第38話 新たな仲間

「思いつきました! 認識阻害の魔道具ってまだありますか?」


 認識阻害の魔道具をアーティファクトにするのは俺も考えた。

 アーティファクトは魔石が不要だ。

 リドに負荷がかからない。

 けど、認識阻害の魔道具ってアーサーに壊されたんだよね。


 ん! 待てよ……


「ゲイル! 俺と取りに行こう。急くぞ」


「ちょ、ちょっと待て、あれは……」

「いいから早く!」

 

 俺はゲイルに何も言わせずリドの背に登る。


「タクミ、認識阻害の魔道具は『剣聖』との戦闘で壊れたぞ」


「知ってる。けど、なんとかなりそうだ。リドを救えるかもしれないから協力してくれ」


 ミアの耳に余計な情報を入れたくなかった。

 『デフォルメ』スキルに、対象が壊れているかどうかなんて関係なかった。

 俺が対象の情報をイメージしやすいように整理ゆうどうしてミアに伝える。

 それでいけるはずだ。


 ゲイルはわかったと一言。

 そして認識阻害の魔道具を取ってきてくれた。

 

 直径1メートルぐらいの銀色の円盤。

 円盤から四方にベルトが伸びている。

 このベルトを使って、リドに取り付けていたのか。


 円盤の裏から大きな針が出ていたが、途中で折れていた。

 

「壊れたのは、この針のことか?」


「ああそうだ。この針をリドに挿し魔石エネルギーを魔道具に送っていたのだ」


 これなら小細工無しでいけそうだな。

 機能の詳細はミアも一緒に聞いた方が良さそうだな。


「よし、戻ろう」


 ◇


 リドは湖の岸に、犬が伏せをするような格好で眠っていた。

 俺達が一緒にいられる時間は少ない、せめてその間だけでもゆっくり休んでほしい。


 さてと、残りの懸念事項を確認するか。

 

「王女、まず確認したいことがあるんだ。リドは人族やドワーフ族を襲うのか?」


「……襲う」


 マジかよ。


「なぜ俺やミアは襲われない?」


「リドは頭が良いのよ。私達と一緒にいるから仲間と思っているのね」


「リドが人族とドワーフ族を襲わないようにできるか? 相手から攻撃された場合は、遠慮せずやり返していい」


「リドならできるわね。特殊な個体以外の魔物は無理よ。気持ちはわかるけど、今それを聞いたのはなぜ?」


「俺達が認識阻害の魔道具を直す。けれど、リドが敵になる可能性があるなら直せない。危険すぎるからな」


 これは絶対に譲れない。

 認識阻害の魔道具は、『心の壁』バリアの天敵みたいなもんだからな。

 

「わかったわ。絶対に説得してみせる」


 疑うわけじゃないが、魔道具を誰かに奪われる可能性もある。少し保険はかけさせてもらうか。


「信じるよ。じゃあ、この魔道具の機能を教えてくれ」


 ゲイルが認識阻害の魔道具について教えてくれた。


 この魔道具を使うと、姿が透明になるのではなく、地面に落ちている石のように意識されにくくなる。

 完璧に認識されない機能ではないので、声を出したり、大きく動いたりすると相手に気づかれる。

 短い時間発動するだけでも、大量の魔石エネルギーを消費するため、使うタイミングが難しい魔道具らしい。


「ミア、イメージできた?」


 ミアは頷いた。


「王女、ゲイル。これから行うことは秘密にしてほしい」


 俺は王女とゲイルの顔を見た。


「他言しないと誓う。お父様にだって言わないわよ」

「絶対に他言しないと誓おう」


 ◇


 ――ミアの『デフォルメ』スキルで、『認識阻害の魔道具』を素材にして『認識阻害のアーティファクト』を創った。


 それを見た王女とゲイルは、口を開いたまま固まっていた。

 

 ミアの創った『認識阻害のアーティファクト』は、なぜか帽子の扱いだった。

 見た目は銀色の円盤のままだが、認識阻害の効果は頭に円盤を置くと発動した。

 もちろん魔石は不要だ。


 俺は『改ざん』スキルで円盤の耐久力を『61→21』に変更しておいた。

 俺達の手から離れるので、いつまでも使えると危険だからな。


 このままだと使い勝手が悪いので、ミアがぬいぐるみのポケットに収納していた布から巨大な帽子を作った。

 帽子はスカルキャップと呼ばれる頭にぴったり合う縁なしタイプだ。

 頭から落ちないように、あごひもまで付いていた。

 その帽子の中に『認識阻害のアーティファクト』である銀色の円盤を入れる。

 

 完成した帽子をリドの頭に被せると、リドを強く意識しないと認識できなくなった。

 あごひも付きの帽子を被ったドラゴンの姿は、とてもシュールで天狗が帽子を被っている姿とそっくりだった。

 

「「おおっ!」」


 王女とゲイルが驚きの声をあげた。

 

「ま、まさかアーティファクトを作ったのか!」


「タクミ、ミア、あんた達って何者? ち、ちがうわ。あなた様達はどなた様ですか?」


「か、カルラ様、落ち着いてください! タクミ様とミア様は古代人かと」

 

 王女とゲイルが完全に壊れた。

 古代人ってなんだよ!


「落ち着けゲイル。俺達はただの異世界人だ。古代人の末裔じゃないぞ」


 それから俺達はスキルのことを簡単に説明した。

 このスキルを秘密にする理由も理解してくれたようだ。


「タクミとミア。あんた達は確かに異世界人よ。けど、その能力は人族の域を越えているわ。そんなあんた達が、魔族の私達を仲間と認めてくれた。信用してくれたわ。私のことは王女じゃなくて、カルラって呼んで! 私も身分や肩書じゃなくて、仲間になりたいの」


「タクミとミア、これまで何度も命を助けてもらって今更だが、オレも仲間に入れてくれ」


 俺とミアは目線を合わせ笑った。

 口には出さなかったが、ミアもあのときを想い出したのだろう。

 新たに2人が加わり、俺達の仲間は人になった。

 必ず生き返らせるから……待っていてくれ。


 俺達はこのまま一泊することにした。

 カルラは、リドに人族とドワーフ族を自分から襲わないことを約束させた。

 そして、あらためて俺とミアが仲間だと紹介してくれた。

 これで俺達の仲間は6人と1匹になったようだ。


「よし、食料も沢山あるし、今夜は新たな仲間の歓迎会をやろう!」

 

 ◇

 

 ――翌朝


「リド、認識阻害の帽子を被ったままでいるのよ。壊れやすいから気をつけてね。ここは危険だから湖を泳いでそのまま霊峰シラカミの麓まで行きなさい。そこでゆっくり休んで『ゾフ』まで戻るのよ。それから……」


 まるで母親だな。

 それだけ愛情深く想いあってるのだろう。

 話は終わったようだ。

 俺達は湖を泳ぎ離れていくリドに向かって手をふった。リドの無事を祈って。


 それにしても本当に認識阻害はすごいな。

 ふと気を抜くと、リドに気づけなくなる。


「さて、そろそろ行くか。俺達も無事『ゾフ』に辿り着かないと、リドに怒られるからな」


「はっははは。違いない」

 

 昨日の歓迎会で、俺達の距離はぐっと近くなった。


「タクミ。カルラが『ゾフ』へ行く前にドワーフ王都『ゴンヒルリム』に寄りたいって」


 ミアと俺の距離もずいぶんと縮んだ気がする。

 女の子同士、ミアとカルラもすごく打ち解けてたな。

 

「俺はその方が助かるけど、どうしたんだ?」


「『ゴンヒルリム』に魔族も住んでいるのよ。そこでドラゴンを手配してもらうわ。シラカミダンジョンの魔族領側を出て、そこからドラゴンで『ゾフ』に行くのが最速よ」


「じゃあ、目指すは『ゴンヒルリム』。ククトさんとマルルさんの故郷へ行くぞ!」


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