第27話 涙

 おっさんの後ろから、『精霊の狩人』の奴らもゾロゾロと2階に上がってきた。


 まさか……

 

「おまえらがククトさん達を殺したのか?」


 おっさんがニヤついたまま俺達を見る。

 

「俺達にも武器を作ってくれってお願いしたら、しょうもない武器を渡してくるからさ。返品してやったのよ。ちょっと角度が悪くて胸に刺さっちまったがな」


「「「「「ひゃははははは」」」」」

 

「おまえらの武器をよこせ。アラクネ倒したんだってな。おまえらみたいなゴミにはもったいないから、俺達が使ってやるぜ」


 ミアがおっさん達を睨みつけ、怒りで身体を震わせながらゆっくり立ち上がる。


「そ、そんなことのために、ククトさんたちを殺すなんて許せないっ……」


 そんなミアを全く気にせず、おっさんはさらに口を開く。

 

「このドワーフどんなに痛めつけても、お前たちの装備について一切しゃべらねえ。しょうがないから、お前たちから奪うしかないわけよ。恨むならこのドワーフ達を恨むんだな」



 プツン……



 俺の中で何かが切れた。あ……ああ、もうダメだ。

 こんな連中に、ククトさんやマルルさんが理不尽に殺されても正当化されるのか。

 それなら、俺がこんな階級社会ぶっ壊してやる。

 誰が本当のゴミなのか教えてやるよ。

 

 俺はライトセーバーの光刃を伸ばす。


 おっさんの後ろで盾を構えていた二人のタンクが、俺に突っ込んできた。

 この廊下で剣は使えないと判断したのだろう。

 

 けれど、俺は気にせずライトセーバーを水平に振り抜いた。

 赤い光刃は壁を切り裂き、突っ込んできた二人を盾ごと真っ二つにした。


 その隙をついて、おっさんともう1人の男が、剣と斧を俺めがけて振りぬく。

 俺は『心の壁』のバリアを発動しそれぞれの武器を弾くと、おっさん達は体勢を崩した。

 そして、俺は怒りに身を任せるようにライトセーバーを何度も何度も振った。

 

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は叫んだ。


 ダメだ……ライトセーバーだと手に感触が残らない。

 俺の心に大きく空いた穴は、おまえらが埋めてくれるんじゃないのかよ!


 俺は残った2人を見る。

 エルフとヒロシとかいう鑑定持ちの異世界人。

 

「ば、バカな……ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はお前と同じ異世界人だ。俺のスキルは『鑑定』だぞ。絶対に役に立つから殺さないでくれ」

 

「黙れよ。俺達がおまえと同類って勘違いされるだろうがっ!」


 俺はヒロシとの距離を詰め、心臓にライトセーバーを突き刺す。

 ヒロシは素手で光刃を引き抜こうと抵抗するが、光刃を掴んだ指が床に落ちるだけだった。

 俺はライトセーバーを抜き、エルフに正対する。


 1人残ったエルフは、強気の姿勢を崩さなかった。

 

「ふん、役に立たん。おまえなかなか見どころがあるな。喜べ、私がお前たちの仲間になってやろう」


「おまえみたいなゴミはいらんよ。それよりも、なぜククトさん達が武器を作ったと思ったんだ?」


しつけがなってないな。……まあいい教えてやろう。以前におまえがこのドワーフと一緒にクエストから帰ってきたのを見かけたのだ」


「俺達が武器を買ったと思わなかったのか?」


「魔道具じゃないミスリル製の武器なんて、この街の武器屋で売られることはない。ドワーフの店以外ではな。だからお前の装備は、連れのドワーフが用意したとわかるのだ」


 なるほど、俺との会話でククトさん達が目を付けられたのか。

 ククトさん、マルルさん……謝罪は後でさせて下さい。


 今はこいつを殺す。

 俺の身体から殺気が走る。


「ま、まて。俺を殺すとこの街の冒険者ギルドが黙ってないぞ。武器を奪うよう依頼したのはギルドマスターだ」


 冒険者ギルドで長時間待たされたのは、このための時間稼ぎだったのか。

 なるほど……冒険者ギルドもグルか。

 

「この私がギルドマスターと交渉してやろう。お前たちが殺され……」


 ブィーン


 俺は首を切り飛ばした。

 許すわけがないだろう。

 キースと交渉する必要はない。アイツはもうすぐ死ぬのだから。


「ミア逃げるぞ。たぶんすべての殺人の容疑を俺達に被せる気だ。捕まったら処刑される。今からドワーフの国へ向かう」


 キースはこいつらが成功しようと失敗しようと、どっちでもよかったんだ。最終的には俺達の装備を奪えるからな。

 

「ククトさんとマルルさんをドワーフの国で埋葬してあげよう。こんなところに置いていったらかわいそうだ」


 俺達は、ククトさんとマルルさんの遺体をベッドのシーツで包み、ぬいぐるみのポケットに収納した。

 ポケットの中なら時間は止まるから腐敗しないだろう。


 俺達が工房の外へ出たときには、すでに工房は冒険者に取り囲まれていた。

 並んでいる冒険者の後方、少し離れたところにギルドマスターのキースがいた。


 目が合うとキースは俺達だけでなく、ここにいる冒険者全員にも聞こえるよう声を出す。

 

「タクミとミアよ。『精霊の狩人』からお前たちがドワーフを殺害したと報告があった。そしてお前の服に血が付いている。これはどういうことだ?」


 丁度いい。探す手間が省けた。

 どうせ何を言っても無駄だ。

 俺はミアに、何があっても俺から離れないよう指示する。

 ミアに人殺しをさせたくない。

 人殺しは俺だけでいいだろう。


 俺はライトセーバーのグリップを右手で掴む。光刃は出ていない。

 そして降参を示すように両手を頭上高くあげた。

 俺の様子を見て、ミアも両手を高くあげる。


 俺達はキースに向かってゆっくりと歩く。

 この場にいる冒険者達は見ているだけで足を止めていた。

 俺達が降参し、武器を渡すために歩いているよう見えたのだろう。


 キースの正面、距離にすると約4メートル離れた位置で止まる。

 俺は、右手に持っていたライトセーバーのグリップをキースに向けて差し出した。


 キースは勝ち誇った表情でニヤける。


 ブゥーン


 ライトセーバーの赤い光刃が、冒険者達の隙間を通り抜けキースの心臓めがけて伸びる。


 ブ……ブブ……パリーン


 キースの手前の空間が砕けた。

 まるで見えない窓ガラスがそこにあったかのように。


「ば、バカな。結界魔法が破られるだと……」


 俺がSP30を使って伸ばした光刃は、キースの心臓に突き刺さった。

 そして、俺は光刃を振り上げる。

 キースの心臓と頭は、縦に切断された。


 なんだよこれ。

 ちっとも嬉しくないんだけど……


 目からひとすじの涙がこぼれた。

 悔し涙なのか、悲し涙なのか、それとも他の涙なのか。

 俺には涙の理由がわからなかった。 


 俺は声を荒らげて叫ぶ。

 

「俺達はこの街を出る。邪魔する奴は敵と見なす!」


 キースの前にいた冒険者4人組が、襲いかかってくる。

 

「バカが、この人数に勝てるわけないだろうがよっ!」


 ライトセーバーとバリアで4人を瞬殺する。


「おい、嘘だろ。一瞬だぞ」

「ライトセーバーとかずるいだろ。かっこ良すぎ」

「あ、赤だと! ダークなサイドに落ちたのか……」

 

 ザワザワとまわりの声が聞こえる。

 異世界人も多い。俺の戦いを見て、戦意を無くしたようだ。

 もともとギルドや街への忠誠心なんてないだろうしな。


 ――この後、俺達を追ってくる者は誰もいなかった。


 これからどうするか?


 決まっている。


 あの日、俺達が笑いながら語り合った未来を叶えるんだ。


 今はそれでいい。それで充分だ。

 歩ける理由があればそれでいい。

 

「ミア、について来い。ククトさんとマルルさんを俺達の手でぞ!」


 ――第1章 完 ――

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