第2章

第28話 王都『メルキド』

 ――王都『メルキド』


 俺達は、人族の国であるメルキド王国の王都『メルキド』にきている。

 ドワーフ国の王都『ゴンヒルリム』へ行く道の途中にある。


 もちろん、この王都にも俺達の手配書は出ている。

 れっきとしたお尋ね者であり賞金首だ。

 なぜ普通に過ごせているのか?

 

 この世界の手配書には、からだ。


 街や村に入る時、必ず身分証もしくは冒険者カードの提示が必要になる。

 それらは、ゴールドの受け取りや支払いにも使われる。

 身分証や冒険者カードの利用を監視すれば、いずれは足がつくのだ。


 魔道具で出来ているため、偽造や他人のカード利用ができない仕組みになっている。だから、似顔絵なんて不確かなものは使われない。


 以外の冒険者なら、それで捕まえることが出来るだろう。


 俺は『改ざん』スキルで冒険者カードに記載されている名前を変更した。

 そして他の文面は『なりすまし』スキルで偽装。

 これで監視の目をくぐり抜けることができた。


 ちなみに職業は、俺が『鍛冶師』、ミアが『技巧士』に偽装してある。

 怪しまれずドワーフ王国へ行くための理由付けだ。


 ただ、バーセリー近郊の村や街に寄ることはできなかった。

 俺達の顔を知っている人間に見つかる可能性があるからだ。


 心身共に疲れ切っていたが、俺達は道の無い道を進んだ。

 『心の壁』アクセサリーが無ければ、俺達は野垂れ死んでたに違いない。


 それからしばらくして、バーセリーから遠く離れた小さな村を運良く見つけた。

 そこからは、少しずつ心身を癒やしながら王都まで来たのだ。


 ここに来るまで、バーセリーの街を出発してから2ヶ月が過ぎていた。

 レベルは俺が『22』、ミアは『21』まで上がっている。


 ◇


 この王都に立ち寄った目的は情報収集だ。


 俺達が欲しい情報は4つ。


 1つ目は、この世界の地図。

 2つ目は、ドワーフ王国の王都『ゴンヒルリム』がある『シラカミダンジョン』について。

 3つ目は、『シラカミダンジョン』までの移動手段。

 4つ目は……この世界の『』についてだ。


 俺達はククトさんとマルルさんの死に直面したとき、元の世界の常識で考えていた。

 この世界でもと決めつけていた。


 本当にそうなのか? 俺達はこの世界について何を知っている?

 もしかしたら、魔法で簡単に生き返るかもしれない。


 この疑問から生まれた希望が、虚脱感に蝕まれていた俺達を救った。

 旅を続ける活力になったのだ。


 ミアの『デフォルメ』スキルで試行錯誤すれば、蘇生できる可能性はある。

 けれど、失敗したときに二度と蘇生できなくなる可能性も高いので、最終手段になるだろう。


 これに関しては、俺は期待していることがある。

 エルフがいるんだ。

 きっともあるに違いないと。


 ◇


 この王都には国立図書館がある。お金を払えば禁書以外なら誰でも読めるらしい。

 まずはそこで情報収集だ。


 ――図書館へ向かう途中


 図書館まであと少しの距離にある交差点で、俺達は馬車が通り過ぎるのを待っていた。

 今日の予定について考えを巡らしていると、後ろから走って来た5歳ぐらいの女の子が、そのまま道路に飛び出した。


 へ?


 前触れもなく起きた、まさかの出来事テンプレ展開に俺は動けなかった。

 マズい! 馬に踏み殺される。


 そう思った瞬間、ミアは飛び出し子供をかばうように抱える。

 馬車の御者はミアに気づき、馬車を急停車させた。

 しかし、間に合わず馬の足はミアを踏みつけようとする。


 ――その瞬間、ミアの近距離で『心の壁』バリアが発動し馬の足を弾いた。


 俺はミアに近づき、声をかける。


「大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


 ミアは抱えている子供を地面に立たせ、話しかける。


「ケガは無かった? 急に飛び出したらダメだよ」


 子供を見る限りケガはなさそうだ。

 後ろから女性の声がした。


「アンナ! 大丈夫。アンナっ!」


「ママ、ママ。怖かったよー」


 母親の顔を見て安心したのか、子供は泣きながら母親の元へ走り出す。

 飛び込んでくる我が子を抱きしめ、母親は安堵の表情で喜んでいた。


「――皆さん、お怪我はありませんか?」


 いつの間にか、馬車から2人の男女が降りて来ていた。

 金髪の美男美女で、歳は20代半ばに見える。


 全身から不思議な生命力があふれ、目を離せない。

 吸い込まれるように、どんどん惹き込まれてしまう。

 ま、まさか、これが陽キャの最上位クラスか!?

 

 その二人を見た母親は、頭を深く下げた。


「『剣聖』様、大変申し訳ありません。こちらの方は、娘を助けて下さいました」


「剣聖? あっ、剣聖様だ!」

「きゃー、剣聖様ですわ!」

「姫様だ。姫様もいるぞ!」


 ん? なんだ。どうした。この二人は有名人なのか。

 どんどん人が集まってくる。


「みなさんの邪魔になってしまう。そちらの方々、是非お礼がしたい。さあ、馬車に乗って」


 剣聖と呼ばれる男が、さわやかな笑顔で俺達を馬車へと誘う。

 

「あっ、俺達は用事があるので結構です」


「君達、異世界人だろ? 僕も異世界人だよ。これも何かの縁だ。お礼をさせてくれ。さあ乗った。乗った」


 『異世界人』という言葉に考えを巡らせてるうちに、俺達は半ば強引に馬車に乗せられてしまった。


 馬車の外は人で溢れている。

 ここから脱出するのは無理だな。

 街の人をケガさせてしまう恐れがある。


 俺は念のため、ミアに警戒するようアイコンタクトを送る。

 バリアを見られた可能性があるからな。


 馬車が出発すると、まわりから歓声が聞こえる。

 この二人の人気は、もの凄かった。


「驚かせてすまない。僕の名前はアーサー・ウィリアムズだ。隣りにいるのはメアリー・ウィリアムズだ。名前からわかるとおり兄妹だよ」


「俺はタクで、こっちがミです。2人でパーティを組んでます」

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