはありますか?」


「……どうして『世界樹』のことを知っておる?」


 今までゆるい感じだったドワーフ王の目が鋭くなった。

 なんか地雷を踏んだのか?


「私達がいた世界の物語に、よく出てくる樹なのです」

 

「なるほど。カルラさんは『世界樹』のことは何か聞いてるか?」


「いいえ。お父様からは何も聞いてません」


「……うむ。ここからの話は長くなる。この街にいる間はここに泊っていけ。いつまでここにいられるかの?」


 俺はカルラを見た。


「私達は、魔族と人族の戦争を止めるため『ゾフ』に帰らなければいけません。アーロンの話だとドラゴンの準備に今日を含めて3日かかるので、4日目の朝にここを発ちます」


「では、話の続きは明日の朝からにしよう。今夜は宴じゃ!」


 ドワーフ王がそう言うと、応接室の扉が開き使用人達が入ってくる。

 俺達はそのまま今日泊まる部屋に案内された。


「タクミ様、これから1時間後に宴会が始まりますので、それまでどうぞお寛ぎ下さい。お風呂も自由にお使い下さい」


「え! お風呂があるんですか?」


「はい。各部屋にございます。こちらです」

 

 お風呂はユニットバスのような造りをしていた。

 シャワーみたいな装置やお湯のため方を教えてもらう。


「ここはダンジョンの中ですよね。水を大量に使っても大丈夫なんですか?」


「はい。この街の水や排出は古代人のアーティファクトで管理しておりますので、お気になさらないでください。隣のドアはお手洗いになります」


 ドアを開けると、そこには常時水が流れている便器のようなものがあった。

 

 『ゴンヒルリム』。そこは天国だった。


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