第40話 ゴンヒルリムの通行証

「我ら魔族は、魔物と意思疎通ができるのだ。特別な個体以外はほとんど意思疎通はできないが、ちょっとした感情みたいなものを感じることはできる」


 とても興味ある話だけど、とりあえず先に魔物を倒さないとな。

 しばらくすると、前から錆びた槍をもった白骨のスケルトンが3体見えてきた。

 リアルで見ると、動きがカクカクしていて違和感がある。


「タクミ、見ていてくれ」


 そう言うと、ゲイルは構えもせずスケルトンに向かって歩いていく。

 何事もなかったかのように、スケルトンの間を通り過ぎた。


「魔族が魔物に襲われないとは、こういうことだ」

 

「俺もゲイルの仲間ってことで、同じことができるかな?」


「無理だ。リドは特別と思ってくれ」


 ゲイルは、スケルトンの背後から素手による突きと蹴りで、3体のスケルトンの頭部を砕いた。

 スケルトンは黒い煙になり消滅した。


「魔石はわたしが回収しておきますね。ん……Eランクぐらいの大きさかな?」


 ミアはぬいぐるみのポケットに魔石を収納した。

 

「魔族って、魔物に対してチート過ぎるな」


「そういうな。これは我らにとって大罪の爪痕のようなもの。喜ばしいことではないのだ」


「あ、申し訳ない。知りもしないのに軽率な発言だった」


「気にしないで。説明してない私が悪いんだから。『ゴンヒルリム』に着いた夜にでも話すわ」

 

 少し微妙な空気になってしまった。

 しまったな。

 今度から魔族についての話題には気をつけよう。

 

「カルラ、『ゴンヒルリム』ってどのぐらいで着くのかな?」


「お父様の話だと、ダンジョンに入ったその日のうちに着いたらしいわよ」


「意外に近いんだね。お風呂あるといいな。無くても作ってもらえたりして……」


 ミアが場の空気を和ませてくれる。

 気を使ってくれたのかな。本当に助かる。


 この後も出てくる魔物は全てスケルトンだった。

 戦ったことのない魔物だったので、俺とミアで戦わせてもらった。

 

 一本道を1時間ぐらい歩いた時、地下2階へ下りる階段が見つかった。


 ◇


 ――地下2階


「ここも一本道だな」


「ダンジョンというよりも玄関アプローチみたい」


「ミア、玄関アプローチってなんなの?」


「入り口から玄関までの道のこと。そんな感じがするの」


 確かにミアの言うとおりだな。

 それならずっと一本道なのも納得できる。


 しばらく歩いていると、ゲイルが指を通路の奥に向かって指す。

 俺は強化蛍石を通路の奥に向かって投げた。


 通路の奥が明るくなり、鎧と盾と剣を装備したスケルトンが2体見えた。


「あれはスケルトンウォーリアーだ。Dランクだな」


「俺1人で戦ってみていいか?」


 みんな頷いてくれたので、俺1人で戦うことになった。

 

 スケルトンより装備が重いはずなのに、動きが早い。

 1体が盾を前面に構え突撃してきた。


 俺は『心の壁』バリアをスケルトンウォーリアーの踏み出した足がひっかかるように出す。

 期待通り前方に転倒してくれた。

 俺は前に駆け出し、足下のスケルトンウォーリアーの後頭部にライトセイバーを突き刺した。

 

 その直後、残りの1体が剣を振り上げ襲いかかってきた。

 俺は剣を振り下ろす軌道上に『心の壁』バリアを出現させ、横にかわした。

 スケルトンウォーリアーは、振り下ろした手首がバリアに弾かれ剣を落とす。

 

 俺は相手の盾めがけてライトセイバーを縦に振り抜く。

 盾は切断面を熱で赤く輝かせ真っ二つに切れた。


 丸腰になったスケルトンウォーリアーの頭蓋骨にライトセイバーを突き刺す。

 黒い煙に変わったあと、魔石が落ちた。


 俺は2つの魔石を拾い、ミアに渡す。


「おつかれさま。なんかいつもと戦い方が違ったような……?」


「対人戦をイメージしたんだ。『心の壁』バリアを攻撃に使ってみた。武術の達人やレア装備を持つ相手だと、正攻法で戦っても攻撃を当てられない可能性があるからね」


「タクミよ。なかなかおもしろい戦い方だったぞ。あれを初見でされたら、防ぐのは難しいな」


「ゲイル相手でも効きそう?」


「うむ、どうだろうな。今度手合わせしよう。タクミもいろいろ試したいだろう?」


 俺はゲイルに稽古をつけてもらう約束をした。

 ゲイルのレベルは91だからな。

 ……強くなれそうだ。


 ◇


 ――地下3階


 地下2階からここまで1時間ぐらいかかった。


 この階は今までと違い、道が分岐して複雑になっていた。

 やっとダンジョンらしくなってきたな。

 

 俺は今まで同様に、腕輪の合図に従って進む。

 マッピングはゲイルが担当した。

 もちろん魔道具を使っている。

 魔道具の紙に歩いた道が自動で記録されるのだ。

 便利すぎるだろ!


 魔族の都市『ゾフ』に行ったら、魔道具を大量に買ってしまうかも。

 魔族の魔道具は人族には使えないが、ミアにアーティファクト化してもらえば解決する。

 『ゾフ』に行くのが楽しみだな。

 

「おっと、ここから先は行き止まりだ。ということは、この辺に『ゴンヒルリム』の入り口が隠されているのかな?」


「おかしいわね……お父様の話だと、魔法陣があるはずよ」


「さっきと変わらず、ずっと振動がある……ん?」


『人族と魔族とは、珍しい組み合わせだな。そのゴンヒルリムの通行証は誰に与えられた?』


 俺はあたりを見回したが、ミア、カルラ、ゲイル、俺の4人だけだ。


『おまえの頭に直接話しかけておる。探しても誰もおらんよ。その通行証は誰のものだ?』

 

 俺も頭の中で答えてみる。


『バーセリーの街のククトさんからもらいました』


『な、なんだと! ククト様!』


 うぉっ、あまりの大声に頭がクラクラする。


『落ち着いて下さい。ここには魔族のカルラ王女もいます。急ぎの用件があるので入れてもらえませんか』


『わかった。詳しい話は後だな。地面が光るからそこに入れ』


 目の前の地面に直径1メートルの魔法陣が現れた。


「みんな、この魔法陣に入ればいいそうだ」


 俺は『ゴンヒルリムの通行証』を持っているので最後に入る。

 魔法陣の設置に『ゴンヒルリムの通行証』が必要だった場合、俺が先に行くと魔法陣も消えるからな。

 

 ゲイル、ミア、カルラ、俺の順番で魔法陣へ入ることにした。


 ゲイルが魔法陣の中心に立った瞬間、ゲイルの姿が消えた。

 これが転送ってやつか?

 

 俺の順番になった。

 魔法陣に足を踏み入れ中心に立った瞬間、景色が変わる。


 俺は今、知らない部屋にいた。

 


――――――――――――――――

10の倍数は告知スペースということで失礼します。


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