第29話 『剣聖』と『姫』
――馬車は大きな屋敷へと入っていく。
「さあ着いた。ここが僕の屋敷だ。礼儀作法とか何も気にしなくて大丈夫だよ。堅苦しいのは苦手なんだ」
馬車から降り、正面玄関へと歩いていく。
執事やメイドなどの使用人たちが、整列し出迎えてくれた。
俺達は応接室に案内された。
室内は高級感が嫌味にならないような趣味の良い家具に囲まれている。
それは、この屋敷の主に似ていた。
コンコンコン
ドアをメイドが開くと、アーサーとメアリーが入ってきた。
アーサーとメアリーが俺達に近づいてきたので、俺達も椅子から立ち上がる。
「タクマ、ミオ、轢かれそうになった子供を助けてくれてありがとう。危うくケガをさせてしまうところだった。本当にありがとう」
ミアは微笑み、首を横に振る。
「いえいえ、気にしないで下さい」
「人を守るのが僕の役目なのに、危うく傷つけるところだったからね。本当に助かったんだよ。そして、何かお礼をさせてほしい。君達はいつこの世界に来たんだい? 僕達はこっちの世界に来て、もう10年目になるかな」
少し懐かしそうな表情を見せるアーサー。
「俺達は3ヶ月ぐらい前です。ところで、どうして俺達が異世界人だと思ったんですか?」
「君達のような若さで馬に跳ねられて無傷というのは、この世界の人族では考えにくいんだ。熟練の冒険者ならまだしもね。だから異世界人と思ったのさ」
バリアを見られたわけじゃない?
嘘をついてるようにも見えないが、バーセリーの出来事が疑心暗鬼にさせる。
「この王都には情報収集? それとも生活拠点として来たのかな?」
「主に情報収集です。特に地図がほしくて」
お礼をもらえるなら地図が欲しい。
「この世界の地図はものすごく貴重なものだ。手に入れるのは難しいだろう。だが、僕は地図を持っているので見せることはできるよ」
「是非見せて下さい」
「もちろんだとも」
アーサーが笑顔でそう言うと、執事はすぐにどこからか地図を持って来た。
「地球の地図と比べると、正確性は大幅に劣るけどかなり役に立つよ」
「「おおおおお!」」
俺達はこの世界の地図を見て、驚きの声が出た。
世界地図は、真ん中に大きな大陸が1つあるだけだった。
なんてシンプルな世界。マジですか?
「はははは。大陸が1つだけなんて驚いただろ? 僕も初めて見たとき驚いたよ。他に大陸があるかどうかはわからない。誰も確かめてないからね。この世界に飛行機は無いんだ」
「なるほど。大陸中央より少し下の赤い丸、ここが王都メルキドですか?」
「そのとおり。大陸を時計に見立てると、12時から2時までが魔族の国『ゾフ』。2時から3時までがドワーフの国『ゴンヒルリム王国』。3時から9時までが人族のメルキド王国。9時から12時までがエルフ族の国『ティターニア』だよ」
これはまたとないチャンスだ。
いろいろと聞くか。
「ドワーフの国は、シラカミっていう山しか書かれてないんですね。街はないんですか?」
「そこには、霊峰シラカミと呼ばれる山しかない。霊峰シラカミの中には、『シラカミダンジョン』と呼ばれる世界最大のダンジョンがあるんだ。ドワーフ達は、そのダンジョンに住んでいるという噂だよ」
俺はエルフの国を指さして尋ねる。
「エルフの国は、緑色に塗りつぶされてますけど、すべて森なんですか?」
「この世界はエルフの権力が強くてね。エルフの情報を何かに書き残したり、口外するのは禁止されているんだよ」
さすがエルフ様だ。お国も特権階級らしい。
後は魔族の情報かな。
「魔族の街は『ゾフ』だけなんですか?」
「大きな街は、魔都『ゾフ』だけと言われている。王都以外にも少数の集落は点々とあるらしい」
「この地図を書き写してもいいでしょうか?」
ミアがうずうずしながら、アーサーに尋ねた。
「本当は禁止されているのだけど、今回はお礼として特別だよ。ただし、書き写した地図は誰にも見せないようにね」
俺達はお礼を言い、ミアに書き写してもらった。
さすがミアだ。職業が『画家』だけのことはある。
書き写した地図は、まるでコピーしたかのようだった。
ん? 職業か……この2人の職業はなんだろうか。
「アーサーさんとメアリーさんは、どんな仕事をされてるのですか?」
ミア、ナイスな質問だ!
「僕は『剣聖』として国を守っているよ。メルキド王から『剣聖』の称号をいただいてるからね。実はこの屋敷や使用人達は、すべてメルキド王が用意してくれたものさ」
「だから街で『剣聖』『姫』って呼ばれてるんですね。ということは、メアリーさんはお姫様!?」
「ふふふふ。違いますよ。あれは私達の冒険者時代の二つ名です。私も、今はお兄様と同じく国に仕えてます」
メアリーは笑いながら答えた。
この二人のステータスの『職業』や『スキル』を聞くのは止めておいた。
マナー違反なのかどうかはわからないが、初対面で『職業』や『スキル』を探るのは、『精霊の狩人』のヒロシとかいう異世界人を思い出すから嫌なのだ。
次は、シラカミダンジョンについて聞いてみるか。
「俺の職業は『鍛冶師』で、ミオは『技巧士』なんです。ドワーフの国で修行したいんですけど、行く方法とか知ってますか?」
「生産系なんだね。確かにドワーフの技術はすごい。ただ、この世界は魔道具に依存しているから、ドワーフはかなり肩身狭い状態なんだ。ドワーフも他種族を警戒しているからドワーフの国での修行は難しいかもしれないよ」
「ダメ元でも行ってみたいんです。馬車とか出てないでしょうか?」
「『シラカミダンジョン』の入り口は複数あって、メルキド王国側にも1つある。その入り口に一番近い『モーリ村』まで、馬車を乗り継いで行くのが良いと思うよ」
アーサーは、王都の馬車乗り場への行き方も教えてくれた。
「アーサーさんたちは、『シラカミダンジョン』に行ったことはあるんですか?」
「あるよ。地下3階までは敵も弱く簡単に行けるんだ。けど、そこから下は巨大な迷宮になっている。僕らが地下6階まで行ったときは半年かかったよ。食料が不足して撤退したから、地下6階より下は今でも未知の領域だよ」
ドワーフ国の王都『ゴンヒルリム』がある地下3階までは苦労せずに行けるのか。
ダンジョンを制覇するつもりはないので、全く問題なしだな。
では……最後の質問といきますか。
「バカなこと聞くようで恥ずかしいですけど、この世界は死んだら蘇生できますか?」
俺とミアの真剣な雰囲気が、全員の顔つきを変えた。
「僕の知っている限り蘇生する方法はない。ただし、この世界にはまだ知られていない魔法やスキルが存在するだろうから、蘇生は100%できないと言い切れない」
ショックを受ける必要はない。予想の範疇だ。
こうなったら、ミアが蘇生をイメージできるアイテムを探し出すだけだ。
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