第21話 4つの種族
唐突にククトさんが聞いてきた。
「タクミよ。……お主らも魔王を倒しに行くのか?」
魔王? この世界に魔王がいるのか。
初耳なんですけど……
そんな俺の顔を見てククトさんが何かに気づく。
「お主らは、この世界について全然知らんようだな…… 知らないと危険な目にあうだろうから教えよう」
ククトさんは、エールを一口飲んでから、俺とミアに目を向ける。
「まず、この世界には『エルフ』『人族』『ドワーフ』『魔族』4つの種族がいる」
魔族!? 今まで見たことないな。
「『エルフ』は、長寿で魔法に長けていて、モノを加工して魔道具を作れる。手法は秘術とされ、種族の恩恵と共に秘匿されておる。種族意識が強く、プライドも高い」
種族意識とプライドが高いのは、ラノベでも定番だな。
「魔道具は魔石を必要とするが、便利で高性能なため世界中で多く使われておる。魔道具を独占して製造販売することで、富と権力が集中しやりたい放題だな」
ククトさんの目が険しくなる。
「冒険者ギルドも表向きは違うが、実際はエルフの支配下だ。魔道具に使う魔石も取り扱うことで、あいつらは二重で甘い汁を吸ってやがるっ!」
バンッ!
縦にした拳でテーブルを叩き、悔しそうな顔をする。
「そして……自分たちを上位とした階級社会を、人族・ドワーフに広げている。この街を見ればわかるだろ?」
どうして、エルフが貴族のように振る舞い、ドワーフが貧困なのかやっとわかった。
ククトさんがエールを飲み、一息つく。少し落ち着いたようだ。
「すまねぇ。少し熱くなっちまった。次は『人族』だな。種族の恩恵はないが、全種族の半数を占めるほど人数が多い。そして異世界人は必ず人族だ。魔道具の大半を購入しているのも人族だな。良い奴も悪い奴もいるから、正直よくわからねぇ」
俺とミアを見て、ククトさんはニヤけだす。
「まあ、お主らは人族の中でも異端児だな。ワッハハハ」
「うんうん。タクミとミアちゃんはとても素敵な人族なのデス」
ククトさんとマルルさんの好意がとても嬉しい。
俺達は笑いながら、エールで乾杯した。
「そして、ワシら『ドワーフ』は、長寿でモノを作ることに長けている。だがワシらが作ったモノは、魔道具の便利さには勝てん。性能面でもワシらが作ったモノを魔道具にされて最後には必ず負けるのだ」
その後の説明はマルルさんがしてくれた。
エルフは人族の低品質のモノを安く買い、そして魔道具化して高額で売る。
ドワーフが作るものは手間がかかり、どうしても魔道具よりも高額になるため売れない。
今では、エルフに安く買い叩かれ、理不尽な注文にも応じるしかない生活らしい。
ククトさんは、嫌なことを忘れたいかのようにエールを一気に飲み干す。
「よし、最後は『魔族』だ。奴らは魔法、身体能力どちらも強い。ただし数が圧倒的に少ないのだ。全種族でみると3%ぐらいと言われておる。……そして魔道具を作れる」
「え!? 魔道具はエルフしか作れないんじゃないの?」
「魔道具は魔族も作れるのだ。正確にはエルフと魔族の魔道具は違うものだが、使い勝手は同じようなものだ。ただ、魔族は閉鎖的で他の種族と交流がほとんどない。だからエルフが独占してるのと変わらんのだ」
魔族が他の種族と交流するのをエルフは恐れているらしい。
今の階級社会が崩壊するからだ。
「『魔王』は魔族の王様ですよね。なんで僕が魔王を討伐しにいくって思ったんです? 僕がエルフと仲が良いわけでもないのに」
「不思議なことに、ほとんどの異世界人は魔王討伐を旅の目標に掲げるのだ。だからお主らもそうかと思ってな」
……確かに何も考えず魔王討伐に行く異世界人は多いかも。
ミアの最初のパーティも、間違いなく魔王討伐を目標にしてそうだしな。
「魔族は、他の種族を襲わないんですか?」
「それは無いな。あいつらは他の種族に興味がないのだ。襲われてやり返すことはあっても、自分たちから襲うことはまずないな」
「大丈夫ですよ。わたし達は魔王討伐なんて興味ないですからね~。もし討伐するならエルフの方ですよねぇ? ドワーフさん達の敵ですし。ふふふ」
ミアが笑いながら俺を見る。酔ったミアさん怖いです……
「ククトさんたちは、どうしてこの街で暮らしてるんですか? 人族の国じゃなくてドワーフの国で暮らした方が良くないですか?」
「簡単に言うと口減らしだ。ワシらの国はダンジョンの中にある。つまり王都や街の敷地は増やせず、住める人族の数にも限りがある。ワシとマルルは自分で言うのもなんだが、職人としての腕が良かった。だから外でも食っていけるので出てきたわけよ」
話を聞くと、この世界の元凶はエルフな気がするな。
そんな単純な話ではないとは思うが……
『精霊の狩人』のいつも偉そうなエルフの顔が俺の頭をよぎる。
人をバカにした態度、やっぱりエルフが元凶かもな。やっつけるか?
うーん。俺も酔っているらしい。
「……じゃあ、僕とミアのスキルで魔道具に負けないモノを作って、ダンジョンの外でも安心して暮らせるようにしませんか?」
俺は何を言ってるんだ。ガラにも無いことがついつい口から出てしまった。
発言を取り消そうと、みんなの顔を見る。
場の空気はシーンと静まり、みんな真剣な顔をしている。
「魔道具 vs アーティファクトの対決とか凄すぎデス」
「タクミ…… お主らがいればそれは夢物語ではなく、実現しそうだが…… お主らにも旅の目的とかあるんじゃないのか?」
「え? いや、ないですよ。ミアはある?」
「私もないです。みんなでワイワイとゆっくり暮らすのいいですね! エルフやっつけちゃいますか!?」
やっつけるの意味が気になるけど、まあいいか。
「じゃあ決まりだ! バカにした奴らを見返すぞ!」
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