第33話 休息

 ――翌日

 

 今日は、1日かけて旅の準備をすることにした。

 朝食を食べ終わった俺達は、買い出しに出かけた。


「食料品と回復アイテム、あとお洋服もですよね?」


 ミアが上目遣いで俺を見る。

 ……そんな目で見られるとドキドキするからやめてくれ。


 昨日の約束もあるし、しばらく旅が続くからな。


「好きなだけ買っていいぞ! 俺も買う!」


「ふふふっ、楽しみです!」


 こんなに喜々としているミアを見たのは久しぶりだ。

 俺自身も心に余裕を感じてる。

 2人でお出かけ……なんかデートみたいだな。


「まずは食料、その後はアイテム類。洋服は最後ね。この順番は譲れない」


「じゃ、早く行きましょう。なんか日曜日って感じですね」


 ミア嬉しそうに俺の袖を引っ張った。


 ――食料品が多く集まるマーケットに着いた。


 さすがは王都だ。食材も多い。


 野宿のときは、料理はミアがしてくれる。

 味はとても美味しい。


 ただ……ミアは好奇心が旺盛なのだ。

 見た目が食べてはいけないモノ。

 手を出してはいけないモノ。

 きっと食べモノではないモノ。

 そんなモノたちが、しれっと混じってるときがある。


 一般常識だと、作っている時や口にした瞬間気づいたりする。

 けれど俺達の場合、身に着けてる装備の性能が良すぎて気づけないのだ。

 

・イエロールーンの強化指輪 異常耐性+95


 いくら耐性があっても、真実を知ったときは心にダメージをうけるのだ。

 俺は、ミアの買い物から目を離せなかった。


 ◇


 食材だけでなく、屋台での調理済みの料理も大量に買い込んだ。

 一箇所で買うには足りないので、複数箇所をまわる。

 気がつくと、もうお昼になっていた。

 

 俺とミアは近くの食堂に入った。


 10人掛けの長テーブルが4つある。

 俺達は誰もいないテーブルに座った。


 王都の店は、メニューが豊富だ。

 ロゼッタ村のように日替わりメニューだけということはない。


 異世界人が広めたのだろう、パスタ系もある。

 俺はミートソース。ミアはカルボナーラを楽しんだ。

 どんな食材で作ったのかは、気にしたら負けだ。

 俺はそれをミアから学んだ。


 食後のデザートに、コーヒーとケーキセットを頼む。

 ミアとの会話を楽しんでいると、突然後ろから声をかけられた。


「あれ? ミアよね。みんなミアがいる。ミアよ!」


 女性4人と男4人のパーティが、お店に入ってきたところだった。


「本当だ。ミアだ! おひさ~」

「ミア、元気してた?」

「きゃー、なんでここにいるのよ!」

「私達、すぐにあの街出ちゃったからね。ミアのこと心配だったのよ」


 なんだコイツら。

 ミアの知り合いか。

 

「あっ、マサミさん。お久しぶりです」


 マサミ……どこかで聞いたことあるな。

 ミアがこの世界に来たとき一緒だったパーティか!

 たしか、勇者2人に賢者と聖騎士だっけ。


 でも、コイツらミアを追い出したんだよな。

 なんで、こんなに馴れ馴れしいんだ。


 ミアの顔を見ると笑顔だった。

 怒っても良さそうなもんだが、一切表情に出ていない。

 ただ、俺の腕にはどういう訳か鳥肌がたっていた。

 

 あっ……マズいことに気がついた。

 俺達のテーブルの席が、丁度8つ空いている。


「みんな、ちょうどここ人数分空いてるし、ここにしようよ」


 マサミがパーティに声をかける。


 ふざけるな。

 俺はありったけの負のオーラを出した。

 断固拒否だ! 絶対拒否するんだミア!


 今の俺は、ちょっとした身の危険で『心の壁』バリアが発動しそうだ。

 いや、なんなら発動してもいいぞ。


「タクさん、みなさんとご一緒してもいいですか?」


 くっ……いつもの俺達の連携はどうした。


「ほら、俺達用事があるし、そろそろ行かないとね」


「――お待たせしました。食後のデザートになります」


 笑顔の素敵な店員が、コーヒーとケーキを持ってきてくれた。

 うん。こうなるの知ってた。


「た、頼んでたの忘れてたよ。じゃあ、これ食べ終わるまでご一緒させてもらおうか」


 ――3分後


 よし、食べ終わった。脱出しよう。


「ミアは今、あの彼とパーティ組んでるの?」

「もしかして、そういう関係とか。キャー!」

「ねえねえ。わたしたち凄く強くなったのよ。もうEランクよ!」

「わたしたちの男性陣、かなり強いのよ。パワーレベリングしてもらったのよ」

「そうそう。レベルなんてもう11!」


 俺、本当に苦手なんだよね。

 しゃべるとスベるイメージしか湧かん。

 初対面の男女8人とか拷問かよ。


 女子達の会話を聞いてる男どもの自信満々な態度……

 俺にドヤ顔してんじゃねぇ。


「タクも強いんですよ。私も強くしてもらいましたし」


 ミアは誇らしい笑顔で俺を見た。

 まわりの女性達の値踏みするような目線が俺に突き刺さる。

 

「えー、全然見えないんだけど。ほんとに強いの彼?」

 

「わたしたちBランクです」


 ミアはしれっと言う。


「ナイナイナイ。それはないでしょ。あんたがBランク? あの彼も?」

「嘘つくなら、もっとましな嘘つきなさいよ」


 怒りが湧いてくる俺の目に、ミアが入る。

 ミアは自信満々な顔で俺を見ている。


 ……そんな誇らしそうな顔しないでよ。

 俺はそんな大した人じゃない。

 こうなったら、応えるしかないか。


「――嘘つき呼ばわりはどうなんだ? これが俺の冒険者カードだ」


 俺は冒険者カードの表面を見せた。

 個人情報は裏面なので、表面を見せるだけなら問題はない。


 冒険者カードはランクにより、表面を装飾する材料が異なる。

 Fランクは銅、Eランクは青銅、Dランクは鉄、Cランクは銀、Bランクは金、Aランクは魔銀ミスリル、Sランクは堅鋼アダマンタイトだ。

 俺の冒険者カードは金で装飾されているので、Bランクだとわかる。

 

「「「「「「「「!!」」」」」」」」 


 8人組は口を開けたまま固まっていた。


「あっ、ミアもBランクだから、俺と同じBランクね」

 

 大事なことだから二度言わないとね。

 さてと、今が潮時だな。


「ミア、行くよ。今日中に終わらなくなる」


「はい! では、わたし達はお先に失礼します」


 ミアは8人組にそう言い、俺のところに歩いてきた。


 店を出た俺達は、道具屋に向かって歩く。


「さっきはすみませんでした。気分悪かったですよね……」


 ミアは下を向きながら、俺を巻き込んだことを反省しているようだった。

 

「そんなことない。むしろ気持ち良かったかな。見返してやったからな!」


「ふふふっ、とてもカッコよかったですよ」


 そう言って照れくさそうに笑うと、ミアは歩き出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る