第13話 小鬼《ゴブリン》との対決
『奴ら』は緑色の肌をしていた。
爬虫類のような鮮やかな緑色ではない。
黒ずみ薄汚れた暗い緑色だった。
小柄な体躯だ。
見たところ、150センチ前後だろうか。
腹が出てガニ股の身体には腰蓑ひとつしか着けていない。
鼻梁は高く突き出て、眉骨は太く隆起し、眼窩は深く窪んでいる。
眼球は半ば剝き出しで、白目は充血して赤く、瞳の色は濁った暗い赤色だった。
尖った耳にも、鼻や唇にも、鈍く光るピアスをつけ、全身には奇怪な文様のタトゥーを入れている。
僕の眼前には『奴ら』の一匹がいた。僕を最初の獲物にしようとしているようだ。
『奴』は嗤った。
黄色い歯が見えた。犬歯のかわりに鋭い牙が生えている。
呆然と立ち尽くしている僕を見ながら、槍の穂先をゆるやかに上下させた。
嗜虐的な愉悦からか、牙のある口から赤黒い舌を出し、涎を垂らしている。
(なぶり殺しにされる……!)
僕は直感したが、足は震えるばかりで、動かなかった。
背後でうめき声とも悲鳴とも聞こえる声がしたのはそのときだ。
とっさに振り替えると、そこに尻もちをついた男子生徒がいた。
ズボンの股間が失禁で黒くなっている。
彼は僕の背後を指さして、絞り出すような声をあげた。
「ゴ、
やはりそうだった。
そう思ったのは僕だけではなかったようだ。
僕はこいつに似た生き物をよく知っている。
作品によって容姿も能力も違うが、だいたいが雑魚扱いをされるモンスター……魔物だった。
はッと我に返ると、僕は男子生徒を怒鳴った。
「早く逃げろ! 校舎まで走れ!」
相手が
醜悪な恐ろしい外見に恐怖を覚えたが、雑魚モンスターだとわかれば、立ち向かう気力も出てくる。
男子生徒は転がるように走り出した。
槍が僕に突き出されたが、かろうじて避けた。
武器をもった相手と対するのは初めてだ。
恐怖心は身体の芯を凍らせた。
震えが止まらない。
「そいつがナイフを取り出したんで全力で逃げた|(笑)」
中学時代の級友が言っていたのを思い出す。
相手が武器を持っているか持っていないかでまったく違う。
逃げ出したくなるのは本能的なものだ。
いまさら逃げたところで、
(どうする? どうする? どうする?)
僕は必死に頭を働かせた。
槍だ。
あれを何とかできないか。
槍を突き出すふりをして、僕が大袈裟に避けるのを楽しんでいる。
そこに隙があった。
突き出された槍の柄をつかんだ。
掌は汗だらけだったが、しっかりと握りしめる。
これでこいつから槍を取り上げるだけだ。
槍さえ手に入れば、立場は逆転する。
え。
僕は凄い勢いで吹っ飛ばされた。
やつの手には槍。
僕に手には何もなかった。
僕はやつに吹っ飛ばされたのだ。
やつは見かけ以上の筋力を持ち主だった。
雑魚どころではない。とんでもない怪物だった。
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