第18話 ゴブリン・スレイヤー

 校庭をあらためて見渡すと、倒れた生徒で埋め尽くされていた。

 倒れた生徒たちが次々と淡い光を放って消えていく。

 彼らは死んだのだろうか。

 死体が残らないと言っても、血痕が消えることはなかった。 


 恐怖や怒りは感じない。非現実感の方が強かった。

 感覚が麻痺しているのもしれない。


 白皇先輩たちのところへ戻ろうとしたとき、小鬼ゴブリンの姿を発見してしまった。


 二匹だ。

 緑色の肌に生徒たちの返り血が大量にこびりついている。


 二匹の小鬼ゴブリンは、円陣状に立っている生徒たちを襲っていた。

 生徒のなかには槍を構えた藤堂先輩の姿も見える。


 校庭を見渡したかぎりでは、その二匹が最後らしい。

 小鬼ゴブリンは槍を突き出したり、飛び跳ねたりして、挑発をしていた。

 円陣を崩そうとしているのだろう。


(ああ、こいつら臆病なんだな)


 円陣状に構える敵に対して、突撃する勇気がない。


 僕は小鬼ゴブリンの背後からそっと近寄っていく。

 藤堂先輩は僕の存在に気づいてくれたようだ。

 僕のやろうとしていることを瞬時に理解してくれて、小鬼ゴブリンの挑発にのったようなそぶりで、注意を目前に集中させてくれた。

 あとはタイミングを合わせるだけだ。

 小鬼ゴブリンの背中を槍でぶっ刺す。

 槍が貫通しても暴れるので、こいつも持ち上げることにした。

 小鬼ゴブリンの姿が淡い光を放って消える。僕はまた尻もちをついた。頭から小鬼ゴブリンの血をかぶって。


 もう一匹が激怒して走り寄ってきたけれども、円陣の生徒たちが挑発するものだから、あっちを振り返り、こっちを振り返りしているうちに、僕に背中を見せることになった。

 そいつの背中にも槍をぶっ刺す。今度は尻もちをつかずように踏ん張ったけど、頭から小鬼ゴブリンの血を浴びることに変わりはなかった。


 正直言って、僕以外の誰かが、同じ方法で小鬼ゴブリンを殺すことができたはずなのだけど、みんな頭から小鬼ゴブリンの血を浴びるのは嫌だったらしい。まあ、僕の髪も顔面も小鬼ゴブリンの血だらけなので、そういうのは僕だけで十分だったということだろう。それはそれで分かるけど、気分的にはムッとした。


「すまなかったな、ショータ。ありがとう!」

 藤堂先輩が爽やかに言ってくれた。まあいいや。


 藤堂先輩たちが、円陣状になって、小鬼ゴブリンと対峙していたのは、円陣のなかに戦えない生徒たちがいたからだった。

 そういう理由でしたか……


 それから、次々といろんな人に感謝やら賞賛やらをされたけど、僕は今すぐにでも小鬼ゴブリンの血で染まった顔と髪を水で洗い流したかったし、何より寝不足と疲労からくる眠気で自分のベッドで休みたかった。この世界に僕の家があればだけど……


 藤堂先輩がタイミングを見計らってみんなから僕を解放してくれたので、水飲み場に行けることになった。


 待て待て。

 パトカーに槍をぶっ刺した小鬼ゴブリンはどうした?

 あいつらが学校に侵入していないとすると、小鬼ゴブリンはまだ全滅してないことになるんじゃないか?


 水飲み場からの帰り道にそんなことに気づいてしまった。


 嫌だったけど、とりあえず校門まで偵察に行く。

 あいつらがいても、また逃げればいいし。


 恐る恐る物陰から校門を覗くと、誰もいなかった。

 僕か藤堂先輩たちの誰かがやっつけた小鬼ゴブリンのなかに奴がいたのだろう。ざまあ。


 さて。白皇先輩と春日くんに会いに行こう。

 もしかしたら春日くんが白皇先輩をおんぶして体育館のほうに避難してるかもしれないけど。


 あれ? なんか違和感があるぞ。

 槍がない。

 ぶっ刺さっていた槍が全部ない。


 ヤバい。槍の数が合わない。


 僕は校庭に走った。

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