第20話 恩恵
次は防具を考える。まず俺から意見を出した。
「武器がライトセーバーだと、盾は持ちたくないかな。個人的にはバリアみたいのが最高なんだけど」
俺は映画『星の戦争』で、盾を持った騎士を見たことがない。記憶がないだけで、実際はいたのかもしれないが。
ミアは少し恥ずかしそうに、ちょこっと手を上げた。
「あの、思いつきました。笑われそうでちょっと言いづらいんですけど……」
「さすがミアデス! ミアはセンスがあるから自信もつデス!」
マルルさんの期待が凄い。
「……ATなフィールド。心の壁ってやつです」
「おふっ。そ、それもイメージバッチリだよね」
少し吹き出してしまった。そうきたか。さすがミアだ。予想の斜め上をいく。
「ふふふっ、八角形でなんでも防ぎますよ」
笑顔でかなりノリノリ。あのアニメが相当好きなんだろうな。
「おいおい、ワシらにも教えろ」
ここでもククトさん達を置き去りにしてしまった。ごめんなさい。
俺達は『心の壁』のバリアについて説明した。
「ワシらにはさっぱりわからん……」
実際にアニメを見た俺も理解が怪しいのだ。俺達の説明で理解してもらうのは無理だろう。まあ、ミアさえイメージできればなんとかなるから、話をすすめるか。
「身につけられるモノで、強烈に心の壁を感じられるモノ。何か思いつく?」
「……プロポーズして断られた婚約指輪とか。想像しただけで少し涙がでそうです」
「……たしかに、それならいけそうだけど、かなり重いね」
詳細については、作るとき試行錯誤することになった。
バリア以外にも実際に着用する防具も必要だ。
それについては既にアイデアがあった。
冒険や街歩きでも使える服を『改ざん』スキルで強化する。
そうすれば軽くて疲れない。けど鎧よりも防御力がある防具になる。
俺の『改ざん』スキルは、ステータスを1文字しか変更できない。
1桁では、最大でも防御力が9にしかならないから、防御力が2桁の服を作ってもらうか。
「ククトさん達は、作ったモノの性能ってわかるんですか?」
「ああ。わかるぞ。我々ドワーフの恩恵だ。ドワーフの恩恵は3つ。『鍛冶』『加工』『目利き』だ」
それぞれの効果について教えてくれた。
『鍛冶』 金属を鍛錬して製品を製造する。
『加工』 手を加えて性能を強化する。
『目利き』 物の価値、真偽などを見分ける。
「おおおおっ、すごい能力ですね!」
恩恵はドワーフ族なら全員が得られる。職業の固定スキルは、恩恵とは別に得られるらしい。
ちなみに、ククトさんの職業は『上級鍛冶師』でスキルは『錬成』。マルルさんは『上級技巧師』でスキルは『付与』だ。
『錬成』は金属の強度や質を上げる。『付与』はその素材に合う特性を追加出来るそうだ。
その後も装備のアイデア出しはお昼まで続き、俺達の装備は決まった。
・ライトセーバー
・心の壁バリア用のアクセサリー
・冒険や街歩きでも着られる服の上下
・毒耐性、麻痺耐性、精神攻撃耐性のアクセサリー
製作に必要な素材は、ククトさんとマルルさんが持っている素材で足りるらしい。
本来なら希少な素材が沢山必要だけど、俺達のスキルを使って素材を用意した方が、はるかに高性能になると言われた。
それから二日間、工房にこもって装備を作り続けた。
◇
「で、出来たぞ。やっと全て完成した。も、もうダメだ。ワシは寝るぞ……」
「わ、ワチも、もう無理。ほぇ……」
ククトさんとマルルさんは、そう言うと床やテーブルで寝てしまった。
「私ももう無理です。目がもう開けてられない……」
ミアも寝てしまった。
この3人は素材作成から鍛冶に加工と、試行錯誤をひたすら繰り返していた。
俺は『改ざん』スキルとミアのイメージ作りのお手伝いぐらいしかしていない。
わりと元気だったので、みんなが起きたときに、完成祝いができるよう酒や食料の買い出しに行くことした。
――夕方
俺が打ち上げ用の料理を作っていると、みんな目を覚まし始めた。
「ん? なんかいい匂いがするデス……」
「料理してくれてたんですか?」
「はい。これから装備完成の打ち上げしようと思って。だからテーブルの上片付けてくださいね」
俺とククトさんは掃除。ミアとマルルさんは料理やお酒の準備をした。
――全員が席につく。
ククトさんの合図で乾杯し、自然にお互いを褒め称え合う。
俺は日本に居た頃、会社の飲み会は好きじゃなかった。会社や仕事、上司への愚痴ばかりで苦痛だったからだ。
けれど、この飲み会は最高だ!
ククトさん、マルルさん、そしてミア。
出会ってからたった数日しか経っていないけど、俺の人生の中で最高の仲間達だ!
疲れのせい? 酔いのせい? 異世界で自分の居場所を見つけられた安心感?
理由はわからないが、俺はとても感傷的になっている。
けど、今はそれがとても心地よかった。
みんなも同じ気分なのか、暖かい空気が場を包み静かになる。
そんな折、唐突にククトさんが口を開く。
「タクミよ。……お主らも魔王を倒しに行くのか?」
――――――――――――――――
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