第25話 ギルドマスター

 エルフの男が口を開く。

 

「ギルドマスターのキースだ。お前たちが大鼠を全滅させたというのは本当か? 虚偽の報告は冒険者カードの剥奪になるが」


 キースと名乗ったエルフは、あからさまに俺達のことを疑った。

 

「その報告に誤りがあります。僕達は『大鼠を全滅した』とは報告していません。大鼠を300匹ぐらい倒しただけです。それから地下3階まで降りて、地上に戻るまでの間、大鼠は一匹も見ませんでした」


「……今、地下3階まで降りたといったか? 嘘をつくな。地下3階から生きて戻れるわけがあるまい」


 ミスったな。良い意味でも悪い意味でも、エルフに目をつけられたくなかったのに。

 いまさら嘘でしたと言ったら、冒険者カードを剥奪されそうだし……これは困ったぞ。

 ミアも同様の考えに至ったらしく、不安そうな目で俺を見つめてくる。


 えーい。アラクネのことも報告して、今日中に全ての魔石を売ってしまうか。

 明日から出発までの間、工房で大人しくしていれば大丈夫だろう。

 

「地下3階にはアラクネがいました」

 

「なるほど、その情報は公開していない。いいだろう。3階に行ったと認めてやる……」


 キースは、音もなく立ち上がり、無詠唱でいきなり魔法の矢を俺に向けて放った。


 ガキィィィン! 『心の壁』バリアで、魔法の矢は弾かれた。


「これがお前の実力か。職業やスキルは大したことないと報告を受けている。そうすると……装備か。お前の装備はなんだ。魔法をどうやって弾いた?」


 もしかして俺を試したのか? 一歩間違えば死んでいたぞ。

 これがギルドマスター……いや、エルフの価値観なのか。


「教えることはできません。いきなり攻撃してくる相手に、こちらの手の内を明かすのは自殺行為ですから」


「ほう、なかなか言うじゃないか。まあいい。大鼠の退治は本当のようだ。アラクネはどうした。倒したか?」


 俺は今日中に魔石を全て売ることに決めた。

 もうここには来たくない。

 

「倒しました」


「……倒したか。魔石はあるのか?」


「今は手元にありません。買い取ってもらえるなら持ってきますが」


「よし。いいだろう。話は通しておくから、この部屋に魔石を持ってこい」


 ◇


 ククトさんの工房に戻ってきた。

 俺は急いでククトさんに相談する。

 

「ククトさん、大変です。ギルドマスターに目を付けられました!」


「まあ落ち着け。何があったか説明してくれ」


 俺は、廃坑でアラクネを倒したこと。冒険者ギルドでの出来事。

 これからまた冒険者ギルトに行くことを手短に説明した。


「……わかった。すぐにこの街を出た方が良さそうだな。明後日の朝に出発するぞ。明日中に準備を終わらせる」


「すみません。僕が口を滑らせたせいで……とりあえず、冒険者ギルドに戻ります」


「気にするな。それだけワシらの作った装備が凄かったってことよ。ワハハハハ」


 マルルさんに顔を向けると、気にするなと笑顔でウインクしてくれた。

 

 出発前の準備に一週間は必要と言っていた。明日だけで終わるわけがない。

 見た目は小さいのに、本当に器がでかいな。感謝の言葉しかない。

 

 俺とミアは、ぬいぐるみのポケットから残りの魔石が入った袋を取り出し、冒険者ギルドへ戻ることにした。

 

 ◇


 ――冒険者ギルド


 受付に声をかけると、ギルドマスターの部屋に案内された。

 部屋に入ると、キースは執務机で書類仕事をしていた。

 

「遅かったな。それで魔石は持ってきたか?」


「これです」


 俺は持っていた魔石の詰まった袋を3つ、応接テーブルの上におく。


「おい。袋の中身を確認しろ」


 キースは受付の女性に魔石を確認させる。


「あ、アラクネの魔石が2つ。アラクネの幼虫の魔石が112個。ビッグスパイダーの魔石が35個、ダンゴ虫が18個です……」


 キースは受付の女性に質問した。


「今日持ってきた大鼠の討伐を合わせると、冒険者ランクはどのぐらいが適切だ?」


「アラクネはBランクの魔物です。しかも幼虫が100匹以上。これを2人で討伐したとなるとBランクが適正かと」


 キースは顎をさすりながら俺達を睨む。

 そして何かを探るように全身を見回してくる。


「お前らの装備を売る気はないか?」


「これは大切なものなので、売る気はありません」

 

「……わかった。廃坑の3階の発掘場はどうだった?」


「アラクネを倒した後、すぐに戻ってきたので調べていません」


 装備をあっさり諦めたのは意外だった。

 いろいろとゴネてくると思ったんだけどな。

 

 キースはしばらくすると突如ニヤリとした表情になった。

 そして、受付の女性に命令する。

 

「こいつらはBランクに昇格だ。あと魔石の買い取りもやっておけ」


「わ、わかりました。アレンジの皆様、おめでとうございます。昇格と魔石の買い取りの準備をしておきますので、後で窓口にお寄りください」


 そういうと受付の女性は部屋から出ていった。


「明日、アラクネのいた地下3階を調べに行け。もちろん正式なクエストとして依頼する。Bランクに昇格させてやったんだ。やれるな?」


 もうここに来るつもりは無かったのに。

 けど、断った方が面倒なことになりそうだ。

 

「調べて報告するだけでいいですか?」


「ああ、それだけでいい」


 俺達はクエストの依頼を了承し、部屋を後にした。

 帰る前に受付でギルドカードの更新。そして魔石の売却を済ませた。

 トータルで約7000ゴールドになった。

 これで旅の路銀は大丈夫そうだな。

 

 出口を向かう途中、『精霊の狩人』のおっさんが近づいてきた。


「おい。なんかすげぇ装備持ってるらしいな。どこで手に入れたんだ? 俺達にも教えてくれよ」

 

「このミスリルのショートソードのことですか? 武器屋で買ったんですよ」


「どんな魔道具がついてるんだ?」


「何もついてないですよ。よく切れるだけです」


「……ああ、よくわかったよ。ありがとな。Bランクの英雄さん」


 なんで知っているんだ? このギルド、個人情報だだ漏れなんですけど。

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