第26話 出発の前日

前書き失礼します!


この話より胸糞展開が始まりストーリーが重くなります。

かなり気分が悪くなります。


苦手な方は、第28話からお読み下さい。

―――――――


 ――翌日の朝


 今日は、ギルドマスターのキースから依頼されたクエストを、さっさと終わらせる予定だ。正直受けたくなかった。


 この件については、昨日の夜にみんなで話し合った。

 警戒はするが、俺とミアはギルドマスターのクエスト、ククトさん達は街を出る準備を予定通り行うことになった。


 冒険者ギルドに寄り、受付でギルドマスターのクエストを受ける。

 そのときに、『本件は重要な案件なので、街に戻ってきたらすぐに報告にくるように』としつこく言われた。

 俺もさっさと終わらせたいので、すぐ報告にいくつもりだ。


 ◇

 

 ――廃坑


 昨日、沢山の魔物を倒したせいか、地下3階にすんなり着いた。


 採掘場のまわりに光量を強化した蛍石を置く。採掘場は明るくなった。


 アラクネの巣と思われる場所に、宝石がいくつかあった。

 明日にはバーセリーの街から離れるので、この宝石はギルドに報告せず、マルルさんにあげよう。

 ミアも賛成したので、ぬいぐるみのポケットにしまう。


 あとは、何かの役に立つかもしれないので、アラクネの糸も採取した。


 もうこのぐらいでいいだろう。俺達は冒険者ギルドへ戻ることにした。


 ◇


 バーセリーの街に着いた。


 俺達はすぐ冒険者ギルドに行き、ギルドマスターのキースとの面会を申し込む。

 キースは大事な会議が入り、すぐには来られないらしい。

 待っているよう応接室へ案内された。


 ――部屋で待って3時間が経った。


 あまりに遅い。昼飯を食べないでギルドに来たからお腹も減った。

 食事のため一度ギルドから出ようとすると、もうすぐ会議が終わりそうなのでと止められる。


 リュックの中で隠しながら、ぬいぐるみのポケットから食料を出す。

 監視されている可能性があるからな。

 食事と何杯目かのお茶を飲み終えた時、キースが部屋に入ってきた。


「待たせたな。で、どうだった?」


 あれだけ待たせて謝罪も無しかよ。さすがエルフ様だ。


「廃坑の魔物の数は少なく、地下3階までに遭遇した魔物はビッグスパイダー3匹だけでした。採掘場に魔物は1匹もいませんでした」


 報告はたったこれだけ。素人の俺にできる報告なんて、この程度だ。

 

「わかった。では、受付で報酬をもらって帰れ」


「え…… これだけでいいんですか?」


「ああ、話は終わりだ。さっさと帰れ」


 そう言い捨てて、キースは応接室から出ていった。


 なんなんだ。このクエストは……意味がわからん。

 まあ明日にはこの街を出るので、考えるのをやめて工房へ帰ることにした。

 

 ギルドの受付でクエストの報酬をもらい、出口へ向かって歩く。

 『精霊の狩人』の奴らが、俺達を見てニヤニヤと笑っている。

 勝ち誇ったような、悪意のある笑い。

 

 俺達は絡まれる前にギルドを出た。

 もう、二度と会うこともないだろう。

 最後の最後までムカつく奴らだ。


 ◇


 俺達が工房についたときは、もう夕方だった。

 工房の窓に明かりはなかった。ククトさんたちは出かけてるのかな。


 工房に入ると、妙な違和感があった。

 壁に立てかけてあった武器や防具が無くなっている。

 テーブルや工具の位置も、朝と違う場所にある。


「ミア、何かがおかしい。戦闘準備だ」


 俺達はライトセーバーを手に持ち、いつでも戦えるよう構えた。

 

「部屋を調べる。ミアは後方の警戒を頼む」


「は、はい」


 1階を見て回るが、目新しい発見はなかった。

 そうなると2階か。


 ミアに指で階段を指し、2階へ行くことを知らせる。

 俺を先頭に音を立てないよう、階段を上がった。


「な、なんだこれ……」


 戦闘を繰り広げたような跡が、廊下の奥の方へと続いていた。


 警戒をしながら、一歩、一歩、音を出さないよう進む。

 俺の心の中で、嫌な予感が増していく。


 奥の部屋はククトさんの部屋だ。ドアの表面は大きな凹凸があり、ドアノブは壊されていた。

 俺はミスリルのショートソードを手に持ち、剣の先でドアを押す。


 ……

 

 ドアは抵抗することなく開いた。


 な、なんてことしやがる……


 心臓が荒れ狂ったように鼓動をうつ。

 苦しい。誰か止めてくれ。

 呼吸が上手くできない。

 

「きゃあああ!!」


 俺の後ろから悲鳴がした。

 後ろを振り向くと、ミアがこの光景を見て固まっていた。


「いや、いや、いやぁぁぁぁぁぁ」


 膝から崩れ落ち、両手を床についたまま泣き叫ぶ。

 

 部屋の中に、ククトさんとマルルさんの2人はいた。

 立ったまま壁によりかかるように。


 そして……


 

 二人の胸には剣が突き刺さっていた。


 

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 悲しみと怒りで頭がどうにかなりそうだ。

 目がチカチカする。視界が歪む。

 けど、今はダメだ。冷静になれ。敵がまだいるかもしれない。

 ミアもいるんだ。


「くそぉぉぉぉぉぉぉぉ! 絶対に殺す! 殺す! 殺す! 絶対殺してやる!」


 俺は叫んだ。全力で叫ぶ。

 そして、自分の頬を殴った。

 口の中に広がる血の味が、俺を少しずつ冷静にさせてくれた。


 ……ミアだ。ミアは大丈夫か。


 ミアを見ようと後ろを振り向いた時、誰かが階段を上がってくる音に気づいた。


「ミア、誰か来る」


 ダメだ。完全に心が折れている。まだ動けそうにない。

 俺はミアの前に出て、いつでも戦えるよう構える。


「おいおい、物騒だな。誰を殺すんだ?」


 ニヤニヤ笑いながらおっさんが階段を上がってきた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る