第12話 ゴブリン襲来

 校庭からはアコースティックギターと歌声が聴こえてきた。

 誰かは疑問の余地もない。


 元・生徒会長、佐田正志先輩だ。


 入学式のときも歌で祝ってくれた。歌が素晴らしいのはもちろん、曲の合間のMCも楽しかったのを覚えている。

 僕のような転入組は戸惑いもしたけど嬉しかった奴が大半じゃないかな。


 歌は古いフォークソングで、僕はよく知らなかったが、佐田家では三代にわたってそのアーティストの大ファンなんだそうだ。


 佐田先輩の声はよく通って校庭中に響き渡っていた。

 まるでコンサートだ。

 歌い終わると、整列からは拍手や指笛が湧き起こった。


 佐田先輩は、先生たちが校庭に現れるのを見て、ぺこりと頭を下げてから朝礼台から降りた。

 入れ違うように校長先生が登壇する。

 校長先生は長い前置きをしてから、これから警察がくること、何かの事件が起こったわけではないこと、驚いて整列を乱さないこと、担任の先生の誘導に従うこと、などを話した。

 

 パトカーのサイレンの音を聞こえてきた。三台だ。機動隊の姿はまだ見えない。


 校門の方を見ると、そこには“水中”にいるかのような光景が広がっていた。


 パトカーからはこの“水”が見えないのだろうか?

 校内からしか見えないとしたら、この学校だけが転移の対象になっている可能性はないだろうか?

 

 生徒たちは、ついに陽炎の“海”を見てしまった。もはや上から見ている感じではない。完全に“水没”していた。

 校庭にざわめきが起こる。


 景色が一変した。

“森”だ。

“森”が学校を囲んでいた。


 まるで水底に“森”があったかのようだ。


 三台のパトカーからはそれぞれ一人ずつ警官たちが降りてきた。

 戸惑ったように周囲の“森”を見渡している。

 車内に残った警官たちが無線に怒鳴っているのが見えた。


 飛来してきた槍が警官たちを貫いた。

 警官たちが血しぶきを上げて倒れる。


 車内に残った警官たちにも槍は襲い掛かった。 

 パトカーのフロントガラスを貫いて、警官たちの身体に深く突き刺さる。

 

 パトカーが淡く光りながら消えた。

 血塗られた槍だけが地面に突き刺さっている。

 

 惨劇を目にして、校庭から悲鳴が上がった。怒号のような悲鳴だ。走り出す者、しゃがみ込む者、立ち尽くす者。整列が崩壊した。


 僕は逃げることも忘れて、地面に突き刺さっている槍を見ていた。

 警官たちの死体がない。

 血痕だけを残して消えてしまったようだった。


『奴ら』が“森”から現れた。野太い槍をもっている。


 20匹はいただろうか。


『奴ら』は甲高い雄叫びを上げて校内に乱入してきた。

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