第9話 一泊二日の旅
ハリーさんと食堂で別れ、転生してきた部屋に戻って来た。
この世界にいる一部の転生者達は、かなり好き放題しているらしい。正直その気持はわかる。
急に『おれ強ぇぇぇ』になり、警察もいなければ法律もない。
いや、存在しているかもしれないが、異世界という場所、つまり他人の世界なので何してもいいという発想になるんだろう。
やはり、当面の一番危険な敵は魔物ではなく理不尽な異世界人だな。
バーセリーへ行くなら何か対策が必要かもしれない。
そうだ、ハリーさんと話していて思いついたことがあったのだ。
俺は着ている服の色を『分析』スキルで表示した。
『服の色:白、生地:麻』
ここからだ。
職業のハッカーを意識して、ステータス画面の『文字』を偽った情報に『変更』する。
服のステータスの表示だけ『服の色:黒、生地:絹』と偽るようイメージした。
――3分間イメージし続けると、俺の頭の中で何かを閃いたような感覚がした。
布を見ると白く生地は麻のままだったが、ステータス画面の文字は『服の色:黒、生地:絹』に変わっていた。
よし! 成功した!
早速ステータスを確認。
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名前:アライ タクミ
職業:ハッカー
状態:ほろ酔い
レベル:5(New)
HP:50 / 50(New)
SP:41 / 50(New)
スキルの素:接触、文字、変更
スキル:分析、改ざん、なりすまし(New)
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よし! ステータスに『なりすまし』スキルが追加されていた。
『なりすまし』:ステータスの表示内容を偽りの情報に変更できる。
このスキルは、『改ざん』スキルと違って文字数に制限がない。そのかわり、変更されるのはステータス表示の内容だけで、実際の性能には何も影響しない。
俺は早速『なりすまし』スキルで自分のステータスを偽装してみた。
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名前:アライ タクミ
職業:投手
状態:ほろ酔い
レベル:5(New)
HP:50 / 50(New)
SP:41 / 50(New)
スキルの素:投げる、曲げる、落とす
スキル:ピッチング
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とりあえず、侮られ過ぎず、警戒もされ過ぎないような職業とスキルにした。
これで、もし鑑定系のスキルでステータスを見られても騙せるだろう。
もちろん、冒険者カードの職業欄も投手に変えてある。
これで異世界人と会うための準備は整った。
明日、隣街のバーセリーへ行こう。
◇
――翌朝
まずは鍛冶屋に行き、ナイフを購入した。
そのあと道具屋でローブ、外套、腰袋、ゴム、ポーション2本と旅に必要な備品や食料品を購入。朝食を食べたら、手持ちのゴールドは無くなった。
ハンナさんにお礼とお別れをするため冒険者ギルドへ向かう。
「これ借りていた装備です。数日でしたがほんとに助かりました」
「ああ、役に立ったんなら良かったよ。気をつけて行くんだよ」
馬車での移動を勧められたが、2日ぐらいの行程なので1人で魔物を狩りながら行くことにした。
さてと、装備の確認だ。
まずは武器、ナイフは武器としてではなく便利なので持っているだけ。
メイン武器はスリングショット、またの名はパチンコだ。Y字の丁度良い形の木を探し、木にゴムを付けた自作の一品。
それぞれ『改ざん』スキルで強化する。
ナイフは攻撃力を3→9、パチンコの木の部分は耐久力2→9、ゴムは伸縮性2→9、スリングショットの弾となる小石は攻撃力1→9。
照準を合わせるために、木に向かって試し打ちをしたが、直径10センチの木の幹を貫通した。予想を上回る威力だった。
強化石は、SPが回復したら作成し腰袋に入れていく。弾とスキル経験値が得られて一石二鳥だ。
防御に関しては、ローブを選択。
ローブは着る丈の長いゆったりとした外衣だ。ゲームだと魔法使いがよく着ている。
鎧と違い全身を隙間なくカバーしてくれるのが選択した理由だ。
ローブは『改ざん』スキルで防御力を4→9にした。
外套は環境や状況により使い分ける。普段は耐久力を9にし、暑ければ遮熱力9、寒ければ断熱力を9に付け替える予定だ。これで旅は快適になるハズ。
他のアイテムも、SPが貯まれば『改ざん』スキルによる強化を繰り返しながら、バーセリーへと歩き続けた。
――夕方
ロゼッタ村とバーセリーの街は道で繋がっているので、迷うことはなかった。
歩いていると草が刈られ、整地された場所が見えてきた。あれはハリーさんから教えてもらった野営地だ。街や村をつなぐ道には、野営地があるらしい。
俺は地面から膝ぐらいまでの高さに伸びている金属の柱を見つけた。ハリーさんの話だと、結界柱と呼ばれ魔石を入れると簡単な魔物除けの結界が張れるらしい。
結界柱の穴にゴブリンの魔石を3つ入れると、ヴゥゥゥン……という音とともに薄い光の膜が半円球に広がる。
これで完全とはいかないまでもひとまず安心だ。
俺は焚き火を起こし、小さな鍋に干し肉と水を入れ火であたため簡単スープを食べて次の日に備えた。
◇
朝になり、昨日と同じようにバーセリーの街へ向けて出発した。
お姫様や貴族の娘を乗せた馬車が、盗賊や魔物に襲われているイベントを期待していたのだが……そんな期待は裏切られ、お昼にはバーセリーの街に着いてしまった。
バーセリーの街にこのまま入るには懐事情が寂しいので、夕方まで魔物狩りをすることにした。
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