第39話 シラカミダンジョン

 俺達は『モーラ村』近くのシラカミダンジョン入り口の前にいる。

 

 リドと別れ、陸路を通るようになってから5日が過ぎていた。

 

 ゲイルが馬車を操縦できたので、通りがかりの街で馬車を購入しここまで来た。

 馬車は既にモーラ村で売却済みだ。


 馬車の旅はとても快適だった。

 認識阻害の魔道具と同様に、壊れた『衝撃吸収の魔道具』をミアの『デフォルメ』スキルでアーティファクト化した。

 それを馬車に取り付けたのだ。

 もちろん売却する前に『衝撃吸収のアーティファクト』は回収済みだ。

 

 その他にも、ゲイルが方位と大雑把な位置がわかる魔道具を持っていた。

 さらに地図を持っていたため、ここまで道に迷うことはなかった。

 ゲイルの用意周到さには脱帽だ。


 高性能な魔族の魔道具にも欠点はあった。

 なんと魔族と魔物しか使えないのだ。

 ちなみに、エルフの魔道具は誰でも使える。

 もし魔族の魔道具が誰でも使えるようになったら……エルフが魔族を脅威に思うのも理解できる。

 

 王都『メルキド』から『モーラ村』までは、馬車を乗り継ぐと15日はかかる。

 荷物を載せず、馬に乗って来たとしても10日はかかるそうだ。

 俺達は6日でここまで来た。

 もし、アーサーが追って来たとしても、3日~4日は引き離しているだろう。


 ◇


 シラカミダンジョンの入り口周辺には、人影は見当たらなかった。

 アーサーの話だと、地下3階までは簡単にいけるということだったが……アーサーのあの強さを見た後では、あまり参考にしない方が良いと思っている。


 俺達はダンジョンへ入る前の最終チェックをする。

 俺とミアの装備は変わらない。


 カルラとゲイルには、俺達と同じ『強化した旅人の服(上下) 防御力+91』の予備を着てもらっている。

 鎧よりも服の方が全身を守れるからだ。

 ライトセーバーやその他アクセサリーの予備は無いので、貸せたのは防具だけ。

 

 武器に関しては、ゲイルの装備している『堅鋼アダマンタイトソード』の攻撃力を『45→95』に、俺の『改ざん』スキルで変更した。

 カルラは囚われていたので、武器を持っていなかった。

 俺の見せ武器として装備している『ミスリルのショートソード』の攻撃力を『30→90』に変更して渡した。

 魔法攻撃が得意なので、武器はいらないと言われたが、念のため帯剣してもらう。

 

 2人とも武器を見て、目を点にして固まっていた。

 早く慣れてもらわないとな。

 

 次は隊列だ。


 俺とミアは『心の壁』バリアがあるから、先頭と最後尾を担当する。

 それにミアは、今まで俺と行動しているときも後方の警戒を担当していたので、最後尾の動きに慣れているのだ。

 

 カルラとゲイルのステータスを俺の『分析』で見せてもらった。


------

名前:カルラ

職業:(封印)

状態:呪い

レベル:76

HP:760 / 760

SP:760 / 760

恩恵:

・変換(効果激減)

血統封呪けっとうふうじゅ

スキル:なし

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名前:ゲイル

職業:(封印)

状態:呪い

レベル:91

HP:910 / 910

SP:910 / 910

恩恵:

・変換(効果激減)

血統封呪けっとうふうじゅ

スキル:なし

------


 な、なんだこれ。

 ツッコミどころ満載だな……聞いて良いのか?

 

 驚いたあと黙りこくる俺をみたカルラが口を開く。


「本当にステータスが見られるようね。その……魔族は複雑なのよ。時間があるときに説明するわ」


「スキルが無いのに、魔法が使えるのか?」


「恩恵の『変換』を使って、SPを魔法に変えるのよ。自分に合った魔法しか使えないけどね。私は火と風系の魔法ね」


「オレは闇系の魔法だ。ただあまり得意ではない」

 

 なにそれ。恩恵が優秀過ぎるだろ。

 ただ、『効果激減』が気になるけど。

 オレならなんとかできるな。

 けど、『血統封呪けっとうふうじゅ』が気になる。名前からして触るな危険だ。内容を詳しく見るのもやめておいた。

 カルラの説明を聞いた後にどうするか決めよう。


 隊列は先頭から俺、ゲイル、カルラ、ミアの順番に決めた。


 ミアがカルラに顔を向ける。


「カルラとゲイルさんもシラカミダンジョンは初めてなんだよね?」


「そうよ。でも『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪の使い方はお父様から聞いたことがあるわ。お父様は『ゴンヒルリム』に行ったことがあるのよ」


 なんだと。魔王はドワーフと交流があるのか。


「魔王も『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪を持っているのか?」


「持ってないわ。ドワーフに案内されて行ったそうだけど、そのときに腕輪の使い方を見ていたのよ」


 使い方はダンジョンに入ってから教えてくれるらしい。

 俺達はシラカミダンジョンに足を踏み入れた。


 ◇


 バーセリーの街の近くにあった廃坑と同じで、ダンジョン内は薄暗かった。

 蛍石がダンジョン内の床や天井、壁に含まれているようだ。

 入り口から中に少し進むと、地下へ続く階段があったので下りた。

 

 ――シラカミダンジョン地下1階


 階段を下りると直径3メートルぐらいの通路が奥へと伸びていた。

 これだけの広さなら戦闘になっても大丈夫だ。


 進む前に、まず『ゴンヒルリムの通行証』の使い方を聞かないとな。

 カルラは俺が何を言いたいのか気づいたようだ。

 

「『ゴンヒルリムの通行証』の腕輪を着けているのは右腕ね。それじゃあ、右腕をいろんな方向にかざしてみて」


 俺は言われた通り、右腕をあちらこちらに向けてみる。

 ん? なんだ、今腕輪から振動が……あら、消えた。


 振動を感じた方向に、また腕輪を向けてみる。

 あ! また振動があった。


「お父様がドワーフから聞いた話だと、道は『ゴンヒルリムの通行証』が教えてくれるそうよ。『ゴンヒルリム』への入り口は常に移動しているから『ゴンヒルリムの通行証』がないとたどり着けないらしいわ」


 なるほど、これは見つけられないはずだ。


「そんな貴重なものをククトさん、マルルさん2人とも持っていたなんて……あの2人ってすごく偉い人?」


「ミア、もしかして知らないの? ドワーフには『マイスター』って職人の頂点を意味する称号があって、2人ともその『マイスター』よ」


「マ、マイスターってそんなに凄いのかな?」


「私もよく知らないけど、今まで『マイスター』になれたのは10人しかいないそうよ。しかも親子そろってとか、相当な有名人よ。魔族の私やゲイルが知ってるぐらいだもの」


「「…………」」


 俺達に自慢のひとつもしないなんて、あの2人らしいな。

 まあ、俺達にとって有名人かどうかは関係ない。

 あの2人は家族だから。


 そのとき、急にカルラとゲイルが顔を上げ、通路の奥を見る。


「タクミよ。前方から魔物がくるぞ」


「俺には何も見えないけど……なんでわかるんだ?」


「我ら魔族は、魔物と意思疎通ができるのだ。特別な個体以外はほとんど意思疎通はできないが、ちょっとした感情みたいなものを感じることはできる」


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