第22話 完成

 俺達はどうすればドワーフの置かれている環境を変えられるか考えた。

 

「まずはドワーフの王様に僕達のことを知ってもらうのはどうかな?」


「個人でやっても無理だからな。王に相談し国として動いてもらわなければならん。それにお主らのスキルなら、王も間違いなく認めてくれるだろう」


 それからドワーフの王都へ向かう旅の計画を立てる。出発は一週間後にした。


 それまで、ククトさんとマルルさんは、工房やお店をたたむ準備。王都に持っていくものは集めて置いてもらい、後でぬいぐるみのポケットに収納する予定だ。

 俺達は新しい装備に慣れるのと、旅の路銀を稼ぐため冒険者ギルドのクエストをこなすことにした。


「あっ、先に言っておくぞ。ドワーフの王都『ゴンヒルリム』は、霊峰シラカミの麓の『シラカミダンジョン』地下3階にある。入るにはこの『ゴンヒルリム通行証』が必要だ」


 通行証というから、紙かカードのようなものを想像したが腕輪だった。

 表面は薄汚れた焦げ茶色をしているが、裏側は銀のような金属の表面に幾何学模様が彫られている。


「驚いたか? 見てわかる通り特殊な作りになっておる。これを持っていないと王都ゴンヒルリムの城門は見つけられん。ワシらは2つ持っているので、1つを渡しておく。これはワシらドワーフからの信頼の証だと思ってもらえると助かる」


 『ゴンヒルリム通行証』を持つ者は、ドワーフ族に認められた者という証でもあるらしい。


「ありがとうございます。大切にします。もちろん口外もしません」


 俺達は全員と固い握手を交わす。


 現在地もわからない地図の上に、自分の歩く先をしっかりと太い線で引かれたような気分だった。

 

 ◇

 

 ――翌朝


 俺とミアは冒険者ギルトでEランクの比較的な簡単な討伐クエストを2つ受けた。


「ミア、今日はこの新装備に慣れるのを優先しよう」


 俺達は昨日完成したばかりの装備を確認した。ミアと俺の装備は、外見以外まったく同じものだ。


【武器】

ライトセーバー 攻撃力不明

ミスリルのショートソード 攻撃力+30

強化スリングショット+強化石 攻撃力+9


【防具】

強化した旅人の服(上下) 防御力+91

強化した外套 熱耐性+10、寒さ耐性+10、耐久性+90

ミスリルの胸当て 防御力+20


【アクセサリー】

心の壁用の強化ネックレス 耐久性+92

ホワイトルーンの強化指輪 精神攻撃耐性+95

イエロールーンの強化指輪 異常耐性+95

ブルールーンの強化イヤリング SP自動回復+9

グリーンルーンの強化イヤリング HP自動回復+9


 ミスリルのショートソードと胸当ては、他の装備の目眩まし用で『改ざん』スキルによる加工はしていない。


 主力の武器はライトセーバー。

 エネルギーの刃の部分を光刃と呼び、グリップに込めたSPの量に応じて長さや威力が変わる。

 光刃を出した状態で、ドワーフの恩恵『目利き』や俺の『分析』スキルをしても攻撃力はわからなかった。


 防具は全身を隅から隅まで余すこと無くカバーできるよう長袖・長ズボンの服にした。

 マルルさんになんとか防御力を2桁になるよう試行錯誤してもらい、完成したのが旅人の服だった。


 俺の『改ざん』スキルで防御力を『11→91』にしたことで、フルプレートの鎧よりも防御力の高いチート装備になっている。


 外套は防具というよりも、暑さや寒さ対策だ。

 

 ATなフィールドの『心の壁』バリアは、当初指輪で作る予定だった。

 指輪で作るとミアの重い気持ちまで『デフォルメ』スキルで反映され、完成した指輪の重さが10キロを超えてしまったのだ。

 試行錯誤した結果、ネックレスに落ち着いた。壊れないよう俺の『改ざん』スキルで耐久性を『12→92』に変更してある。


 指輪やイヤリングは、マルルさんが担当した。

 宝石にルーン文字を刻むときに、マルルさんの『付与』スキルで特性を付け、恩恵の『加工』で強化している。各性能をなんとか2桁にしてもらい、俺の『改ざん』スキルで強化した。


 ただ、自動回復系は非常に難しく回復量+5が限界だったので、『改ざん』スキルを使っても+9にしかならなかった。回復量はHP、SPともに3分で1回復する。


 装備をあらためて見直すと、チートっぷりが半端ない。


 ◇


 ――ゴブリンが棲息する森。

 

 まずはライトセーバーを試す。


 片手でグリップを握りSPを込める。すると70センチほどの赤い光刃がブィンと音とともにグリップから伸びた。


 当初、光刃の色は青にする予定だった。赤はダークなサイドだから。

 けれど、SPを変換する『ウレック石』が赤色だったため、ミアのイメージも赤になってしまったのだ。


 まあ、カッコいいので気にしてないが。


 光刃は1回出すたびSPが1消費された。SPを強く込めるとその分SPが消費され、光刃が太く長くなった。

 SPを5消費したとき、光刃の長さは2メートルぐらい伸びる。


 SP1消費の光刃で近くの直径10センチの木を切ってみる。


 ブォン

 

 木は上下に真っ二つに切れた。手にはまったく抵抗がなかった。

 切り口を見ると焦げている。何これ怖いんですけど……


 俺達はゴブリンを見つけては、ライトセーバーの練習を繰り返した。

 少しずつではあるが慣れてきたので、次の検証へ移ることにした。


 次は『心の壁』だ。ATなフィールドである。


 丁度いいことに、棍棒を持ったゴブリンが俺の方に向かってくる。


 ゴブリンはニヤけながら棍棒を横から振り抜く。


 俺は棍棒に対して『ぶつかるなっ!』と頭の中で強く拒絶した。

 すると、俺の身体から30センチぐらい離れたところに、大きさ40センチほどの八角形をしたバリアが現れた。


 ガキィィィン という衝撃音とともに棍棒を弾く。

 ゴブリンは予想していない衝撃で体勢を大きく崩していた。


 これは実戦でかなり使えるな。

 防ぐだけでなく、攻撃のチャンスも作れる!


 『心の壁』バリアは持ち主が拒絶したとき、自動的に八角形のバリアが発生する。

 バリアの大きさや発生位置を指定しなくても勝手に防いでくれる優れものだ。

 一度バリアを作るとSPが1消費され、拒絶した事象が解決するとバリアは消える。


 バリアの強度はSP5のライトセーバーでも壊せなかった。さすがATなフィールド。

 ただし、弱点もあった。バリア同士がぶつかるとバリアは消えてしまうのだ。

 ミアが言うには、中和ってやつらしい。


 このバリアを作るとき、どのぐらいの拒絶感で発動するかの調整が大変だった。


 初期のバージョンは普通に生活していても、たまにバリアが発動していた。

 発動条件に『身の危険を感じる』を追加したことで、期待通り動作するようになった。

 ちなみに、ククトさんとマルルさんは、『心の壁』の仕組みを理屈で考えてしまいバリアを発動できなかった。

 

 この後も検証を繰り返し『ゴブリン討伐30匹:Eランク』をクリアした。


 次は、以前苦戦した廃坑の大鼠の討伐に向かう。


 これからは実戦訓練だ!


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