第8話 異世界人の評判

 ――翌朝


 宿屋の食堂で水と簡単な食べ物を買った後、ゴールドを稼ぐため魔物狩りに出かけた。


 『改ざん』スキルで攻撃力を9に上げた強化石は凶悪だった。


 稀に革の鎧や木の盾を装備しているゴブリンと遭遇するが、強化石は防具を貫通し一撃で屠るのだ。

 遠距離攻撃のみで倒せるため、危ない場面は今のところなかった。


 ただ強化石にも弱点はある。

 4~5回投げると割れるのだ。攻撃力を強化しても、耐久力は強化されないみたいだ。


 俺の『分析』スキルの効果は、「ステータス対象に触れて情報を取得する。取得した情報は表示できる。対象に触れている時間が長いほど詳しい情報を取得できる」


 対象との接触時間を長くすれば、どんな情報でも表示できそうだな。


 気になったので『分析』スキルで、を意識してステータス画面を表示する。


------

名前:強化石

状態:普通

攻撃力:+9

耐久力:+3

------


 ……できた。マジ万能なんだが。


 試しに『改ざん』スキルで耐久力を9に上げた。『改ざん』スキルは1文字しか変更できないので、攻撃力が改ざん前の1に戻った。


------

名前:強化石

状態:普通

攻撃力:+1

耐久力:+9

------


 強化石は確かに割れづらくなったが、攻撃力が1なので魔物にダメージをほとんど与えられなくなった。


 『改ざん』スキルはとても強力だが、1文字しか変更できない不便さがあるな。


 俺は今まで通り攻撃力をあげるスタイルでいくことにし、夕方になるまでコブリンを狩り続けた。


 ◇

 

 村に戻り、そのまま冒険者ギルドへ行った。

 

 ギルドの中に入ると、ギルドマスターのハンナさんと1人の男が話していた。


「おっ珍しい。見たことない顔だな」


「ハリーさん、この子は異世界人だよ。昨日来たのさ」


 ハンナさんは俺のことを冒険者のハリーさんに紹介してくれた。

 ハリーさんは、5年前の異世界人ケンさんに冒険者のノウハウを教えていたらしい。


 ハリーさんが食事に誘ってくれたので、一緒させてもらうことにした。


「食事の前に魔石の売却だけさせてください」


 リュックをハンナさんに渡し、魔石の買い取りをお願いした。

 

 ……魔石を見たハンナさんと、ハリーさんが固まっている。


「昨日も驚かされたけど……これあんた1人で倒したのかい?」


「タクミ、どうやったらこんなに倒せるんだ?」


 二人は驚いていたようだ。


 俺は魔石売却として515ゴールドを冒険者カードに記録してもらった。


 まだ、驚きが冷めていないハリーさんと一緒に、食堂へ向かった。


 ◇

 

 食堂に着くとハリーさんが俺の分もあわせて注文してくれた。


「タクミは何歳なんだい?」


 日本の頃の情報を晒したくない。

 今の容姿は背が低く童顔なので15歳ぐらいの設定でいけるだろう。

 

「僕は15歳です、5年前に来た異世界人のケンさんは何歳だったんですか?」


「ああ、ケンはここに来たときは25歳っていってたような…… 今は30歳ぐらいじゃないかな」


 この世界に転生されたときの年齢はバラバラってことか。


 そんな話をしていると食事と木のジョッキに入っているエールが運ばれてきた。


 ハリーさんと乾杯し一口飲む。この世界のエールは、ビールよりも濃厚な香りでコクが深かった。

 贅沢を言わせてもらえば、冷えたビールが飲みたくなる。


「ケンさんってどんな冒険者だったんですか?」


「ケンは薬師になったよ。薬草を集めポーション作って売る。この世界に来る前にも薬を作ってたらしいぜ」


 なるほど、転生前は薬剤師だったのかな。スキルの素はなんだったんだろう、他人のスキルの素って気になるな。


「ケンさんのスキルの素って、ハリーさん知ってます?」


「タクミよ。この世界ではスキルの素を聞きまわると危険だぞ。最悪殺される」


「殺される!?」


「そうだ。スキルの素と職業がわかれば、どんなスキルがあるか予想がつくからな。おまえを前にして言いづらいことだが、異世界人はやばい連中が多い。すぐ強くなるからな。傲慢になってやりたい放題だよ」


 異世界人の行動は容易に想像できる。


 俺はたぶん大丈夫なので、安心してください。


 ハリーさんからは、この辺の地理についても教えてもらった。


 この国はメルキド王国。

 王都はここから東にあり、王都に近づくほど街はどんどん大きくなっていく。


 特権階級は貴族という存在はなく、王族だけだ。

 各村や街には、それぞれの住民が長を決め運営していて、1年に1回税金を王国に収めている。

 その代わり、魔物が増えてきたときは王都の兵士が討伐してくれるらしい。


 そしてこのロゼッタ村は、王都から西にある。ここから西に進むと、未開拓な森で魔物しかいないらしい。


 だから、ロゼッタ村の異世界人は、この村を出たら東に2日ぐらい歩いたところにある『バーセリー』という街を目指す。


 俺の次の目的地は『バーセリー』になりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る