第23話 廃坑

 俺達は廃坑に来ていた。


 廃坑の中は蛍石で薄暗くひんやりと涼しい。

 大鼠は単体では弱いが、群れで動くため大群になるとやっかいだ。


 けれど、今回は大群との戦闘を望んでいる。

 多数の魔物と戦闘経験を積む。

 今の俺達の装備ならいけるはずだ。

 

 しばらく歩くと広い空間に出た。

 丁度そこで5匹の大鼠を見つけた。

 俺とミアはお互いに攻撃が当たらないよう、横に広がる。

 

 俺の『改ざん』スキルで光量を+9に強化した蛍石を周辺に5つ投げる。

 この強化蛍石は、以前来たときに拾ったものだ。

 薄暗かった広い空間が明るくなった。


 俺はライトセーバーを握り、ミアを見る。

 ミアはこちらを向き強く頷く。ミアも準備ができたようだな。


 ブン……


 赤く光り輝く光刃を伸ばす。

 そして、大鼠に向かって斬りかかる。


 ブーン、ブィン、ヴァン。


 焦げた匂いがした瞬間、大鼠はすぐに黒い煙となって消える。

 映画で聞いたスイングの音が心地よい。

 あのとき見た映画の主人公達と自分が被り、気持ちが猛る。


「ミア、全滅させるな。仲間を呼ばせるんだ。この場所を狩り場にする」


「わ、わかりました」


 しばらくすると遠くから大量の足音が聞こえてきた。

 広場の奥にある通路の地面を赤い目が覆う。

 

 以前なら死を覚悟しただろう。

 今はただ楽しみでしかない。


 リズムゲームのように、向かってくる大鼠を切る。

 ときには2匹同時に切り刻む。最高に楽しい。

 この大群の魔物との戦闘は、アニメや漫画で見た無双シーンを体現したものだった。


 通常であれば数の暴力には勝てない。ましてや俺は剣術の達人ではないのだ。

 剣を振った後のスキを狙われれば、防ぐことは出来ない。


 けれど、俺達には『心の壁』バリアがある。

 どんなに体勢が崩れていても、身の危険を感じ、頭の中で拒絶すれば八角形のバリアが発生し防いでくれる。

 ただし1回のバリアでSPが1減るので、無駄使いは厳禁だ。


 俺1人で50匹ぐらい倒しただろうか。少し疲れが出てきた。

 そのとき、背中に衝撃があった。大鼠の攻撃を受けたのだ。


「なぜバリアが発動しない!?」


 焦る。まさか『心の壁』ネックレスが故障したか……?

 パニックに陥りかけたとき、ミアの声が飛ぶ。

 

「今のは視覚の外からの攻撃でした。気をつけて」


 ミアは俺が攻撃された場面を見てたようだ。

 なるほど、見えない位置から攻撃されたとき、不意打ちになり拒絶の意思が働かない。

 だからバリアが発動しないのか。視覚の外からの攻撃はまずいな。


 それなら、これはどうだ。

 俺は全方位からの攻撃を警戒し、それを拒絶する。

 すると、自分を包むようにバリアがはられた。


「す、すごい。ミア、全身をバリアで包めた」


「わたしもやってみます。……できました!」


 俺達はお互いのバリアがぶつからないように、離れながら壁を背にする位置まで移動する。

 これで後ろからの攻撃の対策はできた。

 よし、戦闘の再開だ!


 ――それから1時間近く戦い続けた。


 最後の大鼠を倒し、俺達は地面に倒れるように横になった。


「もう、無理。動けない」


「わ、わたしもクタクタで動けないです……」


 HPは全く減っていない。けど、体力がゼロだ。これどうやったら回復するんだろう……ポーションじゃ回復しないよな。

 お腹も減ったので、周囲を大量の魔石に囲まれながら昼ごはんを食べた。


 不幸中の幸いか、後ろからの不意打ち攻撃を受けたときに、強化した旅人の服の性能を検証できた。

 予想とおりダメージをまったく受けなかった。さすが防御力+91だ。


 食後も少し休む。段々と動けるようになってきたので魔石を回収する。

 リュックには入らないので、布袋が一杯になったら猫型ぬいぐるみのポケットへ収納。これを繰り返す。

 びっくりしたことに、魔石の数は300個を超えていた。


 レベルはどうなった?

 俺は『なりすまし』スキルのステータス偽装を解除した。


------

名前:アライ タクミ

職業:ハッカー

状態:正常

レベル:15(New)

HP:150 / 150(New)

SP:74 / 150(New)

スキルの素:接触、文字、変更

スキル:分析、改ざん、なりすまし

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------

名前:ヤマモト ミア

職業:画家

状態:正常

レベル:13(New)

HP:130 / 130(New)

SP:58 / 130(New)

スキルの素:素材、特徴、表現

スキル:デフォルメ(改ざん)

------


 最近、レベル10で停滞していたけど一気に上がったな。ミアも喜んでいる。

 俺達は『なりすまし』スキルでステータスを偽装し直してから探索を再開した。

 

 さらに廃坑を進み魔物を探すが、見つけることはできなかった。

 あれだけの魔石の数だ。狩り尽くしたのかもしれない。

 

 そう考えながら歩いていると、下の階へと続く階段が見えてきた。

 戻るか、階段を下りるか。どうする?

 

 食料と水の心配はない。ぬいぐるみのポケットに大量に入れてある。

 正直、魔物に負ける気はしない。

 ゲーム後半のステータスで、序盤のダンジョン攻略をためらう奴はいないだろう。


 俺達は階段を下りることにした。

 

 ◇


 ここは地下3階。


 地下2階では蜘蛛やダンゴムシみたいな魔物が出没したが、俺達の敵ではなかった。

 そして、今、地下3階に下りたところだ。


 階段からは一本道しかない。進んだ先には、今まで見たこともないぐらい広い空間があった。

 周りには採掘道具などがあちらこちらに、投げ捨てられている。

 

「これはもしかすると、採掘作業しているとき魔物に襲われたのかもしれないな」


「そうですね。鉱石とかも散らばってますし」


 そのとき、上から糸のようなものが飛んできた。

 気づいた瞬間『心の壁』のバリアが発動し糸を弾く。


 天井を見ると、上半身は人型で下半身は白い蜘蛛という生き物だった。

 ラノベやゲームだとアラクネって魔物に似ているな。

 ここはヤツの巣か?


「ミア、気をつけて。アイツは強いかも」


「はい。後ろにもう1匹います。あっ、他にも小さい白い蜘蛛が沢山います」


 2匹のアラクネは、大きい方がオスで、小さい方がメスかな。

 沢山いるのは子供か? まずいな……100匹ぐらいいるんですけど。

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